召し使い様の分際で

月齢

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第10章 逆襲のアーネスト

意外な言葉

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 御前会議――というか、王様を交えた内輪の話し合いというほうが正しいと思うのだけど、とにかくその会議が始まった。

 円卓を囲むのは、王様(と背後に刹淵さん)、諸大臣、枢密院の議長さんと顧問官。そしてもちろん双子王子と、お久し振りの藍剛将軍もいる。
 それから、『髭の人』こと弓庭後侯爵と、王妃。彼らが雇った弁護役も。
 そして、僕。とても居心地が悪い。
 なぜなら僕の座席が……本来は下座に座るべきなのに、双子がすぐさま自分たちのあいだの席に変えてしまったから。固辞しようが聞く耳持ってくれないし。

 会議が始まる前から二人はものすごく不機嫌で、怒気と殺気をぶちまけまくっていた。
 だから居並ぶ人々は冷や汗を拭いながらすくみ上がっていて、双子が僕を自分たちと同格の席に座らせても文句も言えず。
 ただ、王妃だけが不満そうに口をひらいたけど……双子が思いっきり睨みつけたものだから、何も言わずに引き下がった。

 この日初めて会った泉果王妃は、キツい印象の顔立ちだけれど、色白の綺麗な女性だった。
 審問会のときに刹淵さんが「領地に移り住む前より、腰回りがスイカひと玉ぶん増えた」というようなことを言っていたが。
 確かにふくよかだけど、肉感的な魅力と捉える人も多そうと思う。

 見つめる僕と目が合うと、気まずそうに苦笑して、小声で「ごめんなさいね」と話しかけてきた。

「あなたが悪いわけではないのよ。ただ、しきたりとして一応ね」

 双子は王様の右隣に、王妃は左隣にいるのだけど、こんなふうに話しかけられるとは思っていなかったので、驚いてちょっと反応が遅れた。その間に、 

「はあ。頭を噛み砕きてえな」
「俺は一撃でどれだけ潰せるか試したい」

 うお。
 双子……軽い調子で物騒なことを。
 明らかに王妃に向けての発言。
 大臣たちが青くなって王妃と弓庭後侯を窺っているが、二人とも動じていない。
 いや、王妃は口元をピクリと動かしたけど、弓庭後侯は眉ひとつ動かさない。
 わかりやすく動じたのはただひとり。

「おいっ! 母上は正妃だぞ! 無礼なことを言うな!」

 王妃のうしろに庇われるようにして座っている、皓月王子だ。
 彼のさらにうしろの壁沿いに、ドーソン氏や御形氏ほか、悪事に加担した協会員たちが座らされている。
 
 ドーソン氏らは、もうすっかり意気消沈の様子だけど……
 皓月王子は先ほどからふんぞり返って座っており、僕と目が合うとニヤけた笑いを浮かべすらした。
 母親と弓庭後侯が自分を守ろうと揃ってくれたものだから、とっても強気なんだろうなあ。

 それで調子に乗って、双子の発言に噛みついたようだけど。
 案の定、ギラリと睨み返されただけで、「ひっ!」と王妃の背後に隠れている。
 そんな皓月王子を、弓庭後侯が「黙っていられんのか!」と怒鳴りつけた。

 弓庭後侯は、王妃の年の離れた兄なんだって。
 親子ほど年が離れているように見えるから、もしかすると異母兄妹かも。
 何にせよ、この貫禄のある弓庭後兄妹のもとにいて、なぜに皓月王子はあの仕上がりなのか不思議だ。

 興味深くてついつい観察してしまい、弓庭後侯とも目が合った。
 すると彼まで、髭の下に微苦笑を浮かべる。
 うわぁ。笑ったの初めて見た。

 
 ――あの薬湯勝負の日。
 副作用が出た患者さんたちに対処すべく会場を出ようとしたところを、弓庭後侯爵に呼び止められた。

 彼は険しい表情で甥の所業を詫びたあと、こう言った。

「わたしはずっと、きみを観察してきた。エルバータの元皇族を王族の妻に迎えるなど、とんでもないことと考えてきた。
 ……わたしも甥は可愛いが、あれが世継ぎの器でないことくらいわかっている。次の玉座の主は双子殿下か歓宜殿下になるだろう。ゆえに、栴木公と同じく、わたしもきみの能力や有用性を見極めようと思った。
 結果、悔しいが今日のきみを見れば、双子殿下の見る目は正しかったと認めざるを得ない。見初められたのが我が家門の者でないことは、返す返すも残念だが。
 素直に負けを認めて、わたしからも栴木公に、きみの優秀さを伝えておこう」

 淡々と言って、こちらが何か言うのも待たずに背を向けた彼の前方で、アルデンホフ氏が憎々しげに僕を見ていた。


「どうした? アーネスト」

 ぼーっと思い出していたら、青月が優しい微笑みを浮かべて問うてきた。
 皆を震え上がらせるほど殺気を放っていたくせに、打って変わって甘い声で。
 
「えっと……弓庭後侯は、栴木様と仲が良いの?」

 小声で尋ねると、「そうだな」と首肯が返る。

「頑固でいけ好かないオッサン同士、交流はあるようだ。なぜだ?」

 答えようとしたら、それまで藍剛将軍と何やら打ち合わせをしていた王様が、「よしっ!」と大きな声を上げた。

「お待たせ~! それでは会議を始めようね! 今日の議題は弁護役たちからアーちゃんへの『和解のお願い』だよ! アーちゃんも弁護役も、双方準備はいいかーい?
 じゃ早速いってみよう! 弁護役代表、和解案の内容をアーちゃんに伝えてね!」

 ちょび髭を生やした初老の男性が立ち上がり、うやうやしく王様にお辞儀をした。

「ありがとうございます、陛下。わたしどもからウォルドグレイブ伯爵に、和解案をご提示させていただきます。が、その前に、いくつかの質問のお時間をいただいてよろしいでしょうか」
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