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屋上へと続く階段を上って扉を開けると、柔らかな涼風が優しく肌を撫でて来た。屋上には青く焼けるような昼間の匂いとは異なる、透明感のある夜の香りが漂っていて、呼吸をするたびに澄んだ空気が肺を満たしていく。
ふと左側に目を向けると、少し遠くに街灯や車のヘッドライトの光がポツポツと明かりを灯しているのが確認できる。そんな人工的な街の明かりに目を向けていたところで、葉原が感嘆の息を洩らした。
「わぁ……ちゃんと星見えるよ!」
そういう葉原につられて空を見上げると、確かに点々と小さな光が夜空に散りばめられているのが見えた。黒と言うよりは青に近い夏の夜空に、白い星々の輝きがよく映えている。
「こんな街中でも案外見えるもんなんだな」
「街中といっても、ここら辺はあまり建物が多い方ではないし、車通りも少ない方だから星も肉眼で見ることができるのよ。それに今日は月が出ていないしね」
「お前、ひょっとして下見に来たりしたのか?」
「下見というか、去年もここで天体観測をしたのよ。卒業した先輩方と一緒にね」
そう言って白月は屋上の真ん中まで歩くと、
「葉原さん、ここにブルーシートを敷いてもらえる?」
と、葉原を手招きして呼んだ。
葉原はそれに返事を返すと、白月の元に駆け寄り、言われた通りの位置にブルーシートを敷き始めた。
「皇くんも三脚持ってこっちに来て」
「あぁ」
葉原と同じく白月に呼ばれた俺は2人の元まで駆け寄り、ブルーシートの手前に三脚を立てる。すると白月は、手に持ったケースから重厚感のある黒い一眼レフカメラを取り出し、何やら操作を始めた。
「葉原さん。悪いのだけれど、少しの間ライトで私の手元を照らしておいてもらえる?」
「うん。いいよ」
そう言って葉原の持つスマホで手元を照らされた白月は、カメラのモニターで設定画面を表示し出した。
「何してんだ?」
「ISO感度とF値、それとシャッタースピードを調節してるのよ。普通にシャッターを押しただけじゃ、星の弱い光は写らないから」
「……アイエスオー……エフチ……、専門用語か何かか? それ」
「まぁ、そんなところ。私たちはあくまで天文部員なのであって、写真部ではないのだから解説は省くわよ。詳しく知りたいのなら自分で調べなさい」
そう言って白月は手早く設定を済ませると、持ってきた三脚にカメラが上を向くよう取り付けて固定し、カメラの接続部分に小さなコントローラーのようなものが付けられたコードの先端を挿し込んだ。
「それじゃあ、試しに1枚撮ってみるわね」
そう言ってコントローラーのボタンを押すと、20秒ほどしてカシャリとシャッターが切れる音が屋上に響いた。どうやら、コントローラーに見えた装置はカメラを遠隔操作するためのリモコンだったらしい。
それにしても、シャッターが切れるまで随分と時間がかかったように思える。シャッタースピードがどうこうと言ってたのは、この設定をするためだったのか。
そんなことを考えながら、早速カメラのモニターに映る写真を3人で確認すると、そこには肉眼と同じ……いや、それ以上鮮明に無数の星々が写っていた。
「おぉ、すげぇな。よく撮れてる」
「こんなに綺麗に写るんだね……」
モニターに映る星空を見て、俺と葉原は素直に驚きの反応を示した。これは記録としていいものが残せそうだ。
「なかなかいい感じに撮影できたわね。……それじゃあ、この調子でどんどん撮っていきましょうか」
そう言って白月は上手く撮影された星空を見て満足そうに頷くと、同じようにリモコンを操作して何枚か星空を撮影し始めた。
ふと左側に目を向けると、少し遠くに街灯や車のヘッドライトの光がポツポツと明かりを灯しているのが確認できる。そんな人工的な街の明かりに目を向けていたところで、葉原が感嘆の息を洩らした。
「わぁ……ちゃんと星見えるよ!」
そういう葉原につられて空を見上げると、確かに点々と小さな光が夜空に散りばめられているのが見えた。黒と言うよりは青に近い夏の夜空に、白い星々の輝きがよく映えている。
「こんな街中でも案外見えるもんなんだな」
「街中といっても、ここら辺はあまり建物が多い方ではないし、車通りも少ない方だから星も肉眼で見ることができるのよ。それに今日は月が出ていないしね」
「お前、ひょっとして下見に来たりしたのか?」
「下見というか、去年もここで天体観測をしたのよ。卒業した先輩方と一緒にね」
そう言って白月は屋上の真ん中まで歩くと、
「葉原さん、ここにブルーシートを敷いてもらえる?」
と、葉原を手招きして呼んだ。
葉原はそれに返事を返すと、白月の元に駆け寄り、言われた通りの位置にブルーシートを敷き始めた。
「皇くんも三脚持ってこっちに来て」
「あぁ」
葉原と同じく白月に呼ばれた俺は2人の元まで駆け寄り、ブルーシートの手前に三脚を立てる。すると白月は、手に持ったケースから重厚感のある黒い一眼レフカメラを取り出し、何やら操作を始めた。
「葉原さん。悪いのだけれど、少しの間ライトで私の手元を照らしておいてもらえる?」
「うん。いいよ」
そう言って葉原の持つスマホで手元を照らされた白月は、カメラのモニターで設定画面を表示し出した。
「何してんだ?」
「ISO感度とF値、それとシャッタースピードを調節してるのよ。普通にシャッターを押しただけじゃ、星の弱い光は写らないから」
「……アイエスオー……エフチ……、専門用語か何かか? それ」
「まぁ、そんなところ。私たちはあくまで天文部員なのであって、写真部ではないのだから解説は省くわよ。詳しく知りたいのなら自分で調べなさい」
そう言って白月は手早く設定を済ませると、持ってきた三脚にカメラが上を向くよう取り付けて固定し、カメラの接続部分に小さなコントローラーのようなものが付けられたコードの先端を挿し込んだ。
「それじゃあ、試しに1枚撮ってみるわね」
そう言ってコントローラーのボタンを押すと、20秒ほどしてカシャリとシャッターが切れる音が屋上に響いた。どうやら、コントローラーに見えた装置はカメラを遠隔操作するためのリモコンだったらしい。
それにしても、シャッターが切れるまで随分と時間がかかったように思える。シャッタースピードがどうこうと言ってたのは、この設定をするためだったのか。
そんなことを考えながら、早速カメラのモニターに映る写真を3人で確認すると、そこには肉眼と同じ……いや、それ以上鮮明に無数の星々が写っていた。
「おぉ、すげぇな。よく撮れてる」
「こんなに綺麗に写るんだね……」
モニターに映る星空を見て、俺と葉原は素直に驚きの反応を示した。これは記録としていいものが残せそうだ。
「なかなかいい感じに撮影できたわね。……それじゃあ、この調子でどんどん撮っていきましょうか」
そう言って白月は上手く撮影された星空を見て満足そうに頷くと、同じようにリモコンを操作して何枚か星空を撮影し始めた。
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