150 / 186
150
しおりを挟む
「——ねぇ、晴人くん……」
名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
そのまま目線を正面に立つ葉原に向けると、葉原は涙を拭った瞳で俺の顔をジッと見つめ、先ほどとは打って変わり芯の通った強い声で言葉を口にする。
「蒼子ちゃんに、何があったの?」
「……それは」
真意を突くような葉原の一言に、思わず口籠る。それと同時に、俺はふと気づく。
こいつは……葉原は、とっくに白月が何か重大な問題を抱えていることに、気づいていたんじゃないか?
それを知った上で葉原も俺と同じように、どうあいつに接すればいいのか、思い悩んでいたんじゃないか?
「蒼子ちゃん、ここのところずっと様子がおかしかったもん……! 私たちに心配かけないように、必死で隠してたつもりかもしれないけど、私にははっきりと分かったよ」
葉原は続ける。
「……ねぇ、晴人くん。晴人くんは、蒼子ちゃんに何があったのか知ってるんだよね?」
「…………」
「私だって、同じ天文部の一員なんだよ? ……だからさ、私も一緒に悩ませてよ。何ができるかは分かんないけど、それでも何もせずにはいられないよ……!」
周りの喧騒に負けじと、葉原がその想いを強く口にする。
目には再び涙が滲み、けれど、それを零さないよう必死に堪えている。
そんな葉原の姿を見て、俺は爪が掌に食い込むほど拳を強く握りしめた。
ずっとこのことは、白月がタイミングを見つけ、自分の口から葉原に話すべきだと、そう考えていた。第三者が他の誰かにベラベラと喋ることではないと、そう考えていたのだ。
けれど今、俺の目の前で彼女のことを誰よりも真剣に思い、涙を浮かべる少女の姿を見たことで、その考えは変わった。
そうして俺は、閉ざしていた口を静かに開くと、周りから聞こえる沢山の雑音に紛れるようにして、白月蒼子と柏城翔太の過去について話を始めた。
名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
そのまま目線を正面に立つ葉原に向けると、葉原は涙を拭った瞳で俺の顔をジッと見つめ、先ほどとは打って変わり芯の通った強い声で言葉を口にする。
「蒼子ちゃんに、何があったの?」
「……それは」
真意を突くような葉原の一言に、思わず口籠る。それと同時に、俺はふと気づく。
こいつは……葉原は、とっくに白月が何か重大な問題を抱えていることに、気づいていたんじゃないか?
それを知った上で葉原も俺と同じように、どうあいつに接すればいいのか、思い悩んでいたんじゃないか?
「蒼子ちゃん、ここのところずっと様子がおかしかったもん……! 私たちに心配かけないように、必死で隠してたつもりかもしれないけど、私にははっきりと分かったよ」
葉原は続ける。
「……ねぇ、晴人くん。晴人くんは、蒼子ちゃんに何があったのか知ってるんだよね?」
「…………」
「私だって、同じ天文部の一員なんだよ? ……だからさ、私も一緒に悩ませてよ。何ができるかは分かんないけど、それでも何もせずにはいられないよ……!」
周りの喧騒に負けじと、葉原がその想いを強く口にする。
目には再び涙が滲み、けれど、それを零さないよう必死に堪えている。
そんな葉原の姿を見て、俺は爪が掌に食い込むほど拳を強く握りしめた。
ずっとこのことは、白月がタイミングを見つけ、自分の口から葉原に話すべきだと、そう考えていた。第三者が他の誰かにベラベラと喋ることではないと、そう考えていたのだ。
けれど今、俺の目の前で彼女のことを誰よりも真剣に思い、涙を浮かべる少女の姿を見たことで、その考えは変わった。
そうして俺は、閉ざしていた口を静かに開くと、周りから聞こえる沢山の雑音に紛れるようにして、白月蒼子と柏城翔太の過去について話を始めた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
パパLOVE
卯月青澄
ライト文芸
高校1年生の西島香澄。
小学2年生の時に両親が突然離婚し、父は姿を消してしまった。
香澄は母を少しでも楽をさせてあげたくて部活はせずにバイトをして家計を助けていた。
香澄はパパが大好きでずっと会いたかった。
パパがいなくなってからずっとパパを探していた。
9年間ずっとパパを探していた。
そんな香澄の前に、突然現れる父親。
そして香澄の生活は一変する。
全ての謎が解けた時…きっとあなたは涙する。
☆わたしの作品に目を留めてくださり、誠にありがとうございます。
この作品は登場人物それぞれがみんな主役で全てが繋がることにより話が完成すると思っています。
最後まで読んで頂けたなら、この言葉の意味をわかってもらえるんじゃないかと感じております。
1ページ目から読んで頂く楽しみ方があるのはもちろんですが、私的には「三枝快斗」篇から読んでもらえると、また違った楽しみ方が出来ると思います。
よろしければ最後までお付き合い頂けたら幸いです。
再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜
長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。
しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。
中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。
※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。
※小説家になろうにて重複投稿しています。
フルーツサンド 2人の女の子に恋をした。だから、挟まりたい。
Raychell
ライト文芸
【完結しました】
ある夏の日、俺は2人の女の子に恋をした。
たぶん、ユリだと思うから、それに挟まれたい。
外道中の外道と言われても、禁断の果実はきっと甘い……はず。
伊緒さんのお嫁ご飯
三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。
伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。
子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。
ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。
「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる