召し使い様の分際で

月齢

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第7章 薬草研究の賜物

青月の領地へ

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 栴木センボク様から出された難題を達成してみせる! 
 と息巻いていた僕だが、特に解決方法を思いついたわけでもないので、とりあえず自分の商売を優先することにした。
 薬舗の新商品開発である。
 双子にそう伝えると、

「お前はほんとにマイペースだな!」

 寒月から額を小突かれてしまったが、青月は安堵したように、

「そのほうがいい。無茶はするな」

 と微笑んでいた。

 もちろん、条件達成も同時進行で考えるつもりだけども。
 二つ目の条件が『一年以内に五千万キューズを得る』だから、小銭だろうと稼いでおくに越したことはない。
 ウハウハの道も一歩から。手持ちの小銭が大金に化けるかもしれないしね。

 で、新商品だけど。
 次は保湿効果の高い化粧水とクリームを出したいなと思っている。
 ダースティンで領民たちに配って、大好評だったものだ。
 外仕事で肌荒れする者が多いので、顔だけじゃなく全身に使ってもらったら、皮膚の保護効果も高いとわかった。

「うっかりオオツタウルシに触っちまったけど、大丈夫だったよう」

 というようなことを何度も言われたので、さらに研究を重ねた。
 ちなみにオオツタウルシは有毒植物で、触れるとものすごく痒くなったり、発疹や大きな水疱ができることもある。

 その毒はすぐに石鹸で洗うことで悪化を防げるのだけど……僕のクリームはなんと、水分を加えると泡立って、石鹸のように使えるのだ!
 塗ってそのまま眠れば翌朝お肌ぷるぷるの保湿効果。濡らせば濃密泡で顔を洗える。便利だよね? 凄いよね?
 もちろん泡立たない普通のタイプもございます。お好みに合わせてどうぞ。

 ――なんて、脳内プレゼンと自画自賛はこのくらいにして。

 それらの原料は、積雪前にダースティンから取り寄せてある。
 でも現地調達できるに越したことはないので、醍牙で自生している薬草を調べたかった。
 品質がダースティン産に至らなければ、双子がつくってくれた『薬草研究室』で品質改良を試みてもいいのだし。

 ただ、あいにく醍牙は長い冬に入っていて、お外は白銀の世界。
 僕はこんなに雪が積もっている景色を見たことがなかった。
 道路の除雪はもちろん、氷柱とか雪だるまとか、屋根の雪下ろしなんかも初めて見たよ。

 いちいち目新しくて感動しちゃうけど、作業をする人たちは重労働で大変だよね。
 ……と思ってたら双子が、衛兵や使用人たちが総出でやっていた雪かきを手伝って、あっという間に片付けたのが凄すぎて笑ったけどね。
 馬力の差というか。あれが噂の猛虎の力か。

 その猛虎さんたちに、薬草について相談してみると。
 良いことを教えてくれた。

 王都のずっと外れにある碧雲ヘキウン町は、隣の州との境界に近く、王都の中では最も積雪が少ない地域なんだって。
 そこは青月の領地でもあり、眼前は海、背後は大森林から続く山々に囲まれた自然豊かなところだとか。

 それは……期待できそうではないですか!



 そんなわけで僕は今、碧雲町に来ている。
 醍牙に来て初めての小旅行。青月が連れてきてくれたんだ。
 今回は寒月が仕事で同行できなくて、悔しがっていたので可哀想だけど……。

「本当に雪が積もってないね!」

 青月の邸の前で馬車からおりると、思いっきり伸びをしながら感嘆の声を上げた。
 いや~雪の無い景色ひさしぶり! お山の緑が綺麗!

「ああ、冬でも殆ど積もらない。比較的温暖だから、ダースティン出身のお前には合うかもしれないな」

 優しい目で僕を見つめながら、青月は「風邪ひくぞ」とぐるぐるマフラーを巻きつけてきた。小さい子の世話をするみたいに。
 もう邸内に入ると思ったから外してたんだけど……。

 恥ずかしくてチラリと横を見ると、すぐそばにいると思っていた白銅くんは、両手に抱えた箱と共に、ずんずん玄関前へと移動していた。

「殿下! アーネスト様! 早く親マルムをお部屋に連れて行きたいです!」
「あ、そうだね。心配だもんね」

 白銅くんが持つ箱の中には、またも合体した巨大マルム茸が鎮座している。
 あの潰れてペッタンコになってから復活したマルム茸も、その後いつのまにやら合体してしまったようなのだ。

 ジェームズはマルム茸について、僕が知らない何かを知っている。
 先日届いた手紙には、『もしもマルム茸に異変が起こったら』とあった。なんだかマルム茸が合体することを予想してたみたいだ。
 あのボロボロ手紙では、謎が深まるばかりなので……早々に「もう一度教えて」と催促の便りを出したけど、時間かかるだろうなあ。

 でも、白銅くんは俄然張り切って、今回は巨大マルム茸持参で同行してくれた。

「今度こそ『異変』を目撃します! アーネスト様なら旅先でまたマルム茸を見つけるかもしれませんから、親マルムも連れていきましょう! そばで守ってやらなきゃですからねっ」

 親マルムと名付けてたんだね。可愛い。

 玄関前には邸の使用人たちが、主人の青月を出迎えるべくずらりと並んでいて、青月がそのうちのひとりに指示すると、先に白銅くんを部屋へ案内してくれた。
 そして青月は……恭しく僕の手をとると、とろけそうなほど甘く微笑んだ。

「お前は俺が案内する」

 う……ぎゃ……。
 いつもクールなイケメンの激甘笑顔の、この破壊力よ。
 待機する使用人の皆さんも、たまらずざわついている。

「せ、青月殿下が笑っていらっしゃる……!」
「初めて見た」

 皆さんにご挨拶したいな。
 でも青月が僕ばかり見ていて紹介してくれそうもないので、鼻まで隠れるほど巻かれたマフラーを片手でほどき、

「お世話になります」

 とりあえずそれだけ、笑顔で言うと。
 何人かが妙な声を出して、膝から崩れ落ちた。
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