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俺たち2人の間をすり抜けるようにして広がる喧騒の中、俺は葉原に白月の過去に関する全てを話した。
時刻はもう14時を過ぎている。
これ以上、俺たちの元に訪れてくれた参加者を待たせるわけにはいかない。早いところ、教室内に案内しなくては……。
そんなことを考えて、俺は俯く葉原から目を逸らし、脇に見える待機列に目を向ける。
すると、正面に立って俯く葉原の口が小さく開いた。
「……そんなの——」
俺の話にずっと口を閉ざして耳を傾けていた葉原は、静かな、けれど確かに熱い感情がこもった声でそう呟く。
そして、普段の葉原からは想像もつかないような、何かを強く訴えかける表情をこちらに向けた。
「そんなの、蒼子ちゃん何も悪くないじゃん! 自分の気持ちに整理をつけるために、無理矢理蒼子ちゃんを悪者にしてるだけじゃん! ……そんなの、おかしいよ」
そんな葉原の言葉に、俺は熱を感じた。
熱い熱い葉原の想いが言葉となって、皮膚に触れ、骨を通り、俺の一番奥の部分にジワリと染み込んだ。
あぁ、そうだ。葉原の言う通りだ。
柏城はまだ、妹の死を受け入れきれていない。だからこそあいつは白月に、自分じゃ整理をつけることができない感情を押し付けて、倒すべき対象に仕立て上げているんだ。
「俺もそう思う。白月は何も悪くない。けど、あいつはそうは思っていない。全て自分が悪いと思っている。だから、あいつは俺たちの前からも姿を消した。……これ以上、誰かの人生を壊さないようにするために」
自分で白月の考えを言葉にしていくたびに、心を鋭利なものでズタズタに引き裂かれていく。痛い。最悪な気分だ。
一刻も早く、この不快な感情を取り除かなくてはならない。
俺からも、葉原からも。
——そして、白月からも。
俺はその不快な感情の塊を一度全て呑み込んで、口を開く。
「……葉原」
「なに? 晴人くん」
そう尋ねる葉原を真っ直ぐに見据え、決意を強く言葉にする。
「——俺は今から、あいつを連れ戻しに行く」
葉原はそれを聞いても、特に驚くことはしなかった。ただ「うん」とだけ答え、しっかりと頷いてくれた。
いなくなった白月を探して連れ帰る。
それは同じ天文部の部員として、クラスメイトとして、そして何より、彼女を愛する1人の凡人として、当然の選択だ。
しかし、これには1つ問題がある。
今、俺がこの場を離れれば、葉原が1人で参加者の対応をしなくてはならないということになる。けれど、たった1人でこの人数を相手にするのは流石に負担が大きすぎる。
何か、いい方法はないだろうか……。
と、そんな時、ふとある考えが頭に浮かんだ。俺はすぐさまスマホを取り出し、ある相手に連絡を入れる。
……頼む……出てくれ……!
