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第12章 マルム茸とは
お子を。
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お子。を。授かった。
ユージーンさんが。
大きなマルム茸を通じて。
呆然としながらも無意識に、声に出してその意味を確認していた。
「オキナマルムツジテ、サズカタヨ~……」
カタコトになった。
しばし放心したのち、ユージーンさんが子を授かったくだりを読み直す。
間違いない。勘違いでもない。
大きなマルムが――つまり親マルムが、子を授けてくれたと書いてある。
ジェームズが気休めや悪ふざけで、こんなことを書くはずもない。
「でも……どう、やって……」
どういう仕組みかはわからない、とも書いてあるのだった。
わからないが、実践するならば、まず双子と桃マルムを食べたのち愛の営みをして、中に……
「だあぁぁぁぁぁ!」
羞恥が放心に勝った。
我に返ったと同時に、混乱に陥る。
どうして双子と致して中に……たら、親マルムが子供を授けてくれるの!?
「どゆことー!?」
座ったまま頭を抱えてうつむくと、視線の先に手紙があった。
暖炉の炎に照らされた文字は、ジェームズが優しく言い聞かせてくれているように、揺れる灯かりに照らされている。
『唐突な話に、さぞ驚かれていることでしょう。まずは双子王子にご相談されるとよいのでは? 何せ二人は、子の父親になるのですから』
「父親……」
『もちろん、このお話は、ユージーン様の例を前提としております。同じことをしたからといって、絶対に子を授かるというものではないかもしれません。
けれどマルム茸が変化を起こしてくれた以上、可能性に懸けてみる価値はあるのではないでしょうか。若造ども……もとい双子王子も、きっと心身共にアーネスト様を支えてくれるでしょう。……そうでなければ、醍牙ごと祟り尽くしてやるまでです』
またすぐそういうことを言う。
思わずクスッと笑い声をこぼしたら、その拍子に涙が浮かんだ。
もちろん、もう悲しい涙じゃない。嬉し涙だ。
子供。
寒月と青月の子供。
二人の子供を、授かれるかもしれない。
そんな奇跡、想像したことすらなかった。
もちろん、可能性があるなら懸ける。
もしもまた「やっぱりダメだった」と泣くことになったとしても。できることが何ひとつ無い状態より、ずっといい。
ドキドキして、ふわふわして、頬が火照る。
どうしよう。
二人に言ったら、どんな顔をするだろう。
ぜったい驚くよね。信じてくれるかな。
信じたら、そのあとは喜んでくれるかな。
……やめておけ、と言われたらどうしよう。
二人はすごく僕の躰を気遣ってくれているから、あれこれ気を回して二の足を踏むかも。
でも……反対なんてしないでほしい。
どうか、一緒に喜んでほしい。
ジェームズの、『二人は、子の父親になる』という言葉を、実現したいんだ。
「赤ちゃん……」
そう呟くだけで、笑顔になった。
二人にそっくりな子がいいな。そしたらきっと、一瞬も目を離したくないほど可愛いよ。想像すると愛おしすぎて泣けてくる。
いやいや、気が早すぎるだろう。
まずは二人を説得しないと。
でも、何て言えば……。
『ご説明が難しければ、この手紙をそのままお見せしてはいかがです?』
なるほど。
ジェームズ以上に上手く説明できる自信は無いし、それが良いかも。
⁂ ⁂ ⁂
そんなわけで、ほぼ同時に帰ってきた双子に、ジェームズからの手紙を見せました。
黙々と読む二人の真剣な表情を、ドキドキしながら見守って。
ようやく顔を上げた寒月が、
「マジか……」
と呟き、青月も、何とも言えない表情で僕を見返してきた。
うんうん、わかるよ。
僕もしばらく呆然としてしまったし。
それで、あの……
「その桃マルムというのを食べれば、本当に、アーネストの躰の負担が緩和されるのか? あの温泉のマルムみたいに?」
青月の質問に、コクコク首肯する。
「そ、そうみたい」
「マジか……」
またそう呟いた寒月と、顔を見合わせてうなずいた青月の、それぞれ翠玉と青玉の瞳が、にわかに輝き出した。
「マジでできるのか!? 俺たちのガキが……!」
「子供なんかどうでもいいと思っていたが。アーネストとの子なら、ぜったい欲しい」
「だよなあ! マジかー! マジかああぁ!」
「俺たちに似ませんように……!」
「だな! 絶対アーネストに似ますように!」
「そしたら俺は引きこもる。ずっと妻子から離れない。今のうちに宣言しておく」
「てめえ、ずりーぞ! 俺だってぜってえ離れねえからな」
急に騒ぎ出し、仮定の話でガルルと喧嘩まで始めた双子を、ぽかんと口をあけて見ていたら、青月がハッとしたように口調を改めた。
「大丈夫だ。必ず子供ができるわけではないと、ちゃんとわかってるから。負担に感じることは無いからな」
「おう、そうだぞ! ガキがいなきゃいないで、そのぶんイチャコラできるしよ!」
「イチャコラ……」
思わずプッと吹き出した。
安堵と喜びのあまり、無闇に笑ってしまう。
夢みたい。
二人も喜んでくれて、すごく嬉しい。
……ほんとにこれ、夢じゃないよね?
