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7・運命の人
すべての昼と夜とのあなたが
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「レダリオ」
泣きじゃくる愛しい人を、リーリウスは強引に抱き寄せた。
眼鏡をとってまぶたに口づけると、「放せスケベ王子ぃ!」と子供のようにポカポカ叩いて抗議されたが、それでも力を緩めてなどやらない。
「レダリオ。そんなに泣いたら綺麗な目が腫れてしまう」
「全然綺麗じゃない!」
「綺麗で美しくて可愛いレダリオ。私は本当に愚かで、観察力を自慢しておきながら、ずっとそなたの気持ちには気づかなかった。友という枷を、いつの間にか私も着けていたのだな。
でもだからこそあの夜、魂を揺さぶられた。
誰にも本気になれなかった私の目をひらかせてくれたのは、あの黒衣の麗人だ。そなたの本心に初めて出会い、ひと目で恋に落ち、初めてどうしようもないほど人を欲した」
強く抱きしめると、涙が熱く肩を濡らす。
抵抗は止んだものの、リーリウスの肩に顔をおしつけたまま、レダリオはくぐもった声で「駄目です」と呟いた。
「異形など忘れてください……あなたは国の内外から、跡継ぎを期待されている人です。あなたの血を引く子を見たいと、待ち望まれているんです」
「私は子供が好きだから、自分の血を引いていなくても我が子として大切にするよ」
「だ、駄目です! あなたという素晴らしい人の血を絶やすなんてそんな、そんなのっ」
リーリウスは苦笑して、わずかに躰を離した。
どんな顔をして言っているのかと思えば、学友選抜の日、どうしようもない痛みをこらえたまま去ろうとしていた、あのときの少年とまったく同じ表情。
「レダリオ。子供は子供だ。両親の長所を受け継ぐとは限らないし、ひどい親から素晴らしい子が生まれもする。どちらにせよ子は親の分身じゃなく、独立したひとりの人間だ。
それでもあくまで血筋にこだわるなら、愛人に産んでもらう手もあるけれど。私はそれを望まない。そなたが共にいてくれるなら、それだけで至上の喜びだ」
レダリオはブワッと新たな涙を浮かべ、それでも強情に首を横に振る。
「でも、でも」
「それとも……そなたはやっぱり、女性と結婚したい? 自分の血を引く子をつくり、後継者に据えることを一番に望む?
それなら私は潔く……いや、しばらくイジけて泣き暮らすだろうが、それでも身を引こう。愛する人の幸せが、私の幸せだから」
するとレダリオは、濡れた眦を吊り上げた。
「そっ、そんなの! わたしこそ、わたしなんかの血にこだわるわけないじゃありませんか! 父の命令だって本当はどうでもいい! でもあなたは違うから……だから……」
張り上げた声が、どんどん小さくなる。
代わりにまた涙がポタポタ落ちた。
「レダリオ。私を愛している?」
「……うぅ」
「愛しているだろう?」
「……し、知ってる、くせにっ」
「うん」
「知ってたくせに! 五人も片っ端から抱くなんて、ひどすぎるうぅ! エロ王子、ヤリチン、お祭り下半身ーっ!」
わぁわぁ泣き出したレダリオの耳元に「ごめんね」と囁いて、額と髪の毛にキスを降らせた。
「でも抱いてない。神々に誓って」
「うあぁぁぁ」
頽れかけたレダリオを支えて、「頼むからもう泣かないで」とハンカチを押し当てると、しゃくり上げながら潤んだ瞳が見上げてきた。
普段が冷静沈着なだけに、この落差。
目眩がするほど愛おしい。
けれど、一番たいせつなことを、まだ済ませていなかった。
二人の立つ窓辺以外は、室内はすっかり暗くなっている。
黄昏の空には小望月。
月の光を受けたレダリオも美しいけれど、リーリウスは名残惜しく躰を離して、机の上のランプに火を灯した。
離れた隙に鼻をかんでいたレダリオが、「殿下?」と不安そうにこちらを見る。
リーリウスは彼の隣に戻り、まっすぐ見つめたまま片膝で跪いた。
途端、レダリオが息を呑む。
「殿下、お、お立ちください」
「私が王子だからといって、遠慮せず。本当の気持ちを教えてください」
そうして、運命の人にもう一度、手を差し出した。
「美しい人。私はあなたが欲しい。この夜だけでなく、すべての昼と夜とのあなたが」
「殿下……」
相手の震える唇も、揺れる視線も、あの舞踏会の夜と一緒。
「私の浮き名を思えば、信じていただけないのも無理はありません。けれど王族の血に誓って、こんなことを言うのは初めてなのです。どうか――
私の妻になってください。私のただひとりの伴侶になってください」
レダリオの手は、胸の前で握りしめられていた。
けれどやがてゆっくりとひらいて、リーリウスの手に重ねられ――
「はい……なりたい、です」
その瞬間、しなやかな躰を抱きしめた。
「なりたいじゃなく、なるのだ。愛しているよレダリオ」
