俺が白月蒼子を嫌う理由

ユウキ ヨルカ

文字の大きさ
上 下
151 / 186

151

しおりを挟む
俺たち2人の間をすり抜けるようにして広がる喧騒の中、俺は葉原に白月の過去に関する全てを話した。

時刻はもう14時を過ぎている。
これ以上、俺たちの元に訪れてくれた参加者を待たせるわけにはいかない。早いところ、教室内に案内しなくては……。

そんなことを考えて、俺は俯く葉原から目を逸らし、脇に見える待機列に目を向ける。

すると、正面に立って俯く葉原の口が小さく開いた。


「……そんなの——」

俺の話にずっと口を閉ざして耳を傾けていた葉原は、静かな、けれど確かに熱い感情がこもった声でそう呟く。
そして、普段の葉原からは想像もつかないような、何かを強く訴えかける表情をこちらに向けた。


「そんなの、蒼子ちゃん何も悪くないじゃん! 自分の気持ちに整理をつけるために、無理矢理蒼子ちゃんを悪者にしてるだけじゃん! ……そんなの、おかしいよ」

そんな葉原の言葉に、俺は熱を感じた。
熱い熱い葉原の想いが言葉となって、皮膚に触れ、骨を通り、俺の一番奥の部分にジワリと染み込んだ。

あぁ、そうだ。葉原の言う通りだ。

柏城はまだ、妹の死を受け入れきれていない。だからこそあいつは白月に、自分じゃ整理をつけることができない感情を押し付けて、倒すべき対象に仕立て上げているんだ。


「俺もそう思う。白月は何も悪くない。けど、あいつはそうは思っていない。全て自分が悪いと思っている。だから、あいつは俺たちの前からも姿を消した。……これ以上、誰かの人生を壊さないようにするために」

自分で白月の考えを言葉にしていくたびに、心を鋭利なものでズタズタに引き裂かれていく。痛い。最悪な気分だ。

一刻も早く、この不快な感情を取り除かなくてはならない。

俺からも、葉原からも。

——そして、白月からも。


俺はその不快な感情の塊を一度全て呑み込んで、口を開く。


「……葉原」

「なに? 晴人くん」

そう尋ねる葉原を真っ直ぐに見据え、決意を強く言葉にする。


「——俺は今から、あいつを連れ戻しに行く」


葉原はそれを聞いても、特に驚くことはしなかった。ただ「うん」とだけ答え、しっかりと頷いてくれた。


いなくなった白月を探して連れ帰る。

それは同じ天文部の部員として、クラスメイトとして、そして何より、1として、当然の選択だ。


しかし、これには1つ問題がある。

今、俺がこの場を離れれば、葉原が1人で参加者の対応をしなくてはならないということになる。けれど、たった1人でこの人数を相手にするのは流石に負担が大きすぎる。

何か、いい方法はないだろうか……。


と、そんな時、ふとある考えが頭に浮かんだ。俺はすぐさまスマホを取り出し、ある相手に連絡を入れる。

……頼む……出てくれ……!

祈りながらスマホを耳に当てると、耳元で発信音が鳴り出した。

1回、2回、3回。そして5回目の発信音が鳴り響いた後、ようやくその相手と電話が繋がった。


『……晴人か?』

「あぁ、俺だ」

『どうした? 部の方で手伝いしてたんじゃないのか?』

俺は短く息を吐き出すと、そう尋ねてくる相手に向かって用件を伝える。


「お前らに、折り入って頼みがある。……天文部の、後輩の、手助けをしてくれ」

きっと、相手には俺が何を言っているのかイマイチよく理解できていないだろう。突然、「手助けをしてくれ」なんて言われても困惑するだけだ。
けれど、そいつはさらに何かを尋ねるわけでもなくただ短くこう答えた。

『任せろ』と。


それから俺はスピーカーの向こう側にいる相手と、その近くから聞こえてくるもう1つの声の主に向かって礼を告げると、スマホをポケットにしまい込んだ。


「晴人くん、誰と電話してたの?」

首を傾げてそう訊いてくる葉原に、俺は少し考えた後で、照れを隠すように微笑を浮かべて答えた。


「……頼りになる親友たちだ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

記憶屋

卯月青澄
ライト文芸
僕は風間。 人の記憶(思い出)を消す事の出来る記憶屋。 正しく言うと記憶、思い出を一時的に取り出し、『記憶箱』と呼ばれる小さな木箱に閉まっておく事が出来るというもの。 でも、それはいつかは本人が開けなければならない箱。 僕は依頼のあった人物に会いに行き、記憶を一時的に封印するのが仕事。 そして今日もこれから依頼人に会いに行く。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

「しん、とら。」

人体構成-1
ライト文芸
これは世界が終わるまでのほんの数年間の物語。 高校を卒業してから数年が経ち、久しぶりに皆で集まろうと声を掛けた二人組は最後の一仕事を終えるべく、少しづつ物語を綴っていく。 「たしかあれは……。」 話者:マメの語る思い出を、筆者:羽曳野冬華は多分に加筆しながら小説とし、これまでの数年間を皆で振り返りながら多くの人に読んでもらうべく完成させ、インターネットへと発信する(予定である)。 徐々に増える年越しメンバーと、彼女達と関わった怪異や遺物によって引き起こされた事件達は各々の目にどう映っていたのか。 一人の視点だけでは見えてこない裏側もいつか観られるかもしれない(し観られないかもしれない)。

気だるげ男子のいたわりごはん

水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【奨励賞】作品です。 ◇◇◇◇ いつも仕事でへとへとな私、清家杏(せいけあん)には、とっておきの楽しみがある。それは週に一度、料理代行サービスを利用して、大好きなあっさり和食ごはんを食べること。疲弊した体を引きずって自宅に帰ると、そこにはいつもお世話になっている女性スタッフではなく、無愛想で見目麗しい青年、郡司祥生(ぐんじしょう)がいて……。 仕事をがんばる主人公が、おいしい手料理を食べて癒されたり元気をもらったりするお話。 郡司が飼う真っ白なもふもふ犬(ビションフリーゼ)も登場します!

子供の言い分 大人の領分

ひおむし
恋愛
第二王子は、苛立っていた。身分を超えて絆を結んだ、元平民の子爵令嬢を苛む悪辣な婚約者に。気持ちを同じくする宰相子息、騎士団長子息は、ともに正義の鉄槌をくださんと立ち上がろうーーーとしたら、何故か即効で生徒指導室に放り込まれた。 「はーい、全員揃ってるかなー」 王道婚約破棄VSダウナー系教師。 いつも学園モノの婚約破棄見るたびに『いや教師何やってんの、学校なのに』と思っていた作者の鬱憤をつめた作品です。

猫と幼なじみ

鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。 ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。 ※小説家になろうでも公開中※

その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】 ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。 少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。 ※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。

叶うのならば、もう一度。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ライト文芸
 今年30になった結奈は、ある日唐突に余命宣告をされた。  混乱する頭で思い悩んだが、そんな彼女を支えたのは優しくて頑固な婚約者の彼だった。  彼と籍を入れ、他愛のない事で笑い合う日々。  病院生活でもそんな幸せな時を過ごせたのは、彼の優しさがあったから。  しかしそんな時間にも限りがあって――?  これは夫婦になっても色褪せない恋情と、別れと、その先のお話。

処理中です...