俺が白月蒼子を嫌う理由

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「…………えっ？」


まるで唾を吐くように投げかけられたその言葉の意味を、私は理解できなかった。

『他人』とは、一体誰のことを指しているのか、その言葉はどこから出て来たものなのか。

——そして、今こちらに背を向けている彼は、一体どんな表情をしているのか。


分からないことだらけで戸惑う中、彼は私が理解できるようにと、さらに言葉を続けた。


「お前はそのうち、周りの奴らを必ず不幸にする。もちろん、あいつ……皇晴人のこともな。美咲や俺がそうだったように」

彼の口から突然発せられたその名前を耳にして、私は完全に言葉を失った。
視界は酷く歪み、上手く呼吸が出来ない。
ただ、正常に機能している聴覚だけが彼の言葉を拾い続ける。


「どんなに絆が深かろうが、想いが強かろうが、所詮『天才』と『凡人』は分かり合えねェんだ。それを無理に分かり合おうとすれば、必ず歪みが生じる。結果として『凡人』側の奴らは、お前の才能に嫉妬し、絶望し、次第に嫌悪感を抱くことになるんだ」


私はそんな彼の言葉を聞いてなお、沈黙を貫いていた。何か言おうにも、声が出て来ないのだ。

そんな私に向かって、彼は繰り返し尋ねる。


「……お前のその才能のせいで、これまで一体何人の人生をめちゃくちゃにしてきたか、自分で理解してんのか？ 相手が、ただ勝負に負けて悔しい思いをしたとでも思ってるんじゃねェか？ ……お前は一度でも、誰かに敗北したことがあんのか？ 負けを味わったことがあんのか？ なァ！」


まるで、これまで重ねて来た自分の罪を認めろとでも言うかのように並べられる彼の言葉を受けて、次第に私の中の “何か” が黒く塗りつぶされていくのを感じ取った。

ずっと正しいと思ってきたはずのものは、本当は間違いだったんじゃないか。

私はそれを認めなくなくて、必死に彼の言葉を否定しようとしていただけじゃないのか。

考えれば考えるほど、分からなくなっていく。


「私は…………」


なんとか声を発することが出来ても、それに続く言葉が見つからない。

否定したいのか、肯定したいのか、それとも——。


そうして言葉が見つからないまま、私は再び口を閉ざした。


時計の短針は、もうすぐ14時に差しかかろうとしている。
きっと、教室の前には昼休憩を終えてやってきた参加者が次のプラネタリウムを見るために待機していることだろう。


そうして現在の問題から目を逸らすように別のことを考えていると、彼が溜息交じりに呟いた。


「……まぁ、今のお前に今すぐ答えを出せっつっても無理だろ。だから、考える時間をやる。文化祭が終わるまでに、周りの奴らと縁を切るかどうか決めておけ」

彼はそう言って壁に掛けられたアナログ時計に目をやると、教室後方の扉に向かって歩き出した。
そして、引き戸に手をかけ扉を開くと、彼は歪んだ笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。


「……お前に、自分の罪を認める覚悟があるなら、自ずと答えは出てくるだろうがな」

そう言って彼は、静かに教室を出ていった。


再び1人きりになった教室には、プラネタリウムと壁や黒板に貼られた天体写真、外から聴こえる賑やかな話し声。

——そして、彼が残したその言葉が、恨めしそうにこちらを見つめながら残っていた。