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凪ノ宮高校の文化祭は毎年9月の第2土曜日と日曜日に行われ、他校の生徒や地域の人々で大きな賑わいを見せる一大イベントとして知られている。そのため、在校生が文化祭にかける思いもそれなりに大きく、文化祭の1週間前からは午後の授業が全て文化祭の準備に当てられることになる。
そして、本日は9月12日。文化祭当日まで残り3日となった今日、先週から製作を始めていたプラネタリウムのドームがようやく完成を迎えた。
プラスチックのポールに黒いビニールシートを貼り付け、それをパズルのように組み立てて出来た半球型のドーム。ドーム内の広さは大体大人5人分といったところで、素人が初めて作ったものとしてはなかなかの出来となった。
俺たちは完成した投影機とドームを一度体育館に運ぶと、バレー部やバドミントン部が練習を行なっている中、ステージ上で完成したてのドームを組み立て始めた。
これから俺たちは、プラネタリウムの実演を行う。
***
「……うまく映るかなぁ」
ステージ上に組み上がったドームを見て、葉原が不安そうに声を洩らす。
「それを今から確認するんだ。……でもまぁ、大丈夫だろ」
「なんか楽観的だね、晴人くんは」
「そうか? うまく映らない時は、手直しすればいいだけだからな。そんな心配する必要はねぇよ」
そう言って俺は、強張った表情の葉原に笑みを向ける。
実際、俺たちは夏休みから今日まで一つの妥協もなく真剣にプラネタリウム制作に取り組んできた。だから、トラブルが発生することはないと確信しているし、もし起こったとしてもきっと俺たちで対処できると、そう信じている。
そんなことを考えていると、投影機の準備を終えた白月が、ドームの外にいる俺たちに向かって声をかけてきた。
「それじゃあ2人とも、中に入ってもらえる? テストプレイを行うわよ」
俺たちはそれに返事を返して、組み上がったドームの中へと入る。
ドームの内部は薄暗く、まるで繭に包まれているような気分になった。俺はそんなドームの内部をぐるりと見回しながら口を開く。
「結構本格的に出来上がったな……」
「せっかく作るなら良いものを……って思って設計したんですしね」
「……投影機の方は?」
「えぇ。問題なく点くはずよ」
白月はそう言ってドームの中央に設置された投影機に触れながら答える。するとそれを見ていた葉原が、まるで犬が尻尾を振り回すかのように待ちきれないといったアピールをしてきた。
「それじゃあさ! 早く実演してみようよ!」
「そうだな」
そう言って俺と葉原はドームの縁に腰を下ろし、まだ黒いだけの天井をスッと見上げる。
「それじゃあ、点けるわよ」
「あぁ、頼む」
俺がそう返した瞬間、投影機のスイッチがオンになり白い光が煌々と漏れ出した。その白い光は、大小の点となってドームに映し出され、あの日の夜空に浮かんでいたのと同じ星々が突如として俺たちの目の前に現れた。
それは作り物の星にも拘らず、俺の目には本物以上に美しく映った。
そして、本日は9月12日。文化祭当日まで残り3日となった今日、先週から製作を始めていたプラネタリウムのドームがようやく完成を迎えた。
プラスチックのポールに黒いビニールシートを貼り付け、それをパズルのように組み立てて出来た半球型のドーム。ドーム内の広さは大体大人5人分といったところで、素人が初めて作ったものとしてはなかなかの出来となった。
俺たちは完成した投影機とドームを一度体育館に運ぶと、バレー部やバドミントン部が練習を行なっている中、ステージ上で完成したてのドームを組み立て始めた。
これから俺たちは、プラネタリウムの実演を行う。
***
「……うまく映るかなぁ」
ステージ上に組み上がったドームを見て、葉原が不安そうに声を洩らす。
「それを今から確認するんだ。……でもまぁ、大丈夫だろ」
「なんか楽観的だね、晴人くんは」
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そう言って俺は、強張った表情の葉原に笑みを向ける。
実際、俺たちは夏休みから今日まで一つの妥協もなく真剣にプラネタリウム制作に取り組んできた。だから、トラブルが発生することはないと確信しているし、もし起こったとしてもきっと俺たちで対処できると、そう信じている。
そんなことを考えていると、投影機の準備を終えた白月が、ドームの外にいる俺たちに向かって声をかけてきた。
「それじゃあ2人とも、中に入ってもらえる? テストプレイを行うわよ」
俺たちはそれに返事を返して、組み上がったドームの中へと入る。
ドームの内部は薄暗く、まるで繭に包まれているような気分になった。俺はそんなドームの内部をぐるりと見回しながら口を開く。
「結構本格的に出来上がったな……」
「せっかく作るなら良いものを……って思って設計したんですしね」
「……投影機の方は?」
「えぇ。問題なく点くはずよ」
白月はそう言ってドームの中央に設置された投影機に触れながら答える。するとそれを見ていた葉原が、まるで犬が尻尾を振り回すかのように待ちきれないといったアピールをしてきた。
「それじゃあさ! 早く実演してみようよ!」
「そうだな」
そう言って俺と葉原はドームの縁に腰を下ろし、まだ黒いだけの天井をスッと見上げる。
「それじゃあ、点けるわよ」
「あぁ、頼む」
俺がそう返した瞬間、投影機のスイッチがオンになり白い光が煌々と漏れ出した。その白い光は、大小の点となってドームに映し出され、あの日の夜空に浮かんでいたのと同じ星々が突如として俺たちの目の前に現れた。
それは作り物の星にも拘らず、俺の目には本物以上に美しく映った。
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