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それからしばらくの間、俺たちは変わらず3人で文化祭を見て周った。
あと数時間もすれば、この文化祭も静かに幕を閉じる。そして数日後には、この賑わいが夢だったと錯覚するような日常が、再び戻ってくる。
いつまでも、非日常に浸っていられるわけではないのだ。
そんなことを考えながら、ふとスマホのディスプレイを確認すると、時刻はもうすぐ14時を回ろうとしていた。
輝彦たちと共に文化祭を周れるのも、ここまでだ。そろそろ、あいつらの元に戻らなくてはならない。
俺は東棟2階の廊下でピタリと足を止めると、先行する2人に向かって声をかけた。
「そろそろ、白月たちのところに戻る。……一緒に周れて、楽しかった」
自分の口から「楽しかった」なんて言葉が出てきたことに驚く。俺もきっと、知らず知らずのうちに文化祭の空気にあてられていたのだろう。
「あぁ。俺らも晴人と一緒に文化祭周れて楽しかったぜ。付き合ってくれて、ありがとな」
そう言って輝彦は、白い歯をむき出しにして笑顔を浮かべる。
「うん。凄く楽しかった。文化祭後の打ち上げで、天文部の話よく聞かせてね」
「おう」
俺はそういう輝彦と誠に口の端を軽く上げて短く言葉を返すと、そのまま3階に続く階段へと足を向けた。
***
約束通り、最後のプラネタリウム上映が始まる14時前に3-3教室まで戻ってくると、教室の前でスマホを耳に当てる葉原の姿が目に入った。
まだ開場10分前ではあるが、そんな葉原の隣には15名ほどの参加者が並んで待機しているのも確認できる。
俺はそんな待機列を一瞥すると、ぶつぶつと何かを呟きながら繰り返し誰かに連絡を取っている葉原にゆっくりと近づく。
そして、その距離が3メートルほどになったところで、俺はふとある違和感に気がついた。
葉原の様子がおかしい。
何か焦っているような、怯えているような、不安で今にも泣き出しそうな、そんな表情を浮かべている。
それを見て、俺の頭の中でけたたましい警告音が鳴り響く。
……何か、予期せぬことが起こっている。
冷たい汗がゆっくりと首筋を伝っていくのを感じながら、俺は葉原に声をかける。
「……葉原?」
すると、その声に反応した葉原が勢いよくこちらを振り返った。
「晴人くん……!」
葉原の瞳からはいつもの明るい輝きは消え失せ、不安と困惑で灰色にくすんでいる。
「何か、あったのか……?」
嫌な予感をはっきりと感じ取りながら、恐る恐るそう尋ねる。
「……あ、蒼子ちゃんが……」
葉原は助けを求めるようなそんな弱々しい声で、その名前を口にする。
そして、それに続く言葉を葉原が発したことで、その嫌な “予感” は “確信” へと変わった。
「……蒼子ちゃんが……蒼子ちゃんが! どこにもいないの……!!」
それは立ち込める暗雲から冷たい雨が降り注ぐような、樹々に留まる黒い鳥たちが、羽をばたつかせて一斉に飛び立つような、異物を放り込まれた歯車が、ギチギチと耳障りな音を立てながら崩壊していくような、そんな暗澹たる物事の始まりをイメージさせた。
あと数時間もすれば、この文化祭も静かに幕を閉じる。そして数日後には、この賑わいが夢だったと錯覚するような日常が、再び戻ってくる。
いつまでも、非日常に浸っていられるわけではないのだ。
そんなことを考えながら、ふとスマホのディスプレイを確認すると、時刻はもうすぐ14時を回ろうとしていた。
輝彦たちと共に文化祭を周れるのも、ここまでだ。そろそろ、あいつらの元に戻らなくてはならない。
俺は東棟2階の廊下でピタリと足を止めると、先行する2人に向かって声をかけた。
「そろそろ、白月たちのところに戻る。……一緒に周れて、楽しかった」
自分の口から「楽しかった」なんて言葉が出てきたことに驚く。俺もきっと、知らず知らずのうちに文化祭の空気にあてられていたのだろう。
「あぁ。俺らも晴人と一緒に文化祭周れて楽しかったぜ。付き合ってくれて、ありがとな」
そう言って輝彦は、白い歯をむき出しにして笑顔を浮かべる。
「うん。凄く楽しかった。文化祭後の打ち上げで、天文部の話よく聞かせてね」
「おう」
俺はそういう輝彦と誠に口の端を軽く上げて短く言葉を返すと、そのまま3階に続く階段へと足を向けた。
***
約束通り、最後のプラネタリウム上映が始まる14時前に3-3教室まで戻ってくると、教室の前でスマホを耳に当てる葉原の姿が目に入った。
まだ開場10分前ではあるが、そんな葉原の隣には15名ほどの参加者が並んで待機しているのも確認できる。
俺はそんな待機列を一瞥すると、ぶつぶつと何かを呟きながら繰り返し誰かに連絡を取っている葉原にゆっくりと近づく。
そして、その距離が3メートルほどになったところで、俺はふとある違和感に気がついた。
葉原の様子がおかしい。
何か焦っているような、怯えているような、不安で今にも泣き出しそうな、そんな表情を浮かべている。
それを見て、俺の頭の中でけたたましい警告音が鳴り響く。
……何か、予期せぬことが起こっている。
冷たい汗がゆっくりと首筋を伝っていくのを感じながら、俺は葉原に声をかける。
「……葉原?」
すると、その声に反応した葉原が勢いよくこちらを振り返った。
「晴人くん……!」
葉原の瞳からはいつもの明るい輝きは消え失せ、不安と困惑で灰色にくすんでいる。
「何か、あったのか……?」
嫌な予感をはっきりと感じ取りながら、恐る恐るそう尋ねる。
「……あ、蒼子ちゃんが……」
葉原は助けを求めるようなそんな弱々しい声で、その名前を口にする。
そして、それに続く言葉を葉原が発したことで、その嫌な “予感” は “確信” へと変わった。
「……蒼子ちゃんが……蒼子ちゃんが! どこにもいないの……!!」
それは立ち込める暗雲から冷たい雨が降り注ぐような、樹々に留まる黒い鳥たちが、羽をばたつかせて一斉に飛び立つような、異物を放り込まれた歯車が、ギチギチと耳障りな音を立てながら崩壊していくような、そんな暗澹たる物事の始まりをイメージさせた。
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