祈りながらスマホを耳に当てると、耳元で発信音が鳴り出した。
1回、2回、3回。そして5回目の発信音が鳴り響いた後、ようやくその相手と電話が繋がった。
『……晴人か?』
「あぁ、俺だ」
『どうした? 部の方で手伝いしてたんじゃないのか?』
俺は短く息を吐き出すと、そう尋ねてくる相手に向かって用件を伝える。
「お前らに、折り入って頼みがある。……天文部の、後輩の、手助けをしてくれ」
きっと、相手には俺が何を言っているのかイマイチよく理解できていないだろう。突然、「手助けをしてくれ」なんて言われても困惑するだけだ。
けれど、そいつはさらに何かを尋ねるわけでもなくただ短くこう答えた。
『任せろ』と。
それから俺はスピーカーの向こう側にいる相手と、その近くから聞こえてくるもう1つの声の主に向かって礼を告げると、スマホをポケットにしまい込んだ。
「晴人くん、誰と電話してたの?」
首を傾げてそう訊いてくる葉原に、俺は少し考えた後で、照れを隠すように微笑を浮かべて答えた。
「……頼りになる親友たちだ」
時刻はもう14時を過ぎている。
これ以上、俺たちの元に訪れてくれた参加者を待たせるわけにはいかない。早いところ、教室内に案内しなくては……。
そんなことを考えて、俺は俯く葉原から目を逸らし、脇に見える待機列に目を向ける。
すると、正面に立って俯く葉原の口が小さく開いた。
「……そんなの——」
俺の話にずっと口を閉ざして耳を傾けていた葉原は、静かな、けれど確かに熱い感情がこもった声でそう呟く。
そして、普段の葉原からは想像もつかないような、何かを強く訴えかける表情をこちらに向けた。
「そんなの、蒼子ちゃん何も悪くないじゃん! 自分の気持ちに整理をつけるために、無理矢理蒼子ちゃんを悪者にしてるだけじゃん! ……そんなの、おかしいよ」
そんな葉原の言葉に、俺は熱を感じた。
熱い熱い葉原の想いが言葉となって、皮膚に触れ、骨を通り、俺の一番奥の部分にジワリと染み込んだ。
あぁ、そうだ。葉原の言う通りだ。
柏城はまだ、妹の死を受け入れきれていない。だからこそあいつは白月に、自分じゃ整理をつけることができない感情を押し付けて、倒すべき対象に仕立て上げているんだ。
「俺もそう思う。白月は何も悪くない。けど、あいつはそうは思っていない。全て自分が悪いと思っている。だから、あいつは俺たちの前からも姿を消した。……これ以上、誰かの人生を壊さないようにするために」
自分で白月の考えを言葉にしていくたびに、心を鋭利なものでズタズタに引き裂かれていく。痛い。最悪な気分だ。
一刻も早く、この不快な感情を取り除かなくてはならない。
俺からも、葉原からも。
——そして、白月からも。
俺はその不快な感情の塊を一度全て呑み込んで、口を開く。
「……葉原」
「なに? 晴人くん」
そう尋ねる葉原を真っ直ぐに見据え、決意を強く言葉にする。
「——俺は今から、あいつを連れ戻しに行く」
葉原はそれを聞いても、特に驚くことはしなかった。ただ「うん」とだけ答え、しっかりと頷いてくれた。
いなくなった白月を探して連れ帰る。
それは同じ天文部の部員として、クラスメイトとして、そして何より、彼女を愛する1人の凡人として、当然の選択だ。
しかし、これには1つ問題がある。
今、俺がこの場を離れれば、葉原が1人で参加者の対応をしなくてはならないということになる。けれど、たった1人でこの人数を相手にするのは流石に負担が大きすぎる。
何か、いい方法はないだろうか……。
と、そんな時、ふとある考えが頭に浮かんだ。俺はすぐさまスマホを取り出し、ある相手に連絡を入れる。
……頼む……出てくれ……!
祈りながらスマホを耳に当てると、耳元で発信音が鳴り出した。
1回、2回、3回。そして5回目の発信音が鳴り響いた後、ようやくその相手と電話が繋がった。
『……晴人か?』
「あぁ、俺だ」
『どうした? 部の方で手伝いしてたんじゃないのか?』
俺は短く息を吐き出すと、そう尋ねてくる相手に向かって用件を伝える。
「お前らに、折り入って頼みがある。……天文部の、後輩の、手助けをしてくれ」
きっと、相手には俺が何を言っているのかイマイチよく理解できていないだろう。突然、「手助けをしてくれ」なんて言われても困惑するだけだ。
けれど、そいつはさらに何かを尋ねるわけでもなくただ短くこう答えた。
『任せろ』と。
それから俺はスピーカーの向こう側にいる相手と、その近くから聞こえてくるもう1つの声の主に向かって礼を告げると、スマホをポケットにしまい込んだ。
「晴人くん、誰と電話してたの?」
首を傾げてそう訊いてくる葉原に、俺は少し考えた後で、照れを隠すように微笑を浮かべて答えた。
「……頼りになる親友たちだ」
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