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9月17日 月曜日。晴れ。
2日間に渡る凪ノ宮高校文化祭が静かに幕を閉じ、それから一夜が明けた今日。天文部員の面々は電車とバスを乗り継ぎ、隣県のとある町へとやって来ていた。
***
俺たちは駅前の花屋で出来合いの花束を1束購入すると、駅から出ているバスに乗り込み、それから30分ほどバスに揺られて目的地付近のバス停で下車した。
平日ということもあってもともと乗客は少なく、ここで下車したのは俺たち3人だけだったようで、バスは俺たちが降りたのを確認すると、大きな走行音を響かせながら次のバス停へ向かって去っていった。
そうしてバスの姿が見えなくなったところで、俺は改めて辺りをよく見回す。
けれど視界に映るのは、広大な田畑と等間隔に建てられている電波塔くらいで、人が出入りするような建物は見当たらない。
「何もねぇな」
思わずそう声に出して呟くと、隣に立つ蒼子が「まぁ」と声を返した。
「ここら辺は、町でも外れの方だから」
「そうなのか」
「市街地に行けば、私たちの街と似たような景色が見られるはずよ」
そう言って蒼子は「行きましょう」と、先頭を切って歩き出した。俺と葉原はそんな蒼子の後ろについて目的地へと向かう。
そんな中、俺は今一度ここからの景色をよく眺めながらふと考える。
初めて訪れる土地、初めて見る景色、初めて感じる風の声。
……ここが、蒼子が昔住んでいた町なのか。
ずっと長い間、共に過ごして来たようにも思えるけれど、実際は生まれた町も育った環境も違う。
俺の知らない蒼子が、この町には沢山眠っている。
そんな新鮮な気持ちと、彼女のことをもっとよく知りたいという強い好奇心を抱きながら、俺は足を進める。
そうして緩やかな上り坂になっている道を歩いていくと、やや遠方に目的地案内の看板が立っているのが見えた。
俺たちは案内板の指示に従って歩道を歩いていく。すると、蒼子と俺に挟まれる形で歩いていた葉原が「あっ」と声を上げた。
「あれじゃない?」
そう言って、葉原が指を差す方向に目を向けると、そこには目的地の入り口と思しき場所と目的地の名前が書かれた看板が見て取れた。
真っ白な看板には明朝体でレタリングされた『風花霊園』の文字が記載されている。
先頭を歩く蒼子はその看板のもとまでやって来ると、ポケットから1枚の紙を取り出し、紙に書かれている内容と看板の文字を確認し始めた。
それからしばらくして、紙をポケットにしまい直すと
「えぇ。ここで間違いないみたい」
そう言って、入り口から奥へと続く一本道に足を向け、再び歩き出した。
霊園に続く一本道の両側には桜の木が連なるように植えてあり、春になればきっと満開の桜がアーチのように見えることだろう。
そんなことを考えながら蒼子の後ろを付いていくと、突然開けた場所に出た。同時に、俺の視界には黒や白、灰色といった数多くの墓石が姿を現した。
「……場所は?」
俺は少し上擦った声で蒼子に尋ねる。
そもそも霊園なんて、ただの高校生が頻繁に訪れるような場所ではない。せいぜい盆の時期に墓参りに来るくらいのもんだ。
だから、自然と体に力が入ってしまうのも仕方のないことだろう。
しかし蒼子は、およそ高校生のものとは思えないほどの落ち着きを感じさせながら、「こっちよ」と、迷いのない足取りで霊園内を進んでいく。
俺と葉原は互いに顔を見合わせながら、そんな蒼子の背中を追った。
2日間に渡る凪ノ宮高校文化祭が静かに幕を閉じ、それから一夜が明けた今日。天文部員の面々は電車とバスを乗り継ぎ、隣県のとある町へとやって来ていた。
***
俺たちは駅前の花屋で出来合いの花束を1束購入すると、駅から出ているバスに乗り込み、それから30分ほどバスに揺られて目的地付近のバス停で下車した。
平日ということもあってもともと乗客は少なく、ここで下車したのは俺たち3人だけだったようで、バスは俺たちが降りたのを確認すると、大きな走行音を響かせながら次のバス停へ向かって去っていった。
そうしてバスの姿が見えなくなったところで、俺は改めて辺りをよく見回す。
けれど視界に映るのは、広大な田畑と等間隔に建てられている電波塔くらいで、人が出入りするような建物は見当たらない。
「何もねぇな」
思わずそう声に出して呟くと、隣に立つ蒼子が「まぁ」と声を返した。
「ここら辺は、町でも外れの方だから」
「そうなのか」
「市街地に行けば、私たちの街と似たような景色が見られるはずよ」
そう言って蒼子は「行きましょう」と、先頭を切って歩き出した。俺と葉原はそんな蒼子の後ろについて目的地へと向かう。
そんな中、俺は今一度ここからの景色をよく眺めながらふと考える。
初めて訪れる土地、初めて見る景色、初めて感じる風の声。
……ここが、蒼子が昔住んでいた町なのか。
ずっと長い間、共に過ごして来たようにも思えるけれど、実際は生まれた町も育った環境も違う。
俺の知らない蒼子が、この町には沢山眠っている。
そんな新鮮な気持ちと、彼女のことをもっとよく知りたいという強い好奇心を抱きながら、俺は足を進める。
そうして緩やかな上り坂になっている道を歩いていくと、やや遠方に目的地案内の看板が立っているのが見えた。
俺たちは案内板の指示に従って歩道を歩いていく。すると、蒼子と俺に挟まれる形で歩いていた葉原が「あっ」と声を上げた。
「あれじゃない?」
そう言って、葉原が指を差す方向に目を向けると、そこには目的地の入り口と思しき場所と目的地の名前が書かれた看板が見て取れた。
真っ白な看板には明朝体でレタリングされた『風花霊園』の文字が記載されている。
先頭を歩く蒼子はその看板のもとまでやって来ると、ポケットから1枚の紙を取り出し、紙に書かれている内容と看板の文字を確認し始めた。
それからしばらくして、紙をポケットにしまい直すと
「えぇ。ここで間違いないみたい」
そう言って、入り口から奥へと続く一本道に足を向け、再び歩き出した。
霊園に続く一本道の両側には桜の木が連なるように植えてあり、春になればきっと満開の桜がアーチのように見えることだろう。
そんなことを考えながら蒼子の後ろを付いていくと、突然開けた場所に出た。同時に、俺の視界には黒や白、灰色といった数多くの墓石が姿を現した。
「……場所は?」
俺は少し上擦った声で蒼子に尋ねる。
そもそも霊園なんて、ただの高校生が頻繁に訪れるような場所ではない。せいぜい盆の時期に墓参りに来るくらいのもんだ。
だから、自然と体に力が入ってしまうのも仕方のないことだろう。
しかし蒼子は、およそ高校生のものとは思えないほどの落ち着きを感じさせながら、「こっちよ」と、迷いのない足取りで霊園内を進んでいく。
俺と葉原は互いに顔を見合わせながら、そんな蒼子の背中を追った。
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