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第12章 マルム茸とは
授かるには、
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「おお、食おう食おう!」
ガシッと僕の腰を抱いたまま、寒月が桃マルムを持った青月を手招いた。
「ちょっ! そんないきなり!?」
焦って離れようとしたが、ビクともしない。
うん知ってた。僕が非力だということは。
だがしかし! 双子のペースに乗せられてはいけない!
「待て待て! 待ちたまえ、きみたち!」
「何だよ」
「もう少しこう、疑問とか葛藤とか無いのか!? どうしてそんな簡単に信じちゃうのさ!」
双子はきょとんとして、綺麗に左右対称に首をかしげた。
「だってなあ。俺たちだって相当なもんだし。人が虎になるんだぜ?」
「あ」
確かに、その通りだった……獣人の国なんて、神秘の生きものだらけじゃないか!
青月もうなずきながら、まじまじと桃マルムを見つめた。
「それにマルムの常識外の働きなら、すでに何度も見てきたしな」
くっ。
双子め。いつも無茶苦茶なくせに、こういうときばかり正論を。すっかり双子のペースだ。
青月は桃マルムと僕とを、交互に見つめた。
「……けど……」
何か言うのかと思ったが、そのまま黙って、銀色の睫毛を伏せる。
僕の腰を抱く寒月の横顔にも、隠しきれない影が差した。
双子め。
いつも遠慮なく物申すくせに、僕のこととなると気を遣ってくれちゃって。
二人が口にせぬまま呑み込んだ言葉は、なんとなくわかっている。
『アーネストは?』
ジェームズの手紙には、ユージーンさんが子を授かったことと、その子が次のウォルドグレイブ家当主になったことは書かれていた。
けど、ユージーンさんのその後については触れられていない。
――長生きして、愛する伴侶と末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
……という結末ではないから、あえて書くことをしなかったのだろう。
その辺の覚悟は、僕とジェームズのあいだでは暗黙の了解。
ジェームズはウォルドグレイブ家当主が負う宿命に対して、下手な慰めは言わない。けど、諦めもしない。
長年一緒にいたから、彼の姿勢はわかっているし、この手紙にもそういう想いが込められているのだろうと、僕にはわかる。
でも双子は少なからずショックを受けたみたいだ。
子供を授けるほどの奇跡を起こしたマルムなのに、ユージーンさんの宿命は変えられなかったのかと。
たぶん子供を授かることより、僕個人の朗報を望んでくれているんだよね。
だけど僕が喜んでいるのに、悲しませるようなことを言いたくないんだ。
……ありがたいな。
こんなに愛情深い人たちから、めいっぱい愛してもらえて。
隣に腰を下ろしたまま、桃マルムを見つめてぼんやりしている青月へと手をのばした僕が、彼の手から桃マルムを取り上げると。我に返った青月が、戸惑ったように僕を見た。
両隣の双子へ視線を流してから、僕はさくりと桃マルムをかじる。
双子が息を呑む気配がした。
「――美味しい……!」
まさに桃! 蜜が滴るような甘さと瑞々しさに、絶妙な歯ごたえ。爽やかな余韻が口いっぱいに広がる。
あまりの美味に、我ながら弾んだ声が飛び出した。
「二人も食べてみて! すっごく美味しいよ!」
「「……いいのか?」」
低く問うてくる声に、激情が潜んでいた。
心の内で怯んだけれど、すでに寒月は僕の手ごと自分の口元へと引き寄せて、桃マルムにかぶりついた。
「……うっま。見た目に反してめっちゃ肉じゃん!」
「え?」
目を丸くする僕の手は、今度は青月に掴まれて。
綺麗な歯列が、さくっと桃マルムをかじる。
「ほんとだ。死ぬほど腹へってるときの極上の肉味」
「それな!」
それか?
