俺が白月蒼子を嫌う理由

ユウキ ヨルカ

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長い長い8月が終わり、2日前からようやく9月に入った。暦上では一応秋ということになっているが、まだまだ夏の暑さがあちらこちらに残っている。

……俺たちの夏は、一体いつまで続いてくれるのだろうか。

叶うことなら、あの尊い時間を永遠に過ごしていたい。

当たり前のように時が進んで明日が来るのを待つより、そうして同じ時間を繰り返し過ごす方が今の俺にとっては救いのようにすら思える。

部室の窓から見える夕陽に染まった世界は、そんな俺の願いには耳を傾けることもせず、いつも通り延々と廻り続ける。

***

 “あの日” から早いことで1週間が経過した。

突如として俺たちの日常に放り込まれた大きな異物、柏城翔太。彼の口から発せられた例の話を耳にして、俺は衝撃を受けると同時に強い憤りを感じた。


……どうして……! どうして、何も話してくれなかったんだ……白月!!


白月と初めて出逢ったあの日からずっと、俺はこいつに付き纏われ、見かけない日など無いくらいに俺は白月のことをいつも視界に写していた。

彼の妹、美咲が亡くなったのは俺と白月が出逢ってからの事だ。

それなのに俺は、いつもいつもしつこく話しかけて来るこいつが、そんな辛い現実と向き合ってることに気がつくことが出来なかった。


その時、白月は何を思って俺に声をかけてきたのだろう。

白月がいくら常人や凡人を超えた『天才』であっても、感情のない機械ロボットではない。白月は、彼女の死とその原因を知ったあの日から、ずっと小さなSOSを出し続けていたんじゃないか?

他の誰よりも近くで彼女を見ていたはずなのに、俺は彼女のSOSに気がつくことが出来なかった。

そんな自分に腹が立った。


そうして柏城は何も知らない俺に全てを話し終えた後、再び睨みつけるようにして白月を見据えた。


「俺がこの学校に転校してきた理由はただ一つ。お前に復讐するため、それだけだ。残りの高校生活全てを、お前は美咲の死と共に過ごしていくんだ。どんなに楽しい記憶も、良い思い出も、俺が全部塗りつぶしてやる……。それがお前に残された唯一の贖罪なんだからな」

柏城は吐き捨てるようにそう言うと、俺たち以外誰もいなくなった放課後の教室を静かに出て行った。

俺は俯いたまま口を開くこともなく、ただ隣に佇む白月を一瞥すると、柏城の後を追って廊下へと出た。そして、柏城の背中に向かって詰まった息を吐き出すように声をかける。


「待てよッ!!」

静まり返った廊下に声が響く。

柏城はそんな俺の声に反応してゆっくりと振り返ると、気怠げに言葉を返す。


「……なんだよ」

俺は乱れた息を整えて再び口を開く。


「おかしいだろ……」

「……あ?」

「妹の死を……白月のせいにするのはおかしいだろって言ってんだ!」

話を聞いて俺が思ったことを、そのまま素直に伝える。


「あいつはお前の妹に誘われて絵を描くようになって、お前の妹に喜んでもらいたくて今も絵を描き続けてんだろ!? それは褒められはしても、貶されるようなことじゃねぇだろ!」

そう。それは決して、憎しみや怒りをぶつけられるような行為ではない。

こいつは……柏城翔太は、妹の自殺に対する感情をどこかにぶつけたいだけなのだ。やり場のないその怒りを、悲しみを、白月にぶつけているだけなのだ。

だからこそ、俺はこいつが許せない。

妹の死に納得するため、白月を利用すること。そして、白月に復讐するために妹の死を利用しようとしていることが、俺は許せなかった。
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