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「……それでね、私はあなたのお兄さんから『自分の全てを懸けられる何かを見つけろ』って言われたのよ。『美咲が心から絵を愛したように、お前も心から愛せる何かを見つけろ』ってね。
……でもね、実はもう見つけているのよ」
そう言って蒼子は、青く晴れた空を見上げてから言葉を続けた。
「私ね、天文学者になるの」
そんな予想外の言葉に、俺と葉原は思わず声が溢れそうになるのを抑えて顔を見合わせる。
……天文学者。名前だけ聞いても、天体を調査する職業だということ以外、どんなことをするのかいまいち頭に浮かんでこない。
けれど、なろうと思ってなれるような職業でないことは確かだろう。
しかし、蒼子は今「天文学者になるの」と言った。
『なりたい』でも『目指したい』でもなく、『なる』と、そう断言した。
その言葉からは、彼女の強い信念と覚悟、そして大きな自信が伝わってくる。
全く、いかにも『天才 白月蒼子』らしい発言だと、俺たちは互いに口元に笑みを浮かばせた。
蒼子は続ける。
「地球から何光年も離れているはずの光が、点となって今日も私たちの元にしっかりと届く。そんな、近いようで遥か遠くに存在する星が、私は好き。星には、人を惹きつける何かがある。私はそれを解明したい。そして出来ることなら、まだ誰も発見していない星を見つけて名前をつけてみたい。
……それが私の夢。私の全てを懸けて挑戦したいと思っていること」
そう彼女に向かって自分の夢を語る蒼子は、何より美しく輝いて見えた。
蒼子こそが俺にとってのシリウスだと、本気でそう思うほどには——。
「だからね、美咲さん」
一言一言を形にするように、蒼子が彼女に向けて言葉を発する。
「あなたには、そんな私を遠くから見ていて欲しいの。……もちろん、あなたから絵を、夢を、命を、奪ってしまった私がこんなことをお願い出来る立場にないことは分かってる。他人を不幸に陥れておいて、自分は幸せになろうだなんて、そんな都合のいいことが許されるはずないのも理解してる。
……だけど、それでも! あなたには、私のことを見ていてもらいたい。
……もう二度と、大切なものから逃げ出さないように」
蒼子はそう言い終わると、ゆっくりと腰を上げて立ち上がり、もう一度彼女に向かって口を開く。
「あの日、私に声をかけてくれてありがとう。
同じ時間を過ごしてくれて、ありがとう。
私に沢山の笑顔を見せてくれて、ありがとう。
……そして、さよなら。
私の、初めての、大切な、大切な、お友達……」
声が、震えていた。
沢山の『ありがとう』と『ごめんなさい』。それから、ずっと言うことのできなかった……いや、決して言いたくはなかっただろうその言葉を、蒼子は肩を震わせながらしっかりと口に出した。
堪え切れない涙と声が、静かな霊園にじわりじわりと染み渡る。
すると突然、蒼子の涙を拭うかのような強い風が吹いた。
「うわっ」
葉原がそう声を上げて髪を押さえる。
風は花を揺らし、雲を動かし、髪を靡かせると、瞬く間にどこか遠くへ消えていってしまった。
「強かったねぇ」
「あぁ」
俺は驚いたように呟く葉原にそう返すと、風が去っていった方を見つめて、小さな笑い声を上げた。
「晴人くん、どうしたの?」
「あぁ、いや……」
不思議そうに目を向ける葉原と蒼子にそう答えてから、俺は今一度笑みを浮かべた。
だって仕方ないだろう。
今の風は、秋のものにしてはやけに暖かいように感じられてならなかったんだから——。
……でもね、実はもう見つけているのよ」
そう言って蒼子は、青く晴れた空を見上げてから言葉を続けた。
「私ね、天文学者になるの」
そんな予想外の言葉に、俺と葉原は思わず声が溢れそうになるのを抑えて顔を見合わせる。
……天文学者。名前だけ聞いても、天体を調査する職業だということ以外、どんなことをするのかいまいち頭に浮かんでこない。
けれど、なろうと思ってなれるような職業でないことは確かだろう。
しかし、蒼子は今「天文学者になるの」と言った。
『なりたい』でも『目指したい』でもなく、『なる』と、そう断言した。
その言葉からは、彼女の強い信念と覚悟、そして大きな自信が伝わってくる。
全く、いかにも『天才 白月蒼子』らしい発言だと、俺たちは互いに口元に笑みを浮かばせた。
蒼子は続ける。
「地球から何光年も離れているはずの光が、点となって今日も私たちの元にしっかりと届く。そんな、近いようで遥か遠くに存在する星が、私は好き。星には、人を惹きつける何かがある。私はそれを解明したい。そして出来ることなら、まだ誰も発見していない星を見つけて名前をつけてみたい。
……それが私の夢。私の全てを懸けて挑戦したいと思っていること」
そう彼女に向かって自分の夢を語る蒼子は、何より美しく輝いて見えた。
蒼子こそが俺にとってのシリウスだと、本気でそう思うほどには——。
「だからね、美咲さん」
一言一言を形にするように、蒼子が彼女に向けて言葉を発する。
「あなたには、そんな私を遠くから見ていて欲しいの。……もちろん、あなたから絵を、夢を、命を、奪ってしまった私がこんなことをお願い出来る立場にないことは分かってる。他人を不幸に陥れておいて、自分は幸せになろうだなんて、そんな都合のいいことが許されるはずないのも理解してる。
……だけど、それでも! あなたには、私のことを見ていてもらいたい。
……もう二度と、大切なものから逃げ出さないように」
蒼子はそう言い終わると、ゆっくりと腰を上げて立ち上がり、もう一度彼女に向かって口を開く。
「あの日、私に声をかけてくれてありがとう。
同じ時間を過ごしてくれて、ありがとう。
私に沢山の笑顔を見せてくれて、ありがとう。
……そして、さよなら。
私の、初めての、大切な、大切な、お友達……」
声が、震えていた。
沢山の『ありがとう』と『ごめんなさい』。それから、ずっと言うことのできなかった……いや、決して言いたくはなかっただろうその言葉を、蒼子は肩を震わせながらしっかりと口に出した。
堪え切れない涙と声が、静かな霊園にじわりじわりと染み渡る。
すると突然、蒼子の涙を拭うかのような強い風が吹いた。
「うわっ」
葉原がそう声を上げて髪を押さえる。
風は花を揺らし、雲を動かし、髪を靡かせると、瞬く間にどこか遠くへ消えていってしまった。
「強かったねぇ」
「あぁ」
俺は驚いたように呟く葉原にそう返すと、風が去っていった方を見つめて、小さな笑い声を上げた。
「晴人くん、どうしたの?」
「あぁ、いや……」
不思議そうに目を向ける葉原と蒼子にそう答えてから、俺は今一度笑みを浮かべた。
だって仕方ないだろう。
今の風は、秋のものにしてはやけに暖かいように感じられてならなかったんだから——。
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