「桃の味じゃないの?」
「桃ぉ!?」
「いや、肉の味だ」
「桃だよ」
「だったら食ってみりゃわかる」
「もう食べたじゃないか……って、うわっ!」
いきなり寒月が、腕力だけで僕をすくい上げ、自分の膝の上に乗せた。
彼の太腿をまたぐかたちになって、カアッと頬が熱くなる。
凛々しい眉の下のタレ目が、魅力的な笑い皺を刻んだ。
「赤くなってる。確かに桃かもな」
「僕はマルムじゃない」
「そうか? 食って確かめてみよう」
チュッと食むように頬にキスされて、抗議しようとした口をふさがれた。
「んん……ッ」
自在に動く舌が、少しずつ歯列を割って侵入してくる。
自然、深く浅く絡めとられて、応えるほどに口内の感覚が鋭敏になった。
どこを探られても、いちいち躰が震える。
名残惜しそうに唇を離した寒月が、蜜が滴るような笑みを浮かべた。
「やっぱ桃だな。すっげえ甘い。ずっと舐めてたい」
「ば、か……」
睨みつけたけど、声がうわずった。
なんだろう。見つめ合っているだけなのに、ものすごくドキドキする。
そのとき、ゴリッと下から彼の欲望を押しつけられて、「あっ!」と躰ごと声が跳ね上がった。
寒月の、すでにすごいことになってる……!
あわあわしてたら、いつのまにか背後にまわっていた青月から、強くうなじを吸われた。思わず小さく声を漏らすと、優しく顎に手を添えられて、振り返りざまに口づけられる。
「確かに、めっちゃ甘い」
囁きながら優しく舌を絡めとられ、上顎を舐め上げられて、くすぐったいような感覚が気持ちよくて。ビクビクッと全身に震えが走った。
「ふ……んっ」
やたら甘ったるい声が出る。
なんか変。
口づけしてるだけなのに、なんだか、なんだか。
「感じる? アーネスト」
寒月の声にうっすら目をあけると、嫉妬と欲望が入り混じった翠玉の瞳が、青月と口づける僕を見ていた。途端、下腹に甘い痺れが宿った。
チュッと音をたてて青月の唇が離れるまでに、寒月は荒っぽく服を脱ぎ、上半身裸になった。
筋肉に覆われたぶ厚い胸板と逞しい腕が露わになって、強引に抱き寄せられ、心臓が早鐘を打つ。
先ほどより荒々しい口づけは、捕食される獲物になったように僕を追いつめた。
ガシッと僕の腰を抱いたまま、寒月が桃マルムを持った青月を手招いた。
「ちょっ! そんないきなり!?」
焦って離れようとしたが、ビクともしない。
うん知ってた。僕が非力だということは。
だがしかし! 双子のペースに乗せられてはいけない!
「待て待て! 待ちたまえ、きみたち!」
「何だよ」
「もう少しこう、疑問とか葛藤とか無いのか!? どうしてそんな簡単に信じちゃうのさ!」
双子はきょとんとして、綺麗に左右対称に首をかしげた。
「だってなあ。俺たちだって相当なもんだし。人が虎になるんだぜ?」
「あ」
確かに、その通りだった……獣人の国なんて、神秘の生きものだらけじゃないか!
青月もうなずきながら、まじまじと桃マルムを見つめた。
「それにマルムの常識外の働きなら、すでに何度も見てきたしな」
くっ。
双子め。いつも無茶苦茶なくせに、こういうときばかり正論を。すっかり双子のペースだ。
青月は桃マルムと僕とを、交互に見つめた。
「……けど……」
何か言うのかと思ったが、そのまま黙って、銀色の睫毛を伏せる。
僕の腰を抱く寒月の横顔にも、隠しきれない影が差した。
双子め。
いつも遠慮なく物申すくせに、僕のこととなると気を遣ってくれちゃって。
二人が口にせぬまま呑み込んだ言葉は、なんとなくわかっている。
『アーネストは?』
ジェームズの手紙には、ユージーンさんが子を授かったことと、その子が次のウォルドグレイブ家当主になったことは書かれていた。
けど、ユージーンさんのその後については触れられていない。
――長生きして、愛する伴侶と末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
……という結末ではないから、あえて書くことをしなかったのだろう。
その辺の覚悟は、僕とジェームズのあいだでは暗黙の了解。
ジェームズはウォルドグレイブ家当主が負う宿命に対して、下手な慰めは言わない。けど、諦めもしない。
長年一緒にいたから、彼の姿勢はわかっているし、この手紙にもそういう想いが込められているのだろうと、僕にはわかる。
でも双子は少なからずショックを受けたみたいだ。
子供を授けるほどの奇跡を起こしたマルムなのに、ユージーンさんの宿命は変えられなかったのかと。
たぶん子供を授かることより、僕個人の朗報を望んでくれているんだよね。
だけど僕が喜んでいるのに、悲しませるようなことを言いたくないんだ。
……ありがたいな。
こんなに愛情深い人たちから、めいっぱい愛してもらえて。
隣に腰を下ろしたまま、桃マルムを見つめてぼんやりしている青月へと手をのばした僕が、彼の手から桃マルムを取り上げると。我に返った青月が、戸惑ったように僕を見た。
両隣の双子へ視線を流してから、僕はさくりと桃マルムをかじる。
双子が息を呑む気配がした。
「――美味しい……!」
まさに桃! 蜜が滴るような甘さと瑞々しさに、絶妙な歯ごたえ。爽やかな余韻が口いっぱいに広がる。
あまりの美味に、我ながら弾んだ声が飛び出した。
「二人も食べてみて! すっごく美味しいよ!」
「「……いいのか?」」
低く問うてくる声に、激情が潜んでいた。
心の内で怯んだけれど、すでに寒月は僕の手ごと自分の口元へと引き寄せて、桃マルムにかぶりついた。
「……うっま。見た目に反してめっちゃ肉じゃん!」
「え?」
目を丸くする僕の手は、今度は青月に掴まれて。
綺麗な歯列が、さくっと桃マルムをかじる。
「ほんとだ。死ぬほど腹へってるときの極上の肉味」
「それな!」
それか?
「桃の味じゃないの?」
「桃ぉ!?」
「いや、肉の味だ」
「桃だよ」
「だったら食ってみりゃわかる」
「もう食べたじゃないか……って、うわっ!」
いきなり寒月が、腕力だけで僕をすくい上げ、自分の膝の上に乗せた。
彼の太腿をまたぐかたちになって、カアッと頬が熱くなる。
凛々しい眉の下のタレ目が、魅力的な笑い皺を刻んだ。
「赤くなってる。確かに桃かもな」
「僕はマルムじゃない」
「そうか? 食って確かめてみよう」
チュッと食むように頬にキスされて、抗議しようとした口をふさがれた。
「んん……ッ」
自在に動く舌が、少しずつ歯列を割って侵入してくる。
自然、深く浅く絡めとられて、応えるほどに口内の感覚が鋭敏になった。
どこを探られても、いちいち躰が震える。
名残惜しそうに唇を離した寒月が、蜜が滴るような笑みを浮かべた。
「やっぱ桃だな。すっげえ甘い。ずっと舐めてたい」
「ば、か……」
睨みつけたけど、声がうわずった。
なんだろう。見つめ合っているだけなのに、ものすごくドキドキする。
そのとき、ゴリッと下から彼の欲望を押しつけられて、「あっ!」と躰ごと声が跳ね上がった。
寒月の、すでにすごいことになってる……!
あわあわしてたら、いつのまにか背後にまわっていた青月から、強くうなじを吸われた。思わず小さく声を漏らすと、優しく顎に手を添えられて、振り返りざまに口づけられる。
「確かに、めっちゃ甘い」
囁きながら優しく舌を絡めとられ、上顎を舐め上げられて、くすぐったいような感覚が気持ちよくて。ビクビクッと全身に震えが走った。
「ふ……んっ」
やたら甘ったるい声が出る。
なんか変。
口づけしてるだけなのに、なんだか、なんだか。
「感じる? アーネスト」
寒月の声にうっすら目をあけると、嫉妬と欲望が入り混じった翠玉の瞳が、青月と口づける僕を見ていた。途端、下腹に甘い痺れが宿った。
チュッと音をたてて青月の唇が離れるまでに、寒月は荒っぽく服を脱ぎ、上半身裸になった。
筋肉に覆われたぶ厚い胸板と逞しい腕が露わになって、強引に抱き寄せられ、心臓が早鐘を打つ。
先ほどより荒々しい口づけは、捕食される獲物になったように僕を追いつめた。
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