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「……そっか。残念だね」
俺の口から、蒼子は一身上の都合で打ち上げに参加することが出来ないと聞かされた誠は、そう言って控えめに肩を落としてみせた。
「白月さんと、もっと話せるいい機会だと思ったんだけどな」
続けて誠がそう呟くと、持っていたトングを同じ席に座る別の男子に受け渡した輝彦も会話に参加してきた。
「そうだぜ晴人! せっかく白月さんと親しくなるチャンスだっていうのによぉ……」
誠とは正反対に落胆を強く表に出す輝彦は、そう言って非難の目をこちらに向けてくる。
俺はそんな2人に対し、申し訳なさ半分愉快さ半分で言葉を返した。
「悪かったって。もし次があれば、俺の方からもっと強くあいつを誘ってみることにする」
「絶対だからな! 白月さんと普通に話せる奴なんて、晴人くらいしかいないんだからよ」
「……あぁ、分かった」
顔をぐっと近づけて念押ししてくる輝彦の圧が強すぎて、思わず仰け反り気味に返事を返す。するとその返答に満足したのか、輝彦はすっと身を引いて「よし」と答えたのち、爽快な笑みを浮かべて俺の右肩を強く叩いた。
そんなやり取りを正面でにこにこと眺めていた誠は、テーブル中央の網から十分に焼けたタンを自分の取り皿に移動させ、ふと何かを思い出したかのように「あっ」と声を洩らした。
俺と輝彦の視線が誠に向く。
「どうした?」
「あー、いや……そういえば、肝心なこと聞くの忘れてたなって思ってさ」
輝彦がぽかんと口を開けたままの誠に尋ねると、誠はそう言って視線を俺に向けてきた。
「……肝心なこと?」
今度は俺がそう訊き返すと、誠は口元に悪戯っ子のような笑みを浮かべながら静かに口を開いた。
「ねぇ、晴人」
「なんだよ」
「……白月さんとは、結局どうなったの?」
一瞬、呼吸が停止した。
それまで誠の方を向いていた輝彦は、その一言で思い出したかのように「あぁ!」と大袈裟に声を上げると、首を90度左回転させてこちらに目を向ける。
そんな2人から問い詰めるような視線を受ける俺は、「あー」だの「うー」だのと声を上げながら目線を左上の方に持っていき、思考を巡らす。
……どうして、こいつらはそれを知っているんだろう。
隠しカメラか盗聴器でも、制服に付いていたんだろうか?
それとも、望遠鏡か何かを使って、学校からあの展望台での一部始終を観察していたのだろうか?
……いや、もしかすると自分が気づいていないだけで、知らず識らずのうちに声や表情に出してしまっていたのかもしれない。
そう考えると、あまりの羞恥で途端に顔が熱くなった。掌と背中が酷く汗ばむ。
どうにか上手くはぐらかす方法がないかと模索する間にチラリと2人に目を向けるが、追求の瞳は変わらずこちらに向いたままで、どうにも逃がしてくれそうな雰囲気ではなかった。
俺はテーブル上のコップを一度傾けて乾いた口を潤すと、静かにコップをテーブルに戻し、諦念するように深く息を吐いてからゆっくりと口を開いた。
俺の口から、蒼子は一身上の都合で打ち上げに参加することが出来ないと聞かされた誠は、そう言って控えめに肩を落としてみせた。
「白月さんと、もっと話せるいい機会だと思ったんだけどな」
続けて誠がそう呟くと、持っていたトングを同じ席に座る別の男子に受け渡した輝彦も会話に参加してきた。
「そうだぜ晴人! せっかく白月さんと親しくなるチャンスだっていうのによぉ……」
誠とは正反対に落胆を強く表に出す輝彦は、そう言って非難の目をこちらに向けてくる。
俺はそんな2人に対し、申し訳なさ半分愉快さ半分で言葉を返した。
「悪かったって。もし次があれば、俺の方からもっと強くあいつを誘ってみることにする」
「絶対だからな! 白月さんと普通に話せる奴なんて、晴人くらいしかいないんだからよ」
「……あぁ、分かった」
顔をぐっと近づけて念押ししてくる輝彦の圧が強すぎて、思わず仰け反り気味に返事を返す。するとその返答に満足したのか、輝彦はすっと身を引いて「よし」と答えたのち、爽快な笑みを浮かべて俺の右肩を強く叩いた。
そんなやり取りを正面でにこにこと眺めていた誠は、テーブル中央の網から十分に焼けたタンを自分の取り皿に移動させ、ふと何かを思い出したかのように「あっ」と声を洩らした。
俺と輝彦の視線が誠に向く。
「どうした?」
「あー、いや……そういえば、肝心なこと聞くの忘れてたなって思ってさ」
輝彦がぽかんと口を開けたままの誠に尋ねると、誠はそう言って視線を俺に向けてきた。
「……肝心なこと?」
今度は俺がそう訊き返すと、誠は口元に悪戯っ子のような笑みを浮かべながら静かに口を開いた。
「ねぇ、晴人」
「なんだよ」
「……白月さんとは、結局どうなったの?」
一瞬、呼吸が停止した。
それまで誠の方を向いていた輝彦は、その一言で思い出したかのように「あぁ!」と大袈裟に声を上げると、首を90度左回転させてこちらに目を向ける。
そんな2人から問い詰めるような視線を受ける俺は、「あー」だの「うー」だのと声を上げながら目線を左上の方に持っていき、思考を巡らす。
……どうして、こいつらはそれを知っているんだろう。
隠しカメラか盗聴器でも、制服に付いていたんだろうか?
それとも、望遠鏡か何かを使って、学校からあの展望台での一部始終を観察していたのだろうか?
……いや、もしかすると自分が気づいていないだけで、知らず識らずのうちに声や表情に出してしまっていたのかもしれない。
そう考えると、あまりの羞恥で途端に顔が熱くなった。掌と背中が酷く汗ばむ。
どうにか上手くはぐらかす方法がないかと模索する間にチラリと2人に目を向けるが、追求の瞳は変わらずこちらに向いたままで、どうにも逃がしてくれそうな雰囲気ではなかった。
俺はテーブル上のコップを一度傾けて乾いた口を潤すと、静かにコップをテーブルに戻し、諦念するように深く息を吐いてからゆっくりと口を開いた。
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