召し使い様の分際で

月齢

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第7章 薬草研究の賜物

満月の夜

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 気づけば今夜は、満月でございました。
 昼のような月の光を浴びて、妖精たちは歌い踊り、満ち満ちた月の力は人にも動物にもそわそわと、感情を昂らせる魔力を放っておりました。

 ――と、ウォルドグレイブ家に伝わる『妖精の書』に書かれていたけれど。
 本当にそうなのかもしれない……。
 温泉にはしゃぐ双子を岩場から見下ろしてから、僕は満月を見上げた。

「うおおぉ……最高。寒空の下の露天風呂、最高!」
「温泉に入ってるときだけ、雪が欲しい。雪見風呂になる」
「おお、それも良いな!」

 湯の中で盛り上がる双子をよそに、僕はまだ毛布で躰をくるんだまま、岩と一体化すべくしゃがみ込んでいた。

 だって、驚いているあいだに毛布で巻かれて、丸めた絨毯のようになったまま双子に抱っこされて運ばれ、あっという間に温泉まで来てしまい。
 二人は「まず俺たちで試すから」と、木々に見下ろされた岩場で躊躇なく素っ裸になると、喜び勇んで湯に入った。
 そこからはもう、二人とも大喜びで……

「おい、早く来いよアーネスト! 大丈夫だ、湯には何も問題ないぞ」
「もう脱いだんだろう? 早く入らないと風邪をひくぞ」

 脱いだは脱いだけど。二人と違って、岩場の陰でこそこそと。
 でも外で裸になったことなど無いから、こんな深夜のこんな森の奥で、誰かに見られる心配は無いはず……と自分に言い聞かせても、やっぱり落ち着かない。

 それに。
 どうしてよりによって、満月なんだよう。
 いくらモワモワと湯気が立ちのぼっていても、こんなにも煌々と明るくては。
 ……ダメだ、恥ずかしすぎる。無理。とても無理。

「あの、やっぱり僕帰るね。二人はどうぞごゆっくり」

 毛布にくるまったまま立ち上がり、くるりと踵を返したが、濡れた手で足首をガシッと掴まれた。

「うわあっ!」

 毛布を巻いていたものだからバランスがとれず、不安定な岩場の上でよろめいて、つんのめったところを青月の腕で抱き寄せられる。
 が、ほっとする間もなく、すかさず寒月に毛布を剥ぎ取られてしまった。

「ちょっ! 毛布!」
「風呂に入るのにいらねえだろ」
「入らない! 返せ!」

 青月に抱えられたまま、毛布を取り返そうと空しく腕を振り回してから、二人の沈黙に気がついた。
 ――黙々と、二人の視線が僕の躰の上を這っている。
 ボッ! と顔が熱くなった。

「なっ! なに無言で見てるんだよ!」
「なにって、言葉を失うほど美しい嫁の裸を」
「ああ……月の光そのものだ」
「何言ってんの!? もういい、温泉入る!」
「入らないんじゃなかったのか」

 意地悪くニヤニヤ笑う寒月を睨んでいたら、青月に横抱きにされた。
 驚いて声を上げたが、青月は僕を抱えたままお湯に入っていく。

「寒月。少しずつ湯をかけて慣らしてやれ」
「おう。てか俺が抱いて入れたかったのに」

 どっちも抱かなくていいから、おろしてくれ。
 ――と、抗議をする気も失せるほど……この温泉の感触は、極上だった。
 思わず長い吐息がこぼれる。

「……気持ちいい……」
「「だろう?」」

 子供みたいに得意そうに笑う二人に、こちらまで笑ってしまった。
 こんなに気持ちいい温泉に浸かっていたら、気持ちまでゆったりほぐれちゃうね。

 三人そろって、しばらく静かに、夜の森を照らす月に見惚れた。
 お湯の流れる音、風が梢を揺らす音、梟の声。
 森の香りの冷たい風が、この温泉独特のまろやかな匂いを、ふわりとかき混ぜていく。

「アーネスト。のぼせるから、少し湯から出よう」

 先に湯から上がって岩場に腰かけていた青月に呼ばれて、素直に湯から上がると、「くっついてろ」と膝の上を示された。膝に座れと。

 いつもなら抵抗するのに……
 このときはなぜだか、誘われるがまま。
 きっと、満月だからだ。きっとそう。

 雫を滴らせて近づく僕を、眩しいものでも見るように見つめていた青月に、両頬をつつまれ……口づけられても。
 そのまま手を引かれて、口づけたまま青月の太腿をまたいで座るという、恥ずかしい格好になっても。
 絡めた舌が、その羞恥ごと僕を酔わせる。

「アーネスト。俺には?」

 拗ねたような寒月の声も、愛しくて。
 微笑んで、青月の首に腕をまわしたまま、もう片方の腕を寒月にのばすと、

「……色っぽすぎる。たまんねえな、その顔」

 唸るように言うや、荒々しく口づけてきた。
 青月の、悦楽の蜜を探るような口づけとは別の。
 快楽を植えつけるような、寒月のキス。

「んあ……っ」

 熱を逃がそうと吐息を漏らしたが、青月の指に胸の小さな突起を愛撫されて、普段はまったく意識していないそこが、全身を震わせるほどの快感を呼んだ。

「やっ、あ……」

 湯から上がったのに、躰が火照る。
 密着した下半身は、二人の雄の猛りを伝えていた。
 二人だけじゃ、ないけど……。

 青月が僕の唇を奪い返すと、今度は寒月の手が僕の内腿を撫で上げた。
 大きな手のひらが、優しく僕のものをつつむ。
 くちゅっと淫らな音をたてたのが、やけに耳に響いた。

「アーネストはいつも美人だが……感じているときのお前は、一段と綺麗だ」

 口づけの合間に青月が囁けば、

「その上、食っちまいたいほど可愛い」

 寒月が甘く耳打ちする。
 二人とこんなことをするのは、これが初めてではないけど……
 野外で、躰も痴態もすべて晒しているなんて、信じ難いほど恥ずかしい以前の僕なら考えられない。
 
 なのに、二人が求めてくれるのが嬉しくて。
 その喜びが、さらに快感を煽る。

「あ、あ……あっ」 
「愛してる、アーネスト。お前だけだ」

 囁いた寒月の手が、焦らすように、屹立した僕のものから離れて。
 思わずねだるように腰をくねらせると、濡れた指がさらに奥へと触れた。

「ひあっ!」

 ビクンと仰け反った僕を、口づけであやした青月が、「寒月」と鋭く言った。

「わかってるな?」
「当たり前だ」
 
 不機嫌そうに答えた声は、すぐにとろけそうなほど甘く変わる。

「ココは、お前にもっと体力がつくまでとっておこうな」

 耳元に熱く吹き込まれて、痺れるような愉悦と、強烈な不満に身の内を灼かれた。
 二人の思いやりは、充分わかっている。
 だからこそ。

「嫌」
「「ん?」」

 慈しむように訊き返す、二人の声。
 好き。この二人のことが大好きで、たまらないから。

「もっと、して……」
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