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第10章 ヨメです

初めてのことばかり

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 レオンハルトに裸身を見られたのは初めてではない。尻まで見られている。
 だから恥ずかしがるのも今さらだろうと、わかってはいるのだが。
 こういうシチュエーションで、少しずつ互いに裸体になっていくというのが、こんなにもドキドキするものだとは知らなかった。心臓の音がうるさいほどだ。

 セットアップの寝衣の上衣を、あれよあれよという間に脱がされて、露出した首から肩、胸、脇腹へと、レオンハルトの手が滑っていく。
 ユーシアはそのたび、打ち上げられた魚みたいにピクン、ピクン、と反応して、胸の飾り辺りを青い瞳にじっと見つめられると、小さく呻いてしまった。

「レオンハルト様……そんなところをそんなに、見ないでくださいぃ」
「なぜ? こんなところに桃の花が咲いているのに、見惚れずにいられるわけがない」
 
 からかっているのか真面目なのかわからない声でそう言うと、鼻先で乳首をくすぐってきた。

「ひゃっ」
「うん。桃の花よりいい匂いがする」
「そんなの、ただの、石鹸の匂いですっ」
「そうか? もっともっといい匂いだと思うのだが」

 本当に今さらなのだけれど、平らな胸に注目されると、(やっぱり女性のほうがいいなって、我に返られたらどうしよう……)という不安が沸き起こってくる。
 ゆえに胸から興味を移してもらいたくて、姑息な手段に出た。

「レオンハルト様、ほら! あ、あっちに、露台に、えーと……小鳥が!」
「こんな夜中に?」
「う」

 作戦失敗。ユーシアは両手で顔を覆って、正直に懇願した。

「僕の胸なんかっ、そんなお見苦しいもの、もう見ないでくださいっ」
「信じられん」
「はい?」
「きみの美意識はどうなっているのだ。こんな白くてなめらかで綺麗なのに、どこが見苦しいんだ。正直、俺は、男の乳首を見て桃の花のようだと褒め称える人生など、あり得ないと思っていたのだぞ?」
「あり得なくて正解ですっ。そんなの、ただの乳首っ!」

 なんだか混乱してきて、わけもなく涙目になりながらそう言うと、レオンハルトは壮絶に色っぽく苦笑して、「……わかった」と銀の髪を掻き上げた。

「じゃあ俺が、ただの乳首じゃないと証明してやるから、任せなさい」
「へっ?」
「しーっ」

 唇に人差し指をあてて微笑んでから、彼の舌が、ユーシアの乳首をチロリと舐める。

「ひゃあっ」

 驚いて声が裏返った。とっさに口を覆ったけれど、さらに舌で転がすように舐られたり、強く吸われたりして、「あ、あ」と小さな声が次々こぼれる。
 男の乳首なんて、胸を構成する素材くらいにしか思っていなかったのに……レオンハルトの舌が触れるたび、ぞくりぞくりと快感が込み上げて、下半身まできゅうっと疼く。

「も、レオ、様……あっ、あ……」
「ん、美味い。……ほら。ただの乳首じゃないだろう?」
「うぅ、ずるいぃ」

 思わず、ふにゃふにゃとレオンハルトの胸を叩くと、そのまま覆い被さられて、深く口づけられた。先ほどより深く、貪るようなキス。
 口内を探られる動きに翻弄されて、どこで息をつけばいいのかわからなくて、苦しいのに気持ちよくて……快感のすべてが、熱を孕んで屹立したものへと繋がる。それが切なくて太腿が震えた。

「レオ、様。レオ様……」

 ねだるような声は、自分のものと思えない。
 恥ずかしい。でもユーシアが感じていることは、とうにレオンハルトにバレているだろうから、取り繕っても意味はない。

「いい子だ、ユーシア」

 キスの合間に囁きながら、長い腕が器用に動いて、ユーシアの下衣を下着ごとずり下ろす。途端、押し込められていたものが解放されて、ぷるんと勃ち上がった。

「あっ!」

 反射的に両手で隠そうとしたが、足首に留まっていた下衣をスポンと抜かれて、両脚を割られる。そこへレオンハルトが躰を寄せてきて、脚を閉じることも、もの欲しげに震えているものを隠すこともできなくなった。
 それどころかレオンハルトの硬い腹に擦られて、先端からとろりと透明な雫が溢れてくる。

