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第9章 薬湯勝負
実力の証明方法
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なるほど。
ドーソン氏や御形氏ら、僕を糾弾するため審問会に臨んでいた面々は、返す刀で、ハーケン氏ならぬ皓月王子支持を表明する段取りだったわけか。
「不遇の環境の中で薬師の才能を開花させるとは!」
「さすがは皓月殿下!」
などと取って付けたように、汗をかきかき称賛の言葉を並べている。が、医師も薬師も協会員の半数は、しらけた空気を漂わせていた。
刹淵さんの説明通り、全員が同じ意見というわけではないのだろう。
「あんなわかりやすい馬鹿に、薬草を扱えるわけがない」
長い脚を投げ出して座る寒月が、低く呟くと。
同じくふんぞり返って長い脚を組む青月も、冷たく笑って同意した。
「今の『主張』すら、アーネストのパクりっぽかったしな」
「それな。城で迫害された母とその息子が、遠い領地で暮らすとか、薬を配ったとかな」
「巷でアーネストに対する評価がうなぎ上りなものだから、クソ女も危機感を抱いているんだろう。お前の評判を落として、お前を嫁にする俺たちの評判も貶めたいのさ。わかりやすいクソ女だ」
「僕の評判?」
首をかしげると、ゴブショット毛付きの長靴を履いた寒月のつま先がピョコンと上がり、「どうせ自覚無いんだろう」と破顔した。
「『高貴かつ病弱な身でありながら、召し使いになることを潔く受け入れ、真摯な態度に使用人たちも感銘を受けている』とか、
『妖精の知識を受け継ぐ聡明さで、弱者に貴重な薬湯や薬を惜しげなく提供する慈愛の人。見た目ばかりか、心まで美しい』
――といった調子で、大評判なんだお前は。俺に言わせりゃ、まだまだ褒め足りねえがな」
凛々しい眉毛の下で、タレ目に優しい笑い皺を寄せる寒月の笑顔。最高にイケメン。
「そうだな。だがアーネストがどれほど美しくて可愛くて綺麗か、その本当のところは、俺たちだけが知っていればいい話だ」
氷の彫像みたいな印象を与える端整な顔で、とろけそうなほど甘く微笑む青月。最高にイケメン。
そんな二人は……さっきから思ってたんだけど……
「きみたち、本当に脚長いよねえ」
「何だいきなり。褒め返し?」
「俺たちの魅力は脚だけか?」
「だって……」
いっぱいあるけど。こんなとこでは……言えないよ。
急に頬が火照ってうつむいたら、「可愛すぎるべ」「たまらんな」と両側から腕をまわされ、交互に抱き寄せられて、髪にキスされた。
「ダメだってば、こんなとこで」
「「お前が可愛いのが悪い」」
「もう……」
「おい、そこーっ! ぼくを無視してイチャコラするなっ!」
皓月王子の怒声で、ハッと状況を思い出した。
いかんいかん。
イケメン双子の魅惑にやられて、皓月王子のことを忘れてた。
「うっせえな。てめえらこそ、くだらねえ芝居してねえでさっさと要点を話せゴラ」
「く、くだらないとは何だ! 話を聞いてなかったのか、ぼくはそこにいる兄上たちの婚約者に、処方を盗まれたんだぞ!」
寒月に凄まれて逃げ腰になりながらも、皓月王子は頑として主張を変えない。
「議長」
僕は片手を上げて、すっかり置物と化していた議長さんを見た。
「は、はい。何ですか、ウォルドグレイブ伯爵」
「発言よろしいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。では」
皓月王子に視線を移すと、彼はなぜかビクッと身を引いた。
それにはかまわず、話を進める。
「僕は薬草に頼って生きてきた人間ですから、人様にお出しする薬も安全性を第一に考えます。いいかげんなものを送り出したりはしません。
ですから謂れなき嫌疑や悪評を受け入れるつもりはありませんし、相応の処置をとらせていただきます。盗用に関する僕の弁明はすでに述べた通りで、あとは調査の問題ですから、ここで『やったやらない』を争うのは時間の無駄でしょう」
ここまで言って、皓月王子の反応を確かめたが、何やらボーッとしている。
そこへ隣のドーソン氏が何やら耳打ちすると、王子は急に血相を変えた。
「て、敵国の貴族ごときの分際で、この国の王子である僕の追及から逃れるつもりか!」
「さて、皓月殿下にお尋ねします」
「あ、はい」
「薬師としての実力を自負していらっしゃるとのことですが」
「しているとも! ていうか貴様、重ね重ね無視するなっ」
「そもそも殿下が薬師として活動した履歴は? 殿下のお言葉だけでなく、実際に何の薬を何人に、いつどこで配ったのか。処方はもちろん、薬草の産地や入手経路、加工する場合はどこで行われたのか、時期は、期間は等々、必要な記録のご提出も、僕が処方を盗んだと主張なさる根拠と証拠と共にお願いします。それから、」
「まっ、待て、待てっ!」
ぷくぷくした両手を突き出しながら、皓月王子が声を荒らげた。
なぜかゼイハア息を乱している王子だけでなく、協会員の皆さんまで唖然として僕を見ている。
いつものこととわかっている双子だけが笑いをこらえて震えており、刹淵さんも相変わらず微笑んでいた。
皓月王子は、またもギョキッと僕を睨んだ。
「こいつ……おっとりしてると見せかけて、急にまくし立てやがる」
「薬草オタクなら当然の疑問点です」
けどまあ、これだけ堂々と嘘をつくからには、権力と財力のある正妃の家門が、ぬかりなく偽の証拠を用意している可能性が高い。
だから本当は、実際に皆の前で、薬師としての腕前を見せてもらうのが、一番手っ取り早いと思うのだけど……。
そんなことを考えていたら、驚いたことに皓月王子のほうから、その話を振ってきた。
「面倒な手間をかけずとも、互いの実力を証明する良い方法がある!」
「良い方法ですか?」
「そうだ。ぼくとお前で薬湯作りの勝負をして、皆に実力を見てもらおう」
ドーソン氏や御形氏ら、僕を糾弾するため審問会に臨んでいた面々は、返す刀で、ハーケン氏ならぬ皓月王子支持を表明する段取りだったわけか。
「不遇の環境の中で薬師の才能を開花させるとは!」
「さすがは皓月殿下!」
などと取って付けたように、汗をかきかき称賛の言葉を並べている。が、医師も薬師も協会員の半数は、しらけた空気を漂わせていた。
刹淵さんの説明通り、全員が同じ意見というわけではないのだろう。
「あんなわかりやすい馬鹿に、薬草を扱えるわけがない」
長い脚を投げ出して座る寒月が、低く呟くと。
同じくふんぞり返って長い脚を組む青月も、冷たく笑って同意した。
「今の『主張』すら、アーネストのパクりっぽかったしな」
「それな。城で迫害された母とその息子が、遠い領地で暮らすとか、薬を配ったとかな」
「巷でアーネストに対する評価がうなぎ上りなものだから、クソ女も危機感を抱いているんだろう。お前の評判を落として、お前を嫁にする俺たちの評判も貶めたいのさ。わかりやすいクソ女だ」
「僕の評判?」
首をかしげると、ゴブショット毛付きの長靴を履いた寒月のつま先がピョコンと上がり、「どうせ自覚無いんだろう」と破顔した。
「『高貴かつ病弱な身でありながら、召し使いになることを潔く受け入れ、真摯な態度に使用人たちも感銘を受けている』とか、
『妖精の知識を受け継ぐ聡明さで、弱者に貴重な薬湯や薬を惜しげなく提供する慈愛の人。見た目ばかりか、心まで美しい』
――といった調子で、大評判なんだお前は。俺に言わせりゃ、まだまだ褒め足りねえがな」
凛々しい眉毛の下で、タレ目に優しい笑い皺を寄せる寒月の笑顔。最高にイケメン。
「そうだな。だがアーネストがどれほど美しくて可愛くて綺麗か、その本当のところは、俺たちだけが知っていればいい話だ」