いまいち、まだ現実感が無くて。ずっと気持ちがふわふわしてる。でも嬉しくて笑ってしまう。
笑いすぎて潤んだ目元を拭っていたら、じっと僕を見つめる双子の頬が、ちょっと赤らんできた。
「……綺麗だな、アーネスト」
「ほんそれ。いっつも綺麗だけどさらに美人に」
「何言ってんだか」
また笑うと、腰に寒月の腕が回された。
甘いマスクが、急に目の前に。
「で、桃マルムは?」
「え?」
「善は急げだ。早速食ってみようぜ」
「へ? ……あ」
しまった。
浮かれるあまり、手紙をすべて見せてしまっていた……!
媚薬効果や、中に――の部分は、心の準備をしてから見せようと思っていたのに!
一気に顔が熱くなった。きっと真っ赤になっている。
「も、桃マルムは、えっと……どこかに置き忘れたという可能性も、無きにしもあらず」
しどろもどろになりながら、何とかやり過ごそうとしたのだが。
机に置いておいた桃マルムを目ざとく見つけた青月が、長い指でつまみ上げ、クールに微笑んだ。
「これだろう? 本当に桃色だな」
ユージーンさんが。
大きなマルム茸を通じて。
呆然としながらも無意識に、声に出してその意味を確認していた。
「オキナマルムツジテ、サズカタヨ~……」
カタコトになった。
しばし放心したのち、ユージーンさんが子を授かったくだりを読み直す。
間違いない。勘違いでもない。
大きなマルムが――つまり親マルムが、子を授けてくれたと書いてある。
ジェームズが気休めや悪ふざけで、こんなことを書くはずもない。
「でも……どう、やって……」
どういう仕組みかはわからない、とも書いてあるのだった。
わからないが、実践するならば、まず双子と桃マルムを食べたのち愛の営みをして、中に……
「だあぁぁぁぁぁ!」
羞恥が放心に勝った。
我に返ったと同時に、混乱に陥る。
どうして双子と致して中に……たら、親マルムが子供を授けてくれるの!?