「わたしも……わたしも……!」
今度は拒まず、しがみつくように抱き返してくれる。
嵐のような激情に呑まれて、荒々しく唇を重ねた。
泣きじゃくる愛しい人を、リーリウスは強引に抱き寄せた。
眼鏡をとってまぶたに口づけると、「放せスケベ王子ぃ!」と子供のようにポカポカ叩いて抗議されたが、それでも力を緩めてなどやらない。
「レダリオ。そんなに泣いたら綺麗な目が腫れてしまう」
「全然綺麗じゃない!」
「綺麗で美しくて可愛いレダリオ。私は本当に愚かで、観察力を自慢しておきながら、ずっとそなたの気持ちには気づかなかった。友という枷を、いつの間にか私も着けていたのだな。
でもだからこそあの夜、魂を揺さぶられた。
誰にも本気になれなかった私の目をひらかせてくれたのは、あの黒衣の麗人だ。そなたの本心に初めて出会い、ひと目で恋に落ち、初めてどうしようもないほど人を欲した」
強く抱きしめると、涙が熱く肩を濡らす。
抵抗は止んだものの、リーリウスの肩に顔をおしつけたまま、レダリオはくぐもった声で「駄目です」と呟いた。
「異形など忘れてください……あなたは国の内外から、跡継ぎを期待されている人です。あなたの血を引く子を見たいと、待ち望まれているんです」
「私は子供が好きだから、自分の血を引いていなくても我が子として大切にするよ」
「だ、駄目です! あなたという素晴らしい人の血を絶やすなんてそんな、そんなのっ」
リーリウスは苦笑して、わずかに躰を離した。
どんな顔をして言っているのかと思えば、学友選抜の日、どうしようもない痛みをこらえたまま去ろうとしていた、あのときの少年とまったく同じ表情。
「レダリオ。子供は子供だ。両親の長所を受け継ぐとは限らないし、ひどい親から素晴らしい子が生まれもする。どちらにせよ子は親の分身じゃなく、独立したひとりの人間だ。
それでもあくまで血筋にこだわるなら、愛人に産んでもらう手もあるけれど。私はそれを望まない。そなたが共にいてくれるなら、それだけで至上の喜びだ」
レダリオはブワッと新たな涙を浮かべ、それでも強情に首を横に振る。
「でも、でも」
「それとも……そなたはやっぱり、女性と結婚したい? 自分の血を引く子をつくり、後継者に据えることを一番に望む?
それなら私は潔く……いや、しばらくイジけて泣き暮らすだろうが、それでも身を引こう。愛する人の幸せが、私の幸せだから」
するとレダリオは、濡れた眦を吊り上げた。
「そっ、そんなの! わたしこそ、わたしなんかの血にこだわるわけないじゃありませんか! 父の命令だって本当はどうでもいい! でもあなたは違うから……だから……」
張り上げた声が、どんどん小さくなる。
代わりにまた涙がポタポタ落ちた。
「レダリオ。私を愛している?」
「……うぅ」
「愛しているだろう?」
「……し、知ってる、くせにっ」
「うん」
「知ってたくせに! 五人も片っ端から抱くなんて、ひどすぎるうぅ! エロ王子、ヤリチン、お祭り下半身ーっ!」
わぁわぁ泣き出したレダリオの耳元に「ごめんね」と囁いて、額と髪の毛にキスを降らせた。
「でも抱いてない。神々に誓って」
「うあぁぁぁ」
頽れかけたレダリオを支えて、「頼むからもう泣かないで」とハンカチを押し当てると、しゃくり上げながら潤んだ瞳が見上げてきた。
普段が冷静沈着なだけに、この落差。
目眩がするほど愛おしい。
けれど、一番たいせつなことを、まだ済ませていなかった。
二人の立つ窓辺以外は、室内はすっかり暗くなっている。
黄昏の空には小望月。
月の光を受けたレダリオも美しいけれど、リーリウスは名残惜しく躰を離して、机の上のランプに火を灯した。
離れた隙に鼻をかんでいたレダリオが、「殿下?」と不安そうにこちらを見る。
リーリウスは彼の隣に戻り、まっすぐ見つめたまま片膝で跪いた。
途端、レダリオが息を呑む。
「殿下、お、お立ちください」
「私が王子だからといって、遠慮せず。本当の気持ちを教えてください」
そうして、運命の人にもう一度、手を差し出した。
「美しい人。私はあなたが欲しい。この夜だけでなく、すべての昼と夜とのあなたが」
「殿下……」
相手の震える唇も、揺れる視線も、あの舞踏会の夜と一緒。
「私の浮き名を思えば、信じていただけないのも無理はありません。けれど王族の血に誓って、こんなことを言うのは初めてなのです。どうか――
私の妻になってください。私のただひとりの伴侶になってください」
レダリオの手は、胸の前で握りしめられていた。
けれどやがてゆっくりとひらいて、リーリウスの手に重ねられ――
「はい……なりたい、です」
その瞬間、しなやかな躰を抱きしめた。
「なりたいじゃなく、なるのだ。愛しているよレダリオ」
「わたしも……わたしも……!」
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