92 / 186
91
しおりを挟む
おにぎりを作り終えた後は食堂の戸棚で見つけたインスタントの味噌汁を人数分作り、部屋で寝ている葉原を起こしてから食堂で朝食を摂った。
寝起きで目が開き切っていなかった葉原も朝食を食べ終えた頃には、いつも通りのハイテンションでオリジナルラジオ体操なるものに興じていた。
そうして時計の針が8時を回ったところで、俺たちは合宿所を出て、本校舎にある天文部部室へと移動を開始した。
まだ午前中ということもあって、それほど暑さは感じない。ふと空を見上げると、目にしみるような澄んだ青と綿菓子を想起させる白い雲が1日の始まりを教えてくれているような気がした。
グラウンドの方からはジィジィと鳴く蝉の声に混じって、ランニングをする野球部の掛け声が聞こえ、窓の開いた校舎の方からは吹奏楽部員の甲高いトランペットの音が聞こえてくる。
盆休み中でも活動している部が天文部以外にもあることに少し驚いた。きっとそれだけ、大会やコンクールに掛ける想いが強いのだろう。
そんなことを考えながら、俺たちは正門から続くアプローチを通って昇降口へと入った。
校舎内は昨日と同じく閑散としていて、たまに空き教室を使って練習をする吹奏楽部員とすれ違う程度だ。そんな中、俺たちはまず職員室へ赴き、顧問の柴田先生に挨拶を済ませると、部室の鍵を受け取って西棟3階の天文部部室へと向かった。
階段を上り、廊下を渡って部室の前まで来ると、白月はドアノブに鍵を差し込んで扉を開ける。そして中へ入ると、真っ先に部屋の奥の窓を開け放った。俺と葉原は外から入ってくる涼風を肌で感じながら、それぞれテーブル席につく。白月も窓を開けたのち、同じように席についてゆっくりと話を切り出した。
「さて、今日は合宿2日目。日中は昨日と同じくプラネタリウム作成。夜からはペルセウス座流星群の観測を行います。昼頃から夕方にかけて雨が降るようだけれど、夜には止むようだから心配しなくても大丈夫よ。ここまでで何か質問はあるかしら?」
そう言う白月の問いかけに対し、隣に座る葉原が手を上げた。
「はい!」
「葉原さん、どうぞ」
白月に促されて、葉原が席を立つ。それから俺と白月の表情を確認するかのように、ゆっくりと言葉を発した。
「あのさ、天体観測が終わった後でいいんだけど……みんなで花火しない?」
「花火か……」
葉原の口から出た言葉を復唱する。
「うん。せっかくの合宿なんだから、もっとこう……夏っぽいことしたいしさ。青春の1ページっていうのかな? ……とにかく、この3人でもっともっと思い出を作りたいんだよ!」
そう強く訴える葉原の表情は、いつにも増して真剣に見えた。その表情だけで、彼女がどれだけこの時間を大切にしようとしているのかが、ひしひしと伝わってくる。
すると、それまで葉原の主張に対し、静かに耳を傾けていた白月が口を開いた。
「……分かったわ。それじゃあ、あとで近くのコンビニに買いに行きましょうか」
「ほんと!? 蒼子ちゃんありがとー!!」
「皇くんもそれでいいかしら?」
そう言ってこちらに顔を向けてくる白月と葉原に対し、俺は小さく微笑みを返して答える。
「あぁ、拒否する理由もないしな。俺もあとで買い物付き合うことにする」
「当たり前でしょ。荷物運びはあなたの天職なのだから、誰もその仕事を奪ったりしないわよ。だから安心して思う存分働きなさい」
「なんか名誉なことみたいに言ってるけど、それただのパシリだからな」
隙あらば人を駒のように扱おうとする白月に抗議の目を向けて言葉を返すと、「無駄話はここまで」とでも言うかのように、話を切り替えて締めに入った。
「そういうわけだから、合宿2日目も頑張っていきましょう。休憩は各自で取ってもらって構わないから。……あぁ、それと水分補給はしっかりとね。熱中症で花火が出来なくなってしまったんじゃ、せっかくの思い出も台無しだものね。……それじゃあ、早速作業開始しましょうか」
俺と葉原はそれに対して首を縦に振ると、段ボール箱から黒いボール紙を取り出して、昨日の続きに取り掛かる。
***
こうして、晴れ渡った夏空と外から聞こえてくる沢山の音たちを迎えて、俺たち天文部の夏合宿2日目が始まった。
寝起きで目が開き切っていなかった葉原も朝食を食べ終えた頃には、いつも通りのハイテンションでオリジナルラジオ体操なるものに興じていた。
そうして時計の針が8時を回ったところで、俺たちは合宿所を出て、本校舎にある天文部部室へと移動を開始した。
まだ午前中ということもあって、それほど暑さは感じない。ふと空を見上げると、目にしみるような澄んだ青と綿菓子を想起させる白い雲が1日の始まりを教えてくれているような気がした。
グラウンドの方からはジィジィと鳴く蝉の声に混じって、ランニングをする野球部の掛け声が聞こえ、窓の開いた校舎の方からは吹奏楽部員の甲高いトランペットの音が聞こえてくる。
盆休み中でも活動している部が天文部以外にもあることに少し驚いた。きっとそれだけ、大会やコンクールに掛ける想いが強いのだろう。
そんなことを考えながら、俺たちは正門から続くアプローチを通って昇降口へと入った。
校舎内は昨日と同じく閑散としていて、たまに空き教室を使って練習をする吹奏楽部員とすれ違う程度だ。そんな中、俺たちはまず職員室へ赴き、顧問の柴田先生に挨拶を済ませると、部室の鍵を受け取って西棟3階の天文部部室へと向かった。
階段を上り、廊下を渡って部室の前まで来ると、白月はドアノブに鍵を差し込んで扉を開ける。そして中へ入ると、真っ先に部屋の奥の窓を開け放った。俺と葉原は外から入ってくる涼風を肌で感じながら、それぞれテーブル席につく。白月も窓を開けたのち、同じように席についてゆっくりと話を切り出した。
「さて、今日は合宿2日目。日中は昨日と同じくプラネタリウム作成。夜からはペルセウス座流星群の観測を行います。昼頃から夕方にかけて雨が降るようだけれど、夜には止むようだから心配しなくても大丈夫よ。ここまでで何か質問はあるかしら?」
そう言う白月の問いかけに対し、隣に座る葉原が手を上げた。
「はい!」
「葉原さん、どうぞ」
白月に促されて、葉原が席を立つ。それから俺と白月の表情を確認するかのように、ゆっくりと言葉を発した。
「あのさ、天体観測が終わった後でいいんだけど……みんなで花火しない?」
「花火か……」
葉原の口から出た言葉を復唱する。
「うん。せっかくの合宿なんだから、もっとこう……夏っぽいことしたいしさ。青春の1ページっていうのかな? ……とにかく、この3人でもっともっと思い出を作りたいんだよ!」
そう強く訴える葉原の表情は、いつにも増して真剣に見えた。その表情だけで、彼女がどれだけこの時間を大切にしようとしているのかが、ひしひしと伝わってくる。
すると、それまで葉原の主張に対し、静かに耳を傾けていた白月が口を開いた。
「……分かったわ。それじゃあ、あとで近くのコンビニに買いに行きましょうか」
「ほんと!? 蒼子ちゃんありがとー!!」
「皇くんもそれでいいかしら?」
そう言ってこちらに顔を向けてくる白月と葉原に対し、俺は小さく微笑みを返して答える。
「あぁ、拒否する理由もないしな。俺もあとで買い物付き合うことにする」
「当たり前でしょ。荷物運びはあなたの天職なのだから、誰もその仕事を奪ったりしないわよ。だから安心して思う存分働きなさい」
「なんか名誉なことみたいに言ってるけど、それただのパシリだからな」
隙あらば人を駒のように扱おうとする白月に抗議の目を向けて言葉を返すと、「無駄話はここまで」とでも言うかのように、話を切り替えて締めに入った。
「そういうわけだから、合宿2日目も頑張っていきましょう。休憩は各自で取ってもらって構わないから。……あぁ、それと水分補給はしっかりとね。熱中症で花火が出来なくなってしまったんじゃ、せっかくの思い出も台無しだものね。……それじゃあ、早速作業開始しましょうか」
俺と葉原はそれに対して首を縦に振ると、段ボール箱から黒いボール紙を取り出して、昨日の続きに取り掛かる。
***
こうして、晴れ渡った夏空と外から聞こえてくる沢山の音たちを迎えて、俺たち天文部の夏合宿2日目が始まった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない
セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。
しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。
高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。
パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。
※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。
伊緒さんのお嫁ご飯
三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。
伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。
子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。
ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。
「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!
フルーツサンド 2人の女の子に恋をした。だから、挟まりたい。
Raychell
ライト文芸
【完結しました】
ある夏の日、俺は2人の女の子に恋をした。
たぶん、ユリだと思うから、それに挟まれたい。
外道中の外道と言われても、禁断の果実はきっと甘い……はず。

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜
長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。
しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。
中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。
※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。
※小説家になろうにて重複投稿しています。
可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス
竹比古
ライト文芸
先生、ぼくたちは幸福だったのに、異常だったのですか?
周りの身勝手な人たちは、不幸そうなのに正常だったのですか?
世の人々から、可ではなく、不可というレッテルを貼られ、まるで鴉(カフカ)を見るように厭な顔をされる精神病患者たち。
USA帰りの青年精神科医と、その秘書が、総合病院の一角たる精神科病棟で、或いは行く先々で、ボーダーラインの向こう側にいる人々と出会う。
可ではなく、不可をつけられた人たちとどう向き合い、接するのか。
何か事情がありそうな少年秘書と、青年精神科医の一話読みきりシリーズ。
大雑把な春名と、小舅のような仁の前に現れる、今日の患者は……。
※以前、他サイトで掲載していたものです。
※一部、性描写(必要描写です)があります。苦手な方はお気を付けください。
※表紙画:フリーイラストの加工です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる