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第10章 逆襲のアーネスト
恥知らずです
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「ウォルドドグリイブ……」
「アーネスト様ぁ。しみじみ繰り返さないでくださいぃ」
白銅くんが涙目で笑いをこらえ、双子も肩を震わせている。
その様子を見て取ったらしく、皓月王子が怒声を上げた。
「おい、何を笑っているんだ、失敬な! 盗人の分際でふてぶてしい!」
「僕は笑っていないし、盗人でもありませんよ?」
「開き直る気か!」
「よーく見てください。笑っていませんよ?」
「わ、笑っていたっ!」
「笑っていません。笑いごとではないので。殿下が勝手に僕の薬湯を人に飲ませてしまったと知った瞬間から、僕は心配でなりませんでした」
あえて静かな口調で返したが、周囲の人たちも興味津々で耳をそばだてており、広い室内でもはっきりと互いの声が届く。
その、はっきり届いた僕の言葉に、皓月王子はギョキッと目を剥いた。
「まだ言うか! よりによって、『殿下が勝手に僕の薬湯を』だと!? 不敬な上に、図々しいにもほどがある!
いいか、医師協会副会長のドーソンと、薬師協会部長の御形を始めとする、清廉なる国民への奉仕者たちが、ついさっき貴様が提出した薬湯を調べて、ぼくがすでに出している薬湯と同じだと証言したのだぞ!
貴様は彼らの能力を疑うのか、彼らが嘘をついているとでも言うのか!」
壇上の皓月王子の傍らで、憎々しげにこちらを見下ろすドーソン氏と、居心地悪そうに視線を泳がせる御形氏を、僕はまっすぐ見つめた。
「ドーソン副会長、御形部長、ならびに僕の薬湯を『盗作だ』と言い切った、協会員や関係者の皆さん。
その発言は、医師や薬師の矜持に背かぬものですか。己の誇りを懸けて、皓月王子の処方こそ正しく、本物であると言い切れますか」
そう問うと、御形氏は顔色を変えた。
何か言いたげに口をひらいたが、それを遮るようにドーソン氏が怒鳴った。
「当然だ! 皓月殿下こそ、この薬湯の本当の生みの親! 名医にも劣らぬ素晴らしい薬師だと、己の誇りに懸けて断言するとも!」
「では、ご自身の発言には相応の責任を取っていただきます。皓月殿下と同様、皆さんにも、僕と薬舗への名誉棄損と損害賠償を請求させていただくことになると、先に通告しておきます」
「なっ!」
「そ、それはどういう……!」
ドーソン氏のうしろで様子を窺っていた協会員たちが、にわかにざわついた。
彼らはたぶん、なにがしかの見返りを約束されて僕を陥れようとしたのだろうけど、自分たちに不利益が及ぶとまでは考えていなかったのだろう。
そんな彼らを、ドーソン氏が叱りつけた。
「静まれ! 非があるのは向こうだ、我らは正しいことを正しいと主張しているだけだ。何をうろたえる必要がある!」
「その通りだ!」
皓月王子も調子を合わせてうなずいている。
うんうん、それで良し。
今さら言いわけされても困るからね。
薬草を利用して悪事を働いた皆さんには、きっちり償ってもらわないと。
僕は改めて彼らを見据えた。
「皆さんが皓月殿下こそ正しいと信じているのなら、あなたたちは、とんだ藪医者か、大嘘つきの詐欺師か、どちらにせよ、患者の躰を平気で害する恥知らずです」
「「「な……っ!」」」
壇上の面々のみならず、会場にいる皆が絶句した。が、
「よーし、よく言ったアーネスト! さすが俺たちの嫁!」
「言ってやれ、馬鹿どもにもわかるように」
拍手喝采する双子の言葉に我に返ったようで、ドーソン氏らの顔がみるみる赤くなった。
「なっ、何を根拠にそのような侮辱を!? いくら寒月殿下や青月殿下と親交があろうと、こんな辱めは許せません! こちらこそ、ウォルドグレイブ卿を名誉棄損で訴えますぞ!」
たちまち、「そうだそうだ!」の大合唱。
成り行きを見守っている皆さんまで騒がしくなったが、片手を軽く上げると、ピタリと静まってくれた。
「根拠はこれからご説明します。まず、僕はこの処方の薬湯を新商品として用意していましたが、すぐには発売しませんでした。その理由は、」
「そんなの、あと出しで作ったんだろう! 下手な小細工だ!」
皓月王子が叫んだので、僕はにっこり笑顔を向けた。
「殿下。五歳の子供でも、人の話を聞くことくらいはできるのですよ」
白銅くんが小さく吹き出したが、皓月王子は「五歳の子供が何だって?」と顔をしかめているので、嫌味を理解する前に話を進めた。
「すぐに発売しなかったのは、いつもダースティン産の薬草で作っていたものを、今回は醍牙産のみで作ったからです。加えてとても繊細な配合なので、念には念を入れて、ギリギリまで自分で試しました。『この分量までなら安全』と言える配合量を改めて確定するために」
「自分で試した?」
双子の笑みが引っ込んだ。
しまった。自分で試したこと、二人に秘密にしたままだった。
「ちょっと待て。碧雲町でも飲んでいた、あの薬湯だよな?」
表情をこわばらせた青月に続き、寒月が眉根を寄せる。
「もしかして、お前がぶっ倒れてたのも、その薬湯の試飲が原因か?」
「安全な分量を知るために、安全ではないかもしれない配合で試したんだな!?」
「だから『原因はわかってる』と言ってたのか!」
おおう。いきなり鋭い。
秘密にして申しわけなかったけど、言えば止められるだろうから……でも想定通りの結果が出たから、もう大丈夫なんだ。
「まあまあ。あとでちゃんと説明するから」
「「お前ってやつは……」」
へらへら笑ってごまかそうとしたけど、二人は額を押さえてうなだれた。
会場の皆さんは、この展開についてこられずにいるが、皓月王子は元気に会話に割って入ってきた。
「おい、私語は慎め! 何いきなりイチャコラしてんだ!」
「ウォルドグレイブ卿。『安全ではない配合』とは、どういうことです?」
控えめに尋ねてきたのは御形氏。
やはり薬師。
僕の言いたいことが、わかったかな。
「アーネスト様ぁ。しみじみ繰り返さないでくださいぃ」
白銅くんが涙目で笑いをこらえ、双子も肩を震わせている。
その様子を見て取ったらしく、皓月王子が怒声を上げた。
「おい、何を笑っているんだ、失敬な! 盗人の分際でふてぶてしい!」
「僕は笑っていないし、盗人でもありませんよ?」
「開き直る気か!」
「よーく見てください。笑っていませんよ?」
「わ、笑っていたっ!」
「笑っていません。笑いごとではないので。殿下が勝手に僕の薬湯を人に飲ませてしまったと知った瞬間から、僕は心配でなりませんでした」
あえて静かな口調で返したが、周囲の人たちも興味津々で耳をそばだてており、広い室内でもはっきりと互いの声が届く。
その、はっきり届いた僕の言葉に、皓月王子はギョキッと目を剥いた。
「まだ言うか! よりによって、『殿下が勝手に僕の薬湯を』だと!? 不敬な上に、図々しいにもほどがある!
いいか、医師協会副会長のドーソンと、薬師協会部長の御形を始めとする、清廉なる国民への奉仕者たちが、ついさっき貴様が提出した薬湯を調べて、ぼくがすでに出している薬湯と同じだと証言したのだぞ!
貴様は彼らの能力を疑うのか、彼らが嘘をついているとでも言うのか!」
壇上の皓月王子の傍らで、憎々しげにこちらを見下ろすドーソン氏と、居心地悪そうに視線を泳がせる御形氏を、僕はまっすぐ見つめた。
「ドーソン副会長、御形部長、ならびに僕の薬湯を『盗作だ』と言い切った、協会員や関係者の皆さん。
その発言は、医師や薬師の矜持に背かぬものですか。己の誇りを懸けて、皓月王子の処方こそ正しく、本物であると言い切れますか」
そう問うと、御形氏は顔色を変えた。
何か言いたげに口をひらいたが、それを遮るようにドーソン氏が怒鳴った。
「当然だ! 皓月殿下こそ、この薬湯の本当の生みの親! 名医にも劣らぬ素晴らしい薬師だと、己の誇りに懸けて断言するとも!」
「では、ご自身の発言には相応の責任を取っていただきます。皓月殿下と同様、皆さんにも、僕と薬舗への名誉棄損と損害賠償を請求させていただくことになると、先に通告しておきます」
「なっ!」
「そ、それはどういう……!」
ドーソン氏のうしろで様子を窺っていた協会員たちが、にわかにざわついた。
彼らはたぶん、なにがしかの見返りを約束されて僕を陥れようとしたのだろうけど、自分たちに不利益が及ぶとまでは考えていなかったのだろう。
そんな彼らを、ドーソン氏が叱りつけた。
「静まれ! 非があるのは向こうだ、我らは正しいことを正しいと主張しているだけだ。何をうろたえる必要がある!」
「その通りだ!」
皓月王子も調子を合わせてうなずいている。
うんうん、それで良し。
今さら言いわけされても困るからね。
薬草を利用して悪事を働いた皆さんには、きっちり償ってもらわないと。
僕は改めて彼らを見据えた。
「皆さんが皓月殿下こそ正しいと信じているのなら、あなたたちは、とんだ藪医者か、大嘘つきの詐欺師か、どちらにせよ、患者の躰を平気で害する恥知らずです」
「「「な……っ!」」」
壇上の面々のみならず、会場にいる皆が絶句した。が、
「よーし、よく言ったアーネスト! さすが俺たちの嫁!」
「言ってやれ、馬鹿どもにもわかるように」
拍手喝采する双子の言葉に我に返ったようで、ドーソン氏らの顔がみるみる赤くなった。
「なっ、何を根拠にそのような侮辱を!? いくら寒月殿下や青月殿下と親交があろうと、こんな辱めは許せません! こちらこそ、ウォルドグレイブ卿を名誉棄損で訴えますぞ!」
たちまち、「そうだそうだ!」の大合唱。
成り行きを見守っている皆さんまで騒がしくなったが、片手を軽く上げると、ピタリと静まってくれた。
「根拠はこれからご説明します。まず、僕はこの処方の薬湯を新商品として用意していましたが、すぐには発売しませんでした。その理由は、」
「そんなの、あと出しで作ったんだろう! 下手な小細工だ!」
皓月王子が叫んだので、僕はにっこり笑顔を向けた。
「殿下。五歳の子供でも、人の話を聞くことくらいはできるのですよ」
白銅くんが小さく吹き出したが、皓月王子は「五歳の子供が何だって?」と顔をしかめているので、嫌味を理解する前に話を進めた。
「すぐに発売しなかったのは、いつもダースティン産の薬草で作っていたものを、今回は醍牙産のみで作ったからです。加えてとても繊細な配合なので、念には念を入れて、ギリギリまで自分で試しました。『この分量までなら安全』と言える配合量を改めて確定するために」
「自分で試した?」
双子の笑みが引っ込んだ。
しまった。自分で試したこと、二人に秘密にしたままだった。
「ちょっと待て。碧雲町でも飲んでいた、あの薬湯だよな?」
表情をこわばらせた青月に続き、寒月が眉根を寄せる。
「もしかして、お前がぶっ倒れてたのも、その薬湯の試飲が原因か?」
「安全な分量を知るために、安全ではないかもしれない配合で試したんだな!?」
「だから『原因はわかってる』と言ってたのか!」
おおう。いきなり鋭い。
秘密にして申しわけなかったけど、言えば止められるだろうから……でも想定通りの結果が出たから、もう大丈夫なんだ。
「まあまあ。あとでちゃんと説明するから」
「「お前ってやつは……」」
へらへら笑ってごまかそうとしたけど、二人は額を押さえてうなだれた。
会場の皆さんは、この展開についてこられずにいるが、皓月王子は元気に会話に割って入ってきた。
「おい、私語は慎め! 何いきなりイチャコラしてんだ!」
「ウォルドグレイブ卿。『安全ではない配合』とは、どういうことです?」
控えめに尋ねてきたのは御形氏。
やはり薬師。
僕の言いたいことが、わかったかな。
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