召し使い様の分際で

月齢

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第14章 アーネストvs.令嬢たち

双子の(貞操の)危機からの~青月キレッキレ

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 何かの物音で、青月は目をさました。
 すでに日の落ちた室内は、暖炉の炎がうっとおしいほど明るく感じる。

 ――いや、違う。
 暖炉の明かりだけではない。
 いくつもの燭台に火が灯されている。
 先刻ハグマイヤーに言って、すべて消させたはずなのに。

 そういえば、何の音で起きたのだったか。
 青月の思考が少しずつ覚醒してきた。
 せっかく、ひどい頭痛を眠りでごまかしていたのにと腹立たしい。

「……ねえ、お目ざめになっていない?」
「どうかしら。それより早くしてちょうだいな、待ちきれないわ」
「待って……。もう、いやだわ。そんなに見ないでくださらない?」
「いいじゃない、お互い様でしょう?」

 くすくすと、耳障りな忍び笑い。
 青月はそこでようやく、むっちりした肉の質感を下半身に感じた。
 獣化を解いたまま素っ裸で転がっていたあいだに、無礼にも誰かが自分に乗っかっている。

 柔らかな内腿と、股間の谷間の形状は、アーネストと出会って以来ご無沙汰していた女性器だ。以前は何の疑問も持たず、何の感慨もなく、数え切れない女と躰を重ねていたから、すぐにそれとわかる。

 アーネストという、身も心も愛おしい存在と出会ってからは、彼以外には何ら性的な魅力も興奮も感じない。
 それどころか今、青月は、ひどい嫌悪感に全身を粟立たせている。獣化していればすべての毛が逆立っていただろう。

「はあ……青月様。こうなる運命だったのですわ……」

 熱い手が、青月の屹立したものをつかみ、己の狭間へとあてがっている。
 とろりと漏れ出た液体が、青月の性器を伝い落ち――青月はその感触にゾッとして、鉛のように重い躰に鞭打ち、女の躰を突き飛ばした。

「きゃああっ!」
琅珠ロウジュ様!?」

 荒い息で肘をつきながら、どうにか頭を上げた。
 視線の先には、カエルのように両脚を広げて引っくり返った女と、その女と青月を焦ったように見比べる女。どちらも全裸だ。

 ちょうど燭台に照らされる場所にいるおかげで、女たちの正体がわかった。
 無様に股をおっぴろげているのは、アルデンホフの娘の琅珠。
 見物していたのが、弓庭後ユバシリの娘の久利緒クリオ

「なんだてめえらは。なぜここにいる」

 ハグマイヤーは何をしているのだと怒りが湧いてきて、唸りながら問い質した。
 意識は少しずつはっきりしてきたが、相変わらず躰が重い。これはおそらく、薬物を盛られている。
 寒月の馬鹿もきっと、同じ目に遭っているのだろうと、青月は頭の隅で思った。

「せ、青月様……わたくしたちは」

 口ごもる久利緒に代わり、ようやく脚を閉じた琅珠が答えた。

「おぼえていらっしゃらないのですか? わたくしたちは殿下に招かれたのです。繁殖期に入ったので、相応しい相手と番いたいと、使いの者を寄こされたでしょう?」

「俺が……?」
「そうですわ」

 久利緒もガクガクと首肯している。

「俺が……」

 痛む額を押さえていると、じりじりと二人が近づいてきた。

「落ち着いてくださいませ、青月様」
「わたくしたちは昔から定められていた、あなた様の妻。この身をいくらでも捧げます。どうぞお好きになさって」
「わたくしたちなら存分に、子種を受け止められますわ。所詮、虎同士でなければ、まともな夫婦生活など営めないのです」

「虎同士でなければ、まともな夫婦生活を営めない……?」
「そうですわ。まして虚弱な人間には、荷が重すぎましょう」

 アーネストはあんなにもけなげに、自分たちを受け入れてくれたのに?

 自分の躰が弱いことに引け目を感じて、それだけに、マルムの助けを借りて愛し合えると知ったときには、ひどく恥じらいながらも、心から喜んでくれていた。
 全身全霊で、自分たちを愛していると伝えてくれた。
 
 アーネストにしてみれば、セックスが命懸けなのは間違いないだろう。
 だが彼の躰が弱いからといって、まともな夫婦生活ができないだなんて、そんな愚かなことは絶対に言わせない。
 アーネストの努力と無垢な愛情を、見下すなんて許さない。
 そんなことを言う奴も、絶対に許さない。

「――どけ! この汚れたクソ女どもが!」

 グオオ! と腹の底から吠えると、琅珠たちは悲鳴を上げて飛び退いた。
 驚愕と恐怖を浮かべた顔に、吐き気をおぼえる。
 青月は彼女たち相応しいと思う言葉を、片っ端から叩きつけた。

「誰の許しを得て俺に触れている、淫乱の腐れ女どもが! いつもの令嬢としての気取った顔はどこへ行った!? 俺にまたがって腰を振れば王子妃になれると、本気で思ったのか、そんな愚かで腹黒いゴミ溜めが王子妃になるなど、とんでもない!」

「青月様……そんな、ひどい」
「わたくしたちは、青月様のために」

「てめえらの欲望のためだろうが! どろどろした股間を人に押しつけて勝手に盛るなんて、恥ずかしくないのか? もう獣人やめてケモノになってしまえ! てめえらに俺の子種をくれてやるなんて、金輪際ありえねえんだよ!」

「あ、あんまりなお言葉です、青月様……っ!」

 わああと泣き出した女たちの足元に、青月は唾を吐きかけた。

「楽しそうに男の股間で遊んでおいて、今さらしおらしく装っても無駄だ。反吐が出る。その腐ったトマトみたいな乳と魔物の口のような股間をしまって、今すぐ俺の前から消え失せろ。
 いいか。てめえらがどれほど画策しようと、アーネストの足元にも及ばない。あいつには手を出すなよ……あいつを傷つけたら、肉片にして城門前にぶちまけてやるからな……!」

「ひっ……!」

 ぴたりと泣き止んで――涙が出ていたようには見えないが――悲鳴を上げた女たちは、すごい勢いで衝立の向こうへ飛び込んだが。
 力を使い果たして、再びぐったりと横たわった青月に、

「諦めません……!」
「青月様もきっと、目をさますときが来ます」

 粘着質な言葉を残していくことも忘れなかった。
 まったくもって虎の女の気の強さは計り知れない。
 青月の頭痛がひどくなった。
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