84 / 186
83
しおりを挟む
漫画を読み始めてから30分程が経過したところで、隣に座っていた白月が読んでいた漫画を静かに閉じ、スッとその場に立ち上がった。俺と葉原は手に持った少女漫画から、立ち上がった白月に目を向ける。
「そろそろね」
白月がそう呟いたのを聞いて、俺はジャージのポケットからスマホを取り出し、時刻を確認する。すると、時刻はちょうど20時30分を回ったところだった。ペルセウス座流星群が観測できるのは21時を超えたあたりからということなので、時間的にはちょうどいいと言えるだろう。
「んじゃ、行くか」
そう言って白月と同じように立ち上がると、白月の隣で漫画を読んでいた葉原も、漫画を畳の上に置いて立ち上がった。
「いよいよ今日のメインイベントだね!」
「先程ネットで確認した様子だと、もっともよく見えるのは明日の22時頃らしいわね。けれど、今日も流星群は観測できるようだから心配はいらないわよ」
「私、誰かと一緒に星を見るのって、これが初めてかも。今まで、そういうことを出来る友達っていなかったから……」
葉原は過去の自分を思い出すように呟いた。
昔の葉原夕をよく知る俺たちは、葉原が今どんな気持ちでこの場にいるのかを痛いほど理解している。彼女は泣いている奴や困っている奴がいれば、それが誰であれ優しく手を伸ばし、力になってあげようと考える正真正銘の善人なのだ。
そんな善人だからこそ、友達同士で交わすお遊び程度の冗談すらも本気で捉えてしまい、本人の意思に反して、彼女の周りからはどんどんと人が離れていってしまう。
俺と白月はそんな葉原の過去を知っているからこそ、今の葉原が友人に囲まれ、毎日の学校生活を楽しいと感じていることに喜びを感じている。そして、同じ部の一員として、これから共に星を見ることに関しても……。
俺は葉原に向かって口を開く。
「俺や白月だって同じだ。今まで誰かと星を見る機会なんて無かったし、それを見て、誰かと気持ちを共有するなんてことも当然無かった。だからここにいる全員、今日が初めての天体観測だ。……いい思い出になるといいな」
それを聞いた葉原は、俯かせていた顔を上げて微笑むと「うん」と小さく頷いてみせた。
***
そうして各自バッグから防寒着を取り出すと、準備が整ったのを確認した白月が「さて」と口を開いた。
「それじゃあ、行きましょうか」
俺と葉原はそれに対して短く返事を返すと、明かりを消し、白月の後ろについて部屋を出た。
「そろそろね」
白月がそう呟いたのを聞いて、俺はジャージのポケットからスマホを取り出し、時刻を確認する。すると、時刻はちょうど20時30分を回ったところだった。ペルセウス座流星群が観測できるのは21時を超えたあたりからということなので、時間的にはちょうどいいと言えるだろう。
「んじゃ、行くか」
そう言って白月と同じように立ち上がると、白月の隣で漫画を読んでいた葉原も、漫画を畳の上に置いて立ち上がった。
「いよいよ今日のメインイベントだね!」
「先程ネットで確認した様子だと、もっともよく見えるのは明日の22時頃らしいわね。けれど、今日も流星群は観測できるようだから心配はいらないわよ」
「私、誰かと一緒に星を見るのって、これが初めてかも。今まで、そういうことを出来る友達っていなかったから……」
葉原は過去の自分を思い出すように呟いた。
昔の葉原夕をよく知る俺たちは、葉原が今どんな気持ちでこの場にいるのかを痛いほど理解している。彼女は泣いている奴や困っている奴がいれば、それが誰であれ優しく手を伸ばし、力になってあげようと考える正真正銘の善人なのだ。
そんな善人だからこそ、友達同士で交わすお遊び程度の冗談すらも本気で捉えてしまい、本人の意思に反して、彼女の周りからはどんどんと人が離れていってしまう。
俺と白月はそんな葉原の過去を知っているからこそ、今の葉原が友人に囲まれ、毎日の学校生活を楽しいと感じていることに喜びを感じている。そして、同じ部の一員として、これから共に星を見ることに関しても……。
俺は葉原に向かって口を開く。
「俺や白月だって同じだ。今まで誰かと星を見る機会なんて無かったし、それを見て、誰かと気持ちを共有するなんてことも当然無かった。だからここにいる全員、今日が初めての天体観測だ。……いい思い出になるといいな」
それを聞いた葉原は、俯かせていた顔を上げて微笑むと「うん」と小さく頷いてみせた。
***
そうして各自バッグから防寒着を取り出すと、準備が整ったのを確認した白月が「さて」と口を開いた。
「それじゃあ、行きましょうか」
俺と葉原はそれに対して短く返事を返すと、明かりを消し、白月の後ろについて部屋を出た。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜
長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。
しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。
中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。
※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。
※小説家になろうにて重複投稿しています。

【完結】いい子にしてたら、絶対幸せになれますか?
ここ
ファンタジー
ナティアンヌは侯爵家の長女だが、不器量で両親に嫌わられていた。
8歳のある日、とうとうナティアンヌは娼館に売り払われてしまった。
書いてる言語とかは無茶苦茶です。
ゆるゆる設定お許しください。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
好きなんだからいいじゃない
優蘭みこ
ライト文芸
人にどう思われようが、好きなんだからしょうがないじゃんっていう食べ物、有りません?私、結構ありますよん。特にご飯とインスタント麺が好きな私が愛して止まない、人にどう思われようがどういう舌してるんだって思われようが平気な食べ物を、ぽつりぽつりとご紹介してまいりたいと思います。

"わたし"が死んで、"私"が生まれた日。
青花美来
ライト文芸
目が覚めたら、病院のベッドの上だった。
大怪我を負っていた私は、その時全ての記憶を失っていた。
私はどうしてこんな怪我をしているのだろう。
私は一体、どんな人生を歩んできたのだろう。
忘れたままなんて、怖いから。
それがどんなに辛い記憶だったとしても、全てを思い出したい。
第5回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。
時戻りのカノン
臣桜
恋愛
将来有望なピアニストだった花音は、世界的なコンクールを前にして事故に遭い、ピアニストとしての人生を諦めてしまった。地元で平凡な会社員として働いていた彼女は、事故からすれ違ってしまった祖母をも喪ってしまう。後悔にさいなまれる花音のもとに、祖母からの手紙が届く。手紙には、自宅にある練習室室Cのピアノを弾けば、女の子の霊が力を貸してくれるかもしれないとあった。やり直したいと思った花音は、トラウマを克服してピアノを弾き過去に戻る。やり直しの人生で秀真という男性に会い、恋をするが――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
小説 ロボットの話 It was a story of dark and quiet nights.
ピンク式部
ライト文芸
ちょっとおしゃべりで愛情深いお手伝い用ロボットと、どこにでもいる少しだけかわいそうな少女のお話です。
初出 note 【創作】 小説 ロボットの話 2019年2月20日
https://note.com/lily_3373/n/nd35489bb289a?creator_urlname=lily_3373
あやかしよりまし~後ろ神編~
葉来緑
ライト文芸
選択肢アリのアプリ版の分岐シナリオです。八橋美生がメインヒロインのルートとなります。
最初は同じですが、二日目から展開が変わっていきます。当作品には続編がありますが、
そちらとはストーリーが繋がらないifルートシナリオとなります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる