俺が白月蒼子を嫌う理由

ユウキ ヨルカ

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部屋にスマホのアラーム音が鳴り響いた。俺はスマホを手にとってアラームを解除すると、ディスプレイに表示されている時刻を確認して口を開く。


「そろそろ時間だ」

ディスプレイには『21:30』と表示されている。ペルセウス座流星群がピークを迎えるのが今夜の22時頃。機材の準備などを考えると、そろそろ屋上に移動しなければならない。


「分かったわ。それじゃあ、行きましょうか」

「そうだね」

俺同様、すでに入浴を済ませてルームウェアに着替えている白月と葉原はそう言って立ち上がると、バッグからウインドブレーカーを取り出した。


「流星群、昨日とどれくらい違うのかな。なんかドキドキしちゃうね」

羽織ったウインドブレーカーのファスナーを上げながら葉原が呟いた。

昨夜も十分に素晴らしい流星群を観測できたけれど、今日はきっとそれ以上に素晴らしい光景が目の前に広がるのだろう。葉原が胸を踊らせるのもよく分かる。
つい最近まで、星の名前すらよく知らなかった俺でさえ、期待と興奮で体温が上がっているのだ。もともと星に詳しい白月と葉原はそれ以上だろう。


「あぁ、そうだな」

そんなことを考えながら、体温とは対照的に淡白な言葉を返すと、葉原はあどけない少女のように笑みを浮かべた。

***

合宿所を出て、昨日と同じように本校舎にある部室から流星群を撮影するための機材を運び出すと、それらを持って階段を上り、屋上へと続く扉を開けた。昼に降った雨がまだ残っているのか、夜風に紛れてペトリコールが微かに香る。

ふと空を見上げると、真上には距離感が曖昧に感じてしまうほどの星空が広がっていて、昨日の感動が再び波のように押し寄せてきた。


「ちょっと、皇くん。そんなところで突っ立っていないで、こっちにきて準備手伝ってくれない?」

「あぁ、悪い」

思わずその幻想的な星空に見惚れてしまい、本来やるべきことを忘れてしまっていた。俺は急いで白月と葉原の元まで三脚を持っていくと、白月は慣れた手つきでカメラの設定を始めた。


「昨日は星空を撮影したけれど、今日撮影するのは流星群。一瞬で通り過ぎる流星群を撮影するためには、常にシャッターを切り続けなければいけないのよ」

「つまり、連続で撮影するってこと?」

白月が操作するカメラを覗き込みながら尋ねる葉原に対し、白月は「そうよ」と返すと、持ってきた三脚にカメラを取り付けた。

それから数回試し撮りを行い、全ての準備が整ったところで白月が立ち上がり、こちらに顔を向けた。


「皇くん、現在の時刻は?」

尋ねられた俺は、ポケットからスマホを取り出してディスプレイを起動させる。


「21時50分だな」

「そう。……それじゃあ、そろそろね」

そう言って白月は空を見上げると、堪えきれない興奮を誤魔化すようにホッと小さく息を吐き出す。そんな白月を見て、思わず口元を緩めてしまっている自分がいることに気がついた。


数ヶ月前までは、こうしてこいつと星を観るなんて想像もしていなかった。

初めて白月と出逢った時から6年。

そんな長い月日を経ても変わらなかったものが、この数ヶ月で見る見るうちに変わっていった。

俺たちがそれぞれ何に悩み、もがき苦しんでいるのかを理解し、互いの弱さを曝け出しあったりもした。

葉原と再会したことで、俺たちの関係は少しずつ……ほんの僅かではあるが、良い方向へと進むことも出来た。


少し大袈裟と思われるかもしれないが、俺たち3人が今ここで、同じ星空を眺めているということは、それはもう奇跡に近いことなのだ。

ひょっとするとこれは、 “星の巡り合わせ” というやつの仕業なのかもしれない。


そんな、らしくもないファンタジックなことを考えながら、俺はブルーシートの上に腰を下ろして空を見上げ、隣に座る白月、葉原と共にその時が来るのをただ静かにジッと待った。
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