召し使い様の分際で

月齢

文字の大きさ
上 下
81 / 259
第12章 マルム茸とは

お子を。

しおりを挟む
 お子。を。授かった。
 ユージーンさんが。
 大きなマルム茸を通じて。

 呆然としながらも無意識に、声に出してその意味を確認していた。

「オキナマルムツジテ、サズカタヨ~……」

 カタコトになった。

 しばし放心したのち、ユージーンさんが子を授かったくだりを読み直す。
 間違いない。勘違いでもない。
 大きなマルムが――つまり親マルムが、子を授けてくれたと書いてある。
 ジェームズが気休めや悪ふざけで、こんなことを書くはずもない。

「でも……どう、やって……」

 どういう仕組みかはわからない、とも書いてあるのだった。
 わからないが、実践するならば、まず双子と桃マルムを食べたのち愛の営みをして、中に……

「だあぁぁぁぁぁ!」

 羞恥が放心に勝った。
 我に返ったと同時に、混乱に陥る。
 どうして双子と致して中に……たら、親マルムが子供を授けてくれるの!?

「どゆことー!?」

 座ったまま頭を抱えてうつむくと、視線の先に手紙があった。
 暖炉の炎に照らされた文字は、ジェームズが優しく言い聞かせてくれているように、揺れる灯かりに照らされている。

『唐突な話に、さぞ驚かれていることでしょう。まずは双子王子にご相談されるとよいのでは? 何せ二人は、子の父親になるのですから』

「父親……」

『もちろん、このお話は、ユージーン様の例を前提としております。同じことをしたからといって、絶対に子を授かるというものではないかもしれません。
 けれどマルム茸が変化を起こしてくれた以上、可能性に懸けてみる価値はあるのではないでしょうか。若造ども……もとい双子王子も、きっと心身共にアーネスト様を支えてくれるでしょう。……そうでなければ、醍牙ごと祟り尽くしてやるまでです』

 またすぐそういうことを言う。
 思わずクスッと笑い声をこぼしたら、その拍子に涙が浮かんだ。
 もちろん、もう悲しい涙じゃない。嬉し涙だ。

 子供。
 寒月と青月の子供。
 二人の子供を、授かれるかもしれない。
 そんな奇跡、想像したことすらなかった。

 もちろん、可能性があるなら懸ける。
 もしもまた「やっぱりダメだった」と泣くことになったとしても。できることが何ひとつ無い状態より、ずっといい。
 ドキドキして、ふわふわして、頬が火照る。

 どうしよう。
 二人に言ったら、どんな顔をするだろう。
 ぜったい驚くよね。信じてくれるかな。
 信じたら、そのあとは喜んでくれるかな。

 ……やめておけ、と言われたらどうしよう。

 二人はすごく僕の躰を気遣ってくれているから、あれこれ気を回して二の足を踏むかも。

 でも……反対なんてしないでほしい。
 どうか、一緒に喜んでほしい。
 ジェームズの、『二人は、子の父親になる』という言葉を、実現したいんだ。

「赤ちゃん……」

 そう呟くだけで、笑顔になった。
 二人にそっくりな子がいいな。そしたらきっと、一瞬も目を離したくないほど可愛いよ。想像すると愛おしすぎて泣けてくる。

 いやいや、気が早すぎるだろう。
 まずは二人を説得しないと。
 でも、何て言えば……。

『ご説明が難しければ、この手紙をそのままお見せしてはいかがです?』

 なるほど。
 ジェームズ以上に上手く説明できる自信は無いし、それが良いかも。


⁂ ⁂ ⁂


 そんなわけで、ほぼ同時に帰ってきた双子に、ジェームズからの手紙を見せました。
 黙々と読む二人の真剣な表情を、ドキドキしながら見守って。
 ようやく顔を上げた寒月が、

「マジか……」

 と呟き、青月も、何とも言えない表情で僕を見返してきた。

 うんうん、わかるよ。
 僕もしばらく呆然としてしまったし。
 それで、あの……

「その桃マルムというのを食べれば、本当に、アーネストの躰の負担が緩和されるのか? あの温泉のマルムみたいに?」

 青月の質問に、コクコク首肯する。

「そ、そうみたい」
「マジか……」

 またそう呟いた寒月と、顔を見合わせてうなずいた青月の、それぞれ翠玉と青玉の瞳が、にわかに輝き出した。

「マジでできるのか!? 俺たちのガキが……!」
「子供なんかどうでもいいと思っていたが。アーネストとの子なら、ぜったい欲しい」
「だよなあ! マジかー! マジかああぁ!」
「俺たちに似ませんように……!」
「だな! 絶対アーネストに似ますように!」
「そしたら俺は引きこもる。ずっと妻子から離れない。今のうちに宣言しておく」
「てめえ、ずりーぞ! 俺だってぜってえ離れねえからな」

 急に騒ぎ出し、仮定の話でガルルと喧嘩まで始めた双子を、ぽかんと口をあけて見ていたら、青月がハッとしたように口調を改めた。

「大丈夫だ。必ず子供ができるわけではないと、ちゃんとわかってるから。負担に感じることは無いからな」
「おう、そうだぞ! ガキがいなきゃいないで、そのぶんイチャコラできるしよ!」
「イチャコラ……」

 思わずプッと吹き出した。
 安堵と喜びのあまり、無闇に笑ってしまう。

 夢みたい。
 二人も喜んでくれて、すごく嬉しい。
 ……ほんとにこれ、夢じゃないよね?
 いまいち、まだ現実感が無くて。ずっと気持ちがふわふわしてる。でも嬉しくて笑ってしまう。

 笑いすぎて潤んだ目元を拭っていたら、じっと僕を見つめる双子の頬が、ちょっと赤らんできた。

「……綺麗だな、アーネスト」
「ほんそれ。いっつも綺麗だけどさらに美人に」
「何言ってんだか」

 また笑うと、腰に寒月の腕が回された。
 甘いマスクが、急に目の前に。

「で、桃マルムは?」
「え?」
「善は急げだ。早速食ってみようぜ」
「へ? ……あ」

 しまった。
 浮かれるあまり、手紙をすべて見せてしまっていた……!
 媚薬効果や、中に――の部分は、心の準備をしてから見せようと思っていたのに!
 一気に顔が熱くなった。きっと真っ赤になっている。

「も、桃マルムは、えっと……どこかに置き忘れたという可能性も、無きにしもあらず」

 しどろもどろになりながら、何とかやり過ごそうとしたのだが。
 机に置いておいた桃マルムを目ざとく見つけた青月が、長い指でつまみ上げ、クールに微笑んだ。

「これだろう? 本当に桃色だな」
しおりを挟む
感想 834

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。