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天体観測を終えた後は一度合宿所へと戻り、正面玄関を出てすぐのところで、予定していた手持ち花火を行った。
色鮮やかな火花を散らしながら勢いよく吹き出す花火からは、白い煙と共にあの独特の匂いが漂ってきて、目と鼻の奥にツンと染みる。
コンビニで購入した手持ち花火のほとんどは主に葉原が楽しんで使っていた。火のついたススキ型の手持ち花火を両手に装備し、真っ暗闇の中を舞い踊るようにはしゃぐ葉原の姿は、見ていてとても心が安らぐ。
そんな葉原とは対照的に、白月は1人寂しく線香花火の小さな灯りをただ静かに眺めていた。俺はそんな白月の隣に、声をかけることもせずにしゃがみ込む。
「お疲れ様」
袋に入っている残りの花火の中から、おもむろに線香花火を1本手に取ると、白月から声をかけられた。俺はライターで花火の先端に火をつけながら返事を返す。
「おう、おつかれ」
「……あぁ、そうそう。昨日と今日でなかなかいい写真を撮ることが出来たから、あとで見せてあげる」
「サンキュー。……でも、良かったな。これで文化祭の準備はほとんど終わったってわけだ」
「そうね。ドームの方は場所も取るし、もう少し文化祭が近づいてから作り始めましょう」
そう言うと同時に、白月の足元に線香花火の小さな火球がぽとりと落ちた。
「……もっと、続けばいいのに」
「線香花火なんて、大体そんなもんだろ」
俺の方も、そろそろ地面に落ちそうだ。
すると白月は、そんな俺の言葉に少し躊躇いながら言い返す。
「そうじゃなくて……この時間が」
「あぁ……」
そう声を発したところで指先が僅かに震え、弱々しく弾けていた火球が地面に落ちて静かに消えていった。
暗闇の中に、花火の閃光に照らされる葉原の愉しげな笑い声が響く。
俺はそんな葉原を目をやりながら、2本目の線香花火を取ろうと、袋に手を近づける。
すると、同じように葉原に目を向けながら残りの線香花火に手を近づける白月と、僅かに指先が触れ合った。お互い、反射的に手を引っ込める。
「……悪い」
「……いえ……こちらこそ」
薄暗い闇の中で、触れた指先を大事そうに包み込む白月の姿が瞳に映った。俺の指先には、僅かに白月と触れ合った時の感触が残っている。
白月の肌はまるで、夏の中に取り残された雪のような冷たさだった。体に溜まった熱が徐々に冷まされていくような、そんな心地のいい冷たさ。
それなのに、心臓から止めどなく流れ出る血液は沸騰しそうなくらいに熱い。白月と触れた指先だけがジンジンと痺れる。
気を取り直して2本目の線香花火を手に取り、火を付けると、再びパチパチと弾ける火球が辺りをぼうっと照らし出す。
俺はそんな線香花火の灯りを見つめながら、一度咳払いをして口を開いた。
色鮮やかな火花を散らしながら勢いよく吹き出す花火からは、白い煙と共にあの独特の匂いが漂ってきて、目と鼻の奥にツンと染みる。
コンビニで購入した手持ち花火のほとんどは主に葉原が楽しんで使っていた。火のついたススキ型の手持ち花火を両手に装備し、真っ暗闇の中を舞い踊るようにはしゃぐ葉原の姿は、見ていてとても心が安らぐ。
そんな葉原とは対照的に、白月は1人寂しく線香花火の小さな灯りをただ静かに眺めていた。俺はそんな白月の隣に、声をかけることもせずにしゃがみ込む。
「お疲れ様」
袋に入っている残りの花火の中から、おもむろに線香花火を1本手に取ると、白月から声をかけられた。俺はライターで花火の先端に火をつけながら返事を返す。
「おう、おつかれ」
「……あぁ、そうそう。昨日と今日でなかなかいい写真を撮ることが出来たから、あとで見せてあげる」
「サンキュー。……でも、良かったな。これで文化祭の準備はほとんど終わったってわけだ」
「そうね。ドームの方は場所も取るし、もう少し文化祭が近づいてから作り始めましょう」
そう言うと同時に、白月の足元に線香花火の小さな火球がぽとりと落ちた。
「……もっと、続けばいいのに」
「線香花火なんて、大体そんなもんだろ」
俺の方も、そろそろ地面に落ちそうだ。
すると白月は、そんな俺の言葉に少し躊躇いながら言い返す。
「そうじゃなくて……この時間が」
「あぁ……」
そう声を発したところで指先が僅かに震え、弱々しく弾けていた火球が地面に落ちて静かに消えていった。
暗闇の中に、花火の閃光に照らされる葉原の愉しげな笑い声が響く。
俺はそんな葉原を目をやりながら、2本目の線香花火を取ろうと、袋に手を近づける。
すると、同じように葉原に目を向けながら残りの線香花火に手を近づける白月と、僅かに指先が触れ合った。お互い、反射的に手を引っ込める。
「……悪い」
「……いえ……こちらこそ」
薄暗い闇の中で、触れた指先を大事そうに包み込む白月の姿が瞳に映った。俺の指先には、僅かに白月と触れ合った時の感触が残っている。
白月の肌はまるで、夏の中に取り残された雪のような冷たさだった。体に溜まった熱が徐々に冷まされていくような、そんな心地のいい冷たさ。
それなのに、心臓から止めどなく流れ出る血液は沸騰しそうなくらいに熱い。白月と触れた指先だけがジンジンと痺れる。
気を取り直して2本目の線香花火を手に取り、火を付けると、再びパチパチと弾ける火球が辺りをぼうっと照らし出す。
俺はそんな線香花火の灯りを見つめながら、一度咳払いをして口を開いた。
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