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今にも泣き出しそうな表情を浮かべる葉原から、白月の姿がどこにも見当たらないと聞いた俺は、動揺する心を無理やり抑え込んで詳しく話を聞く。
「葉原、落ち着いて話せ。一体いつから、白月の姿を見てないんだ?」
「……わ、私がクラスの手伝いを終えてここに戻ってきたときにはもう、蒼子ちゃんはいなくなってた。最初は1人で文化祭を周ってるんだと思って、何度も何度も連絡してみたんだけど、全然反応なくて……」
そう言って葉原は、だんだんと声のトーンを落としていく。
「着信に気づいてないだけで、まだそこら辺にいるんじゃないか?」
葉原を励ます目的も兼ねて、そんなことを言ってみるが、葉原は俯いたまま静かに首を横に振る。
「さっき、昇降口に蒼子ちゃんの靴を確認しに行ったら、外履きが無くなってた……。もしかしてと思って、グラウンドとかアプローチでいろんな人に『蒼子ちゃんを見なかったか』って尋ねてみたの。そしたら、何人かの人が『正門から出て行く蒼子ちゃんを見た』って言ってて……」
それを聞いて、抑えていた感情が指の隙間から少しずつ溢れ出した。
——何を……、何をやってんだ俺はッ!!
悩みなんて無い? 心配しなくても大丈夫?
そんなの、あいつの強がりに決まっているだろう……!
それなのに俺は、本当に問題なんて何もなければいいと、自分が気持ちのいい方向へ都合よく考えを持っていってしまっていた。
あいつに手を差し伸べたいなどと言っておきながら、実際は嫌なものから必死に逃げて、目を背けようとしていただけじゃないか。
クソッ……。
やっぱりあの時、あいつの言葉を信じなければ良かった。
輝彦たちとの約束を断ってでも、白月の傍にいてやるべきだったんだ……!
俺は耳障りな喧騒をシャットアウトして思考を巡らせると、自分への苛立ちが抜けきらないうちに葉原に尋ねる。
「……どうして、すぐ俺に連絡しなかったんだ」
自分の口から出たその声は、微かに怒気を帯びている。
何も悪くなどない葉原に、苛立ちをぶつけようとしているそんな自分に嫌気がさした。
葉原はそんな俺の問いに対し、怯えるように肩を震わせて口を開く。
「…………ごめん」
俯いた葉原の瞳からは、ポツポツと涙が落ちていく。
俺はそんな葉原を見て、冷静さを取り戻すために深く呼吸を繰り返すと、ポケットからスマホを取り出し時刻を確認する。
13時56分。プラネタリウム上映まで、残り5分を切っていた。
きっと白月は、文化祭が終わるまでにここに戻ってくることはないだろう。
あれだけ文化祭の成功を願っていたはずの奴が、今この場にはいない。
それはまるで、心にぽっかりと大きな穴が空いたような感覚だった。
「葉原、落ち着いて話せ。一体いつから、白月の姿を見てないんだ?」
「……わ、私がクラスの手伝いを終えてここに戻ってきたときにはもう、蒼子ちゃんはいなくなってた。最初は1人で文化祭を周ってるんだと思って、何度も何度も連絡してみたんだけど、全然反応なくて……」
そう言って葉原は、だんだんと声のトーンを落としていく。
「着信に気づいてないだけで、まだそこら辺にいるんじゃないか?」
葉原を励ます目的も兼ねて、そんなことを言ってみるが、葉原は俯いたまま静かに首を横に振る。
「さっき、昇降口に蒼子ちゃんの靴を確認しに行ったら、外履きが無くなってた……。もしかしてと思って、グラウンドとかアプローチでいろんな人に『蒼子ちゃんを見なかったか』って尋ねてみたの。そしたら、何人かの人が『正門から出て行く蒼子ちゃんを見た』って言ってて……」
それを聞いて、抑えていた感情が指の隙間から少しずつ溢れ出した。
——何を……、何をやってんだ俺はッ!!
悩みなんて無い? 心配しなくても大丈夫?
そんなの、あいつの強がりに決まっているだろう……!
それなのに俺は、本当に問題なんて何もなければいいと、自分が気持ちのいい方向へ都合よく考えを持っていってしまっていた。
あいつに手を差し伸べたいなどと言っておきながら、実際は嫌なものから必死に逃げて、目を背けようとしていただけじゃないか。
クソッ……。
やっぱりあの時、あいつの言葉を信じなければ良かった。
輝彦たちとの約束を断ってでも、白月の傍にいてやるべきだったんだ……!
俺は耳障りな喧騒をシャットアウトして思考を巡らせると、自分への苛立ちが抜けきらないうちに葉原に尋ねる。
「……どうして、すぐ俺に連絡しなかったんだ」
自分の口から出たその声は、微かに怒気を帯びている。
何も悪くなどない葉原に、苛立ちをぶつけようとしているそんな自分に嫌気がさした。
葉原はそんな俺の問いに対し、怯えるように肩を震わせて口を開く。
「…………ごめん」
俯いた葉原の瞳からは、ポツポツと涙が落ちていく。
俺はそんな葉原を見て、冷静さを取り戻すために深く呼吸を繰り返すと、ポケットからスマホを取り出し時刻を確認する。
13時56分。プラネタリウム上映まで、残り5分を切っていた。
きっと白月は、文化祭が終わるまでにここに戻ってくることはないだろう。
あれだけ文化祭の成功を願っていたはずの奴が、今この場にはいない。
それはまるで、心にぽっかりと大きな穴が空いたような感覚だった。
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