氷の彫像みたいな印象を与える端整な顔で、とろけそうなほど甘く微笑む青月。最高にイケメン。
そんな二人は……さっきから思ってたんだけど……
「きみたち、本当に脚長いよねえ」
「何だいきなり。褒め返し?」
「俺たちの魅力は脚だけか?」
「だって……」
いっぱいあるけど。こんなとこでは……言えないよ。
急に頬が火照ってうつむいたら、「可愛すぎるべ」「たまらんな」と両側から腕をまわされ、交互に抱き寄せられて、髪にキスされた。
「ダメだってば、こんなとこで」
「「お前が可愛いのが悪い」」
「もう……」
「おい、そこーっ! ぼくを無視してイチャコラするなっ!」
皓月王子の怒声で、ハッと状況を思い出した。
いかんいかん。
イケメン双子の魅惑にやられて、皓月王子のことを忘れてた。
「うっせえな。てめえらこそ、くだらねえ芝居してねえでさっさと要点を話せゴラ」
「く、くだらないとは何だ! 話を聞いてなかったのか、ぼくはそこにいる兄上たちの婚約者に、処方を盗まれたんだぞ!」
寒月に凄まれて逃げ腰になりながらも、皓月王子は頑として主張を変えない。
「議長」
僕は片手を上げて、すっかり置物と化していた議長さんを見た。
「は、はい。何ですか、ウォルドグレイブ伯爵」
「発言よろしいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。では」
皓月王子に視線を移すと、彼はなぜかビクッと身を引いた。
それにはかまわず、話を進める。
「僕は薬草に頼って生きてきた人間ですから、人様にお出しする薬も安全性を第一に考えます。いいかげんなものを送り出したりはしません。
ですから謂れなき嫌疑や悪評を受け入れるつもりはありませんし、相応の処置をとらせていただきます。盗用に関する僕の弁明はすでに述べた通りで、あとは調査の問題ですから、ここで『やったやらない』を争うのは時間の無駄でしょう」
ここまで言って、皓月王子の反応を確かめたが、何やらボーッとしている。
そこへ隣のドーソン氏が何やら耳打ちすると、王子は急に血相を変えた。
「て、敵国の貴族ごときの分際で、この国の王子である僕の追及から逃れるつもりか!」
「さて、皓月殿下にお尋ねします」
「あ、はい」
「薬師としての実力を自負していらっしゃるとのことですが」
「しているとも! ていうか貴様、重ね重ね無視するなっ」
「そもそも殿下が薬師として活動した履歴は? 殿下のお言葉だけでなく、実際に何の薬を何人に、いつどこで配ったのか。処方はもちろん、薬草の産地や入手経路、加工する場合はどこで行われたのか、時期は、期間は等々、必要な記録のご提出も、僕が処方を盗んだと主張なさる根拠と証拠と共にお願いします。それから、」
「まっ、待て、待てっ!」
ぷくぷくした両手を突き出しながら、皓月王子が声を荒らげた。
なぜかゼイハア息を乱している王子だけでなく、協会員の皆さんまで唖然として僕を見ている。
いつものこととわかっている双子だけが笑いをこらえて震えており、刹淵さんも相変わらず微笑んでいた。
皓月王子は、またもギョキッと僕を睨んだ。
「こいつ……おっとりしてると見せかけて、急にまくし立てやがる」
「薬草オタクなら当然の疑問点です」
けどまあ、これだけ堂々と嘘をつくからには、権力と財力のある正妃の家門が、ぬかりなく偽の証拠を用意している可能性が高い。
だから本当は、実際に皆の前で、薬師としての腕前を見せてもらうのが、一番手っ取り早いと思うのだけど……。
そんなことを考えていたら、驚いたことに皓月王子のほうから、その話を振ってきた。
「面倒な手間をかけずとも、互いの実力を証明する良い方法がある!」
「良い方法ですか?」
「そうだ。ぼくとお前で薬湯作りの勝負をして、皆に実力を見てもらおう」
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