「どゆことー!?」
座ったまま頭を抱えてうつむくと、視線の先に手紙があった。
暖炉の炎に照らされた文字は、ジェームズが優しく言い聞かせてくれているように、揺れる灯かりに照らされている。
『唐突な話に、さぞ驚かれていることでしょう。まずは双子王子にご相談されるとよいのでは? 何せ二人は、子の父親になるのですから』
「父親……」
『もちろん、このお話は、ユージーン様の例を前提としております。同じことをしたからといって、絶対に子を授かるというものではないかもしれません。
けれどマルム茸が変化を起こしてくれた以上、可能性に懸けてみる価値はあるのではないでしょうか。若造ども……もとい双子王子も、きっと心身共にアーネスト様を支えてくれるでしょう。……そうでなければ、醍牙ごと祟り尽くしてやるまでです』
またすぐそういうことを言う。
思わずクスッと笑い声をこぼしたら、その拍子に涙が浮かんだ。
もちろん、もう悲しい涙じゃない。嬉し涙だ。
子供。
寒月と青月の子供。
二人の子供を、授かれるかもしれない。
そんな奇跡、想像したことすらなかった。
もちろん、可能性があるなら懸ける。
もしもまた「やっぱりダメだった」と泣くことになったとしても。できることが何ひとつ無い状態より、ずっといい。
ドキドキして、ふわふわして、頬が火照る。
どうしよう。
二人に言ったら、どんな顔をするだろう。
ぜったい驚くよね。信じてくれるかな。
信じたら、そのあとは喜んでくれるかな。
……やめておけ、と言われたらどうしよう。
二人はすごく僕の躰を気遣ってくれているから、あれこれ気を回して二の足を踏むかも。
でも……反対なんてしないでほしい。
どうか、一緒に喜んでほしい。
ジェームズの、『二人は、子の父親になる』という言葉を、実現したいんだ。
「赤ちゃん……」
そう呟くだけで、笑顔になった。
二人にそっくりな子がいいな。そしたらきっと、一瞬も目を離したくないほど可愛いよ。想像すると愛おしすぎて泣けてくる。
いやいや、気が早すぎるだろう。
まずは二人を説得しないと。
でも、何て言えば……。
『ご説明が難しければ、この手紙をそのままお見せしてはいかがです?』
なるほど。
ジェームズ以上に上手く説明できる自信は無いし、それが良いかも。
⁂ ⁂ ⁂
そんなわけで、ほぼ同時に帰ってきた双子に、ジェームズからの手紙を見せました。
黙々と読む二人の真剣な表情を、ドキドキしながら見守って。
ようやく顔を上げた寒月が、
「マジか……」
と呟き、青月も、何とも言えない表情で僕を見返してきた。
うんうん、わかるよ。
僕もしばらく呆然としてしまったし。
それで、あの……
「その桃マルムというのを食べれば、本当に、アーネストの躰の負担が緩和されるのか? あの温泉のマルムみたいに?」
青月の質問に、コクコク首肯する。
「そ、そうみたい」
「マジか……」
またそう呟いた寒月と、顔を見合わせてうなずいた青月の、それぞれ翠玉と青玉の瞳が、にわかに輝き出した。
「マジでできるのか!? 俺たちのガキが……!」
「子供なんかどうでもいいと思っていたが。アーネストとの子なら、ぜったい欲しい」
「だよなあ! マジかー! マジかああぁ!」
「俺たちに似ませんように……!」
「だな! 絶対アーネストに似ますように!」
「そしたら俺は引きこもる。ずっと妻子から離れない。今のうちに宣言しておく」
「てめえ、ずりーぞ! 俺だってぜってえ離れねえからな」
急に騒ぎ出し、仮定の話でガルルと喧嘩まで始めた双子を、ぽかんと口をあけて見ていたら、青月がハッとしたように口調を改めた。
「大丈夫だ。必ず子供ができるわけではないと、ちゃんとわかってるから。負担に感じることは無いからな」
「おう、そうだぞ! ガキがいなきゃいないで、そのぶんイチャコラできるしよ!」
「イチャコラ……」
思わずプッと吹き出した。
安堵と喜びのあまり、無闇に笑ってしまう。
夢みたい。
二人も喜んでくれて、すごく嬉しい。
……ほんとにこれ、夢じゃないよね?
いまいち、まだ現実感が無くて。ずっと気持ちがふわふわしてる。でも嬉しくて笑ってしまう。
笑いすぎて潤んだ目元を拭っていたら、じっと僕を見つめる双子の頬が、ちょっと赤らんできた。
「……綺麗だな、アーネスト」
「ほんそれ。いっつも綺麗だけどさらに美人に」
「何言ってんだか」
また笑うと、腰に寒月の腕が回された。
甘いマスクが、急に目の前に。
「で、桃マルムは?」
「え?」
「善は急げだ。早速食ってみようぜ」
「へ? ……あ」
しまった。
浮かれるあまり、手紙をすべて見せてしまっていた……!
媚薬効果や、中に――の部分は、心の準備をしてから見せようと思っていたのに!
一気に顔が熱くなった。きっと真っ赤になっている。
「も、桃マルムは、えっと……どこかに置き忘れたという可能性も、無きにしもあらず」
しどろもどろになりながら、何とかやり過ごそうとしたのだが。
机に置いておいた桃マルムを目ざとく見つけた青月が、長い指でつまみ上げ、クールに微笑んだ。
「これだろう? 本当に桃色だな」
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