「うー……」

 躰中を熱くしながら、猫みたいに唸った。
 知るとするとでは大違いだ。裸になってああして、こうしてと学んでいたのに、いざ自分が一糸まとわず脚をひらき、淫らに勃ち上がったものを見られていると思うと……

「うー。もうやだ、恥ずかしいぃ」

 耐え切れず、またも両手で顔を隠した。股間は丸出しなのに。
 すると、またもレオンハルトが微笑んで、「しーっ」と、今度はユーシアの唇に人差し指をあててきた。

「何も恥ずかしいことなんかない。ユーシアが感じてくれると、俺は最高に嬉しい」
「うれ、しい……?」
「ああ。ほら」

 レオンハルトの手がユーシアの手を取り、自分の屹立へと導いた。レオンハルトはまだ下衣を着けたままだったのに、その雄々しさと大きさはしっかり伝わってきて、ユーシアは「あ……」と頬を熱くした。
 
「おっきい」
「ユーシアを見て、触れているから、こうなる」

 いや、ユーシアは関係なく、そもそも立派なのだと思われるが……
 ユーシアはこれまで、他者の股間など挿絵や彫像でしか見たことがなかったから、ついつい興味深く、かたちや重量感を確かめてしまった。
 ヒクンとレオンハルトのものが動いて、しつこく触ってしまっていたことに気づき、あわてて手を引く。
 そうして、赤くなっているであろう顔でレオンハルトを見上げた。

「……おっきい」

 馬鹿みたいに繰り返すと、レオンハルトは満足そうにうなずいた。

「俺がこうなっていても、ユーシアは俺を嫌いにならないだろう?」
「はい……絶対に」
「俺も同じだ。ユーシアが感じてくれたら、嫌いになるどころかもっと愛おしくなる。だから気持ちよければ隠さないでほしい」
「す、すっごく恥ずかしくても……?」
「ああ。知識より、俺の言うことを信じろ。ん?」

 チュッと音をたててキスされて、ユーシアはコクコクうなずいた。
 本で得た知識などより、レオンハルトを信じるに決まっている。
 だからまずは、ちょっと大胆におねだりしてみることにした。

「レオンハルト様……」
「うん?」
「キスして、ください」
「喜んで」

 優しく啄むようなキスが降ってきて、やがて深く舌が絡み合う。キスがこんなに気持ちいいものだなんて、知らなかった。
 ゆっくりと離れたレオンハルトの唇が、ユーシアの額に、鼻に、頬に、首筋に、とキスの雨を降らせる。キスは止めぬまま、レオンハルトが下衣も脱いだ。
 ユーシアの視線が下がって、レオンハルトの雄渾で止まる。

 ……衣服越しに確認したよりも、実物のほうがド迫力。当たり前だが。

 レオンハルトには乳首を見るなと言っておいて、ユーシアはまじまじと、レオンハルトの立派なものを見つめてしまった。ユーシアに向けられた、欲望の証。

 だが見入っている場合ではなかった。
 レオンハルトの大きな手が、ユーシアの屹立をそっと握ってきたのだ。
 初めてそこに触れられて、「あっ」と声を洩らしたけれど、『隠さないでほしい』と言われたことを思い出し、ゆるゆると扱かれるに任せた。

「んっ、んっ」

 人に触れられる感触は強烈すぎて、こらえきれない声が洩れる。緩急をつけて扱かれるたび、先走りが水音をたてた。

「あっ、だめ、はな……してっ」
「大丈夫。一度出せばいい」
「あ、あ……っ」

 あっというまに追い上げられて、ユーシアはレオンハルトの手に放った。
 初めて人の手で達したという衝撃と、脳天が痺れるような射精の快感で呼吸が乱れて、レオンハルトが手際よく汚れを拭ってくれるのをボーッと見ていた。

(――これで、終わり……?)

 いや、そんなはずはない。
 レオンハルトはまだ達していないし、男性同士の場合はお尻を使うのだということはユーシアも知っている。
 ただ……あれほど大きなものが、本当に入るのか疑問だが。

 ぼんやり考えているうちに、レオンハルトが立ち上がった。
 それを見て、まさか本当にもう終わりなのだろうかと焦って上半身を起こす。
 しかしレオンハルトは脇机の前に立つと、いつのまにやらそこに置かれていた、芸術品のような箱を手に戻ってきた。

「それは」

 ユーシアは目を瞠った。
 それはあの、王様から頂戴した、魔抱卵が収められた木の小箱だった。
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