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蒼子と柏城。長い間続いた2人の悪関係は、完全な決着とまではいかなかったが、一時休戦というところまでは持っていくことが出来た。
2人の間には、たった数日ではとても解消することのできない、1人の人間の大きな死が関係している。
彼らは今後、もっと長い時間をかけて話し合い、互いを理解し合っていかなくてはならない。……俺と蒼子が、そうして互いを理解し合ったように。
とにかく、2学期が始まると同時に凪ノ宮高校に転入してきた柏城翔太の影響による部の崩壊……そして、俺たち3人の関係性の決壊はなんとか免れることができ、ホッと胸を撫で下ろしたい気分で俺たちは2-1教室を後にした。
気がつけば時刻は19時を回っており、先程まで微かに聞こえていた他クラスからの話し声は聞こえなくなっていた。どうやら皆、俺たちが話し合いをしているうちに帰宅してしまったらしい。
俺たちも早いところ、校舎を出た方が良さそうだ。
そんなことを考えながら、俺たちは一度部室へ戻って荷物を取り、職員室へ鍵を返却してから昇降口へとやってきた。
俺が下駄箱に入った真っ黒な上履きを、持っていたビニール袋に包んで鞄の中に入れ、履いていたスリッパから外履きに履き替えていると、靴を履き終えた葉原が2年生用の下駄箱付近までやってきて口を開いた。
「もう、すっかり暗くなっちゃったね」
「9月に入って、日が落ちるのも早くなったからな」
「……夏も終わりかぁ」
俺は靴を履き替えると、夜空を見上げながら少し残念そうに呟く葉原に近寄って尋ねる。
「そういえば、葉原は打ち上げ行かないのか?」
「あー、うん。私たちのクラスは、来週打ち上げすることになってるからね。……みんな、これが初めての文化祭で結構疲れるだろうからってこともあってさ」
「なるほどな」
確かにそれが賢い選択だろう。
一応、明日明後日は振替休日ということになっているが、疲労が残った状態で打ち上げに参加し、体調が悪化したなんてことになれば本末転倒だ。
そんなことを考えながら、俺は後ろを振り返り、本日の主役とも言える蒼子に向かって、同じように尋ねる。
「なぁ」
「なに?」
「……お前は打ち上げ、どうすんだ?」
そんな俺の問いを受けた蒼子は、履き終えたローファーをかつかつと鳴らしながらこちらに向かって歩み寄り、軽く笑みを浮かべて口を開いた。
「私は遠慮しておくわ」
……まぁ、そうだと思った。
こいつは昔から、こういう手のイベント毎には参加したことがない。
けれど今日は、あまりにも沢山のことがあり過ぎた。その影響で、もしかすると……と思って尋ねてみたのだが、人の行動や考えというのはやはりそう簡単には変わらないらしい。
だが、それでもやはりクラスメイトとして、お互いをより深く知り合った仲として、もう少しだけ粘ってみたい。
「そうか。お前が来れば、みんな喜ぶと思うけどな。特に輝彦と誠の2人は」
ここで他人を引っ張ってくるあたり、やっぱり俺はヘタレだと実感する。
素直に「俺がお前に来て欲しいんだ」と言えれば、こいつの考えも少しは変わるはずなのに。
すると蒼子はそんな俺の心を読んだのか、手で口元を押さえながらクスクスと小さく笑い声をあげた。
「そうね。確かに2人にはまだ、ちゃんとしたお礼もしてないし、いい機会だと思うわ。だけど、ごめんなさい。……やっぱり、今日は遠慮しておくわ。家に帰って、少し感情の整理をしたいのよ」
そう言って、申し訳なさそうに眉を下げる蒼子を見て、俺は少し考えた後で言葉を返した。
「……分かった。あいつらには、俺の方から適当に理由つけて言っておく」
「えぇ、お願いするわね」
***
その後、俺たちは明日の約束を確認してから、正門前で別れることになった。
「じゃーね、晴人くん」
「また、明日ね」
帰り道が同じ葉原と蒼子は、まるで姉妹のように仲良く隣に並んでこちらに手を振る。
「あぁ。暗いから気をつけて帰れよ」
俺はそう言って軽く右手を上げ、2人と向かい合うようにして正門前に立つ。
「晴人くんも気をつけてね」
「おう」
そうして俺たちは短い言葉を交わすと、互いに背を向け、それぞれの歩幅で街灯の白い明かりに照らされる歩道を真っ直ぐと進んでいった。
2人の間には、たった数日ではとても解消することのできない、1人の人間の大きな死が関係している。
彼らは今後、もっと長い時間をかけて話し合い、互いを理解し合っていかなくてはならない。……俺と蒼子が、そうして互いを理解し合ったように。
とにかく、2学期が始まると同時に凪ノ宮高校に転入してきた柏城翔太の影響による部の崩壊……そして、俺たち3人の関係性の決壊はなんとか免れることができ、ホッと胸を撫で下ろしたい気分で俺たちは2-1教室を後にした。
気がつけば時刻は19時を回っており、先程まで微かに聞こえていた他クラスからの話し声は聞こえなくなっていた。どうやら皆、俺たちが話し合いをしているうちに帰宅してしまったらしい。
俺たちも早いところ、校舎を出た方が良さそうだ。
そんなことを考えながら、俺たちは一度部室へ戻って荷物を取り、職員室へ鍵を返却してから昇降口へとやってきた。
俺が下駄箱に入った真っ黒な上履きを、持っていたビニール袋に包んで鞄の中に入れ、履いていたスリッパから外履きに履き替えていると、靴を履き終えた葉原が2年生用の下駄箱付近までやってきて口を開いた。
「もう、すっかり暗くなっちゃったね」
「9月に入って、日が落ちるのも早くなったからな」
「……夏も終わりかぁ」
俺は靴を履き替えると、夜空を見上げながら少し残念そうに呟く葉原に近寄って尋ねる。
「そういえば、葉原は打ち上げ行かないのか?」
「あー、うん。私たちのクラスは、来週打ち上げすることになってるからね。……みんな、これが初めての文化祭で結構疲れるだろうからってこともあってさ」
「なるほどな」
確かにそれが賢い選択だろう。
一応、明日明後日は振替休日ということになっているが、疲労が残った状態で打ち上げに参加し、体調が悪化したなんてことになれば本末転倒だ。
そんなことを考えながら、俺は後ろを振り返り、本日の主役とも言える蒼子に向かって、同じように尋ねる。
「なぁ」
「なに?」
「……お前は打ち上げ、どうすんだ?」
そんな俺の問いを受けた蒼子は、履き終えたローファーをかつかつと鳴らしながらこちらに向かって歩み寄り、軽く笑みを浮かべて口を開いた。
「私は遠慮しておくわ」
……まぁ、そうだと思った。
こいつは昔から、こういう手のイベント毎には参加したことがない。
けれど今日は、あまりにも沢山のことがあり過ぎた。その影響で、もしかすると……と思って尋ねてみたのだが、人の行動や考えというのはやはりそう簡単には変わらないらしい。
だが、それでもやはりクラスメイトとして、お互いをより深く知り合った仲として、もう少しだけ粘ってみたい。
「そうか。お前が来れば、みんな喜ぶと思うけどな。特に輝彦と誠の2人は」
ここで他人を引っ張ってくるあたり、やっぱり俺はヘタレだと実感する。
素直に「俺がお前に来て欲しいんだ」と言えれば、こいつの考えも少しは変わるはずなのに。
すると蒼子はそんな俺の心を読んだのか、手で口元を押さえながらクスクスと小さく笑い声をあげた。
「そうね。確かに2人にはまだ、ちゃんとしたお礼もしてないし、いい機会だと思うわ。だけど、ごめんなさい。……やっぱり、今日は遠慮しておくわ。家に帰って、少し感情の整理をしたいのよ」
そう言って、申し訳なさそうに眉を下げる蒼子を見て、俺は少し考えた後で言葉を返した。
「……分かった。あいつらには、俺の方から適当に理由つけて言っておく」
「えぇ、お願いするわね」
***
その後、俺たちは明日の約束を確認してから、正門前で別れることになった。
「じゃーね、晴人くん」
「また、明日ね」
帰り道が同じ葉原と蒼子は、まるで姉妹のように仲良く隣に並んでこちらに手を振る。
「あぁ。暗いから気をつけて帰れよ」
俺はそう言って軽く右手を上げ、2人と向かい合うようにして正門前に立つ。
「晴人くんも気をつけてね」
「おう」
そうして俺たちは短い言葉を交わすと、互いに背を向け、それぞれの歩幅で街灯の白い明かりに照らされる歩道を真っ直ぐと進んでいった。
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