俺が白月蒼子を嫌う理由

ユウキ ヨルカ

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「——ねぇ、2人とも」


そう声をかけられ、俺と葉原は同時に白月に目を向ける。


「どうした?」

口元に柔らかな笑みを浮かべ、普段は見るものを凍てつかせるような氷の双眸が優しさで溶けている。
俺は、そんないつになく穏やかな顔つきの白月にほんの少しだけ違和感を感じ、そう尋ねる。


「……今日まで、本当にありがとう。あなたたちのお陰で、私は夢を見ることが出来た」

まるで、全てが済んだような満足感に溢れる声で紡がれるその言葉を聞いて、俺は思わず首を傾げた。
それは葉原も同じようで、頭の上に疑問符を浮かべた後、ケラケラと可愛らしい笑い声を上げながら白月に向かって言葉を返した。


「蒼子ちゃん気が早いよぉ~。まだ文化祭が終わったわけじゃないんだからさ。次も頑張ろうね!」

葉原の言う通り、まだ次の上映が残っている。満足感や達成感に浸るのは、それが終わってからでも十分だ。


「勝手に自分だけ文化祭終えてんじゃねーよ。そういうことは、全てが終わってから言え」

俺も葉原の言葉に続けるように、白月に向かって言い返す。

すると、そんな俺たちの言葉を受けた白月は少しの間を空けてから、再び口元に笑みを浮かべて言った。


「……えぇ、その通りね。あまりにも嬉しくて、思わず感情が先走ってしまったわ。ごめんなさい」

「蒼子ちゃんでも、感情がコントロール出来なくなることってあるんだね。でも、そんな蒼子ちゃんも好きだよ」

「葉原さん……」

そんな2人の間で、確かな暖かみを持った感情のやり取りが行われる。俺はそれを傍から眺め、2人には気付かれないようにこっそりと笑みを浮かべた。

そして、葉原と一頻り暖かな感情のやり取りを行った白月は、

「それでも、やっぱり2人には言っておかなければいけない気がして」

と、そう言って、今一度俺たちに向かってゆっくりと口を開いた。


「……ありがとう。私と同じ時間を過ごしてくれて。私を……嫌わないでいてくれて」

そう言う白月の瞳は、磨かれた宝石のように光り輝き、俺には薄らと涙が浮かんでいるようにも見えた。


この時、俺にはどうして白月がそんな言葉を口にするのか。どうしてそんな表情を浮かべているのか、イマイチよく分からなかった。

きっと白月にとって、この文化祭がそれだけ特別なものだったのだろうと、勝手にそんなことを考えて自分を納得させていた。


「改めて真剣に言われると、なんだか照れちゃうね」

そう言ってはにかむ葉原を見ることで、俺はそれ以上深く考えることはしなかった。



グラウンドからは、昼休憩に合わせた早食い大会のアナウンスが聞こえてくる。
3年生教室が立ち並ぶ東棟3階の廊下も、一段と賑やかさが増したように思える。

そんな活気溢れる校内で、文化祭終了に向けてのカウントダウンが静かに動き出したのを、俺は確かに感じ取ったのだった。
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