俺が白月蒼子を嫌う理由

ユウキ ヨルカ

文字の大きさ
上 下
76 / 186

75

しおりを挟む
時は少し遡り、この部室に俺たち3人全員が集合し終わった後のこと。部長である白月から改めて合宿についての説明を受けた。


「さて、これから3日間合宿を行っていくわけだけれど、合宿を始める前にもう一度内容を確認しておくわね」

そう言って白月は軽く咳払いをすると、俺と葉原に体を向けて話を続けた。


「この合宿のメインとなるのは、夜に屋上で行う天体観測。中でも、今日から明日にかけて観測することのできるペルセウス座流星群の記録です。そして、サブとなるのがこれから2人に行ってもらうプラネタリウム制作よ」

「プラネタリウム制作って、具体的には何をすればいいんだ?」

「それを今から説明するのよ」

白月はそう言って「黙ってろ」とでも言うかのように、鋭い視線を向けて来る。そして、俺が口を噤んだのを確認してから再び話を始めた。


「プラネタリウムにおいて特に重要なのは2つ。1つは星を映し出すために使用する投影機。そしてもう1つがドームよ」

「……投影機? ……ドーム?」

「まぁ詳しい解説は追々するとして、まずは投影機の作成から進めていくわよ。ドームの方は、たとえ完成したとしてもかなり場所を取ることになるでしょうから後回しね」

そう言って白月は、部屋の隅に置かれた段ボール箱から何かを取り出し、それをテーブルの上に並べた。俺と葉原はテーブルに近寄ってそれが何なのかをよく確認する。すると、テーブルに並べられたそれはどうやら、スーパーや100円ショップなどで販売されているボール紙のように見えた。

一体何に使うのだろうか……。そんな疑問を覚えながら白月に尋ねる。


「……これは?」

「ボール紙よ」

「それは見れば分かる。俺が聞きたいのは、このボール紙と投影機にどんな関係があるのかってことなんだが」

真面目に答えているのか、わざと答えているのかよく分からない白月の返しに、困惑しながら言葉を返すと、隣でそのボール紙を眺めていた葉原が閃いたとでも言うかのように「あっ!」と声を上げた。


「……もしかして、これが投影機の元になるやつ?」

「えぇ。その通りよ」

葉原の答えに対し、満足そうに笑みを浮かべる白月は、テーブルの上に並べられたボール紙を1つ手に取り、それをひらひらとはためかせてみせた。

そもそも投影機がどういうものなのかすらよく分かっていない俺には、そのボール紙がどのように使用されるのか見当もつかない。

そうしてしばらく、テーブルに置かれた残りのボール紙を険しい表情で見つめていると、白月がようやく投影機の作り方について説明を始めた。


「今から、このボール紙にペンで星座を描いていく作業を行うのだけれど、今回は夏の星座をプラネタリウムにしようと思うの」

「おぉー! いいねぇ。夏の星座なら、晴人くんもよく知ってるんじゃない?」

2人の視線がこちらに向く。


「確か、夏の大三角形……白鳥座のデネブ、琴座のベガ、鷲座のアルタイル……だろ?」

俺がそんな葉原の問いかけに対し、合宿前に覚えた知識を自信たっぷりに披露すると、葉原は優しく微笑み、白月はクスクスと鼻で笑いだした。


「それはもう誰もが知ってる一般常識なのだから、ドヤ顔で話されても困るだけよ」

「どこの一般常識だよ……。知らないやつだって他にもたくさんいるだろうが」

そう言って嘲笑を続ける白月を睨み付けると、葉原が苦笑いを浮かべながら仲介に入ってきた。


「でも、今夜観れるんじゃない? 夏の大三角形」

「そうね。昨日は新月だったし、月明かりもなくてここからでも割とはっきり見えると思うわよ」

「なんか、すっごいワクワクするね。誰もいない夜の学校で天体観測なんて……」

葉原は両手を胸のあたりで合わせると、恍惚の表情を浮かべて言う。


「えぇ。でもその前に、これを出来るところまで進めないといけないわね」

そう言って白月は再び、手に持ったボール紙に視線を集める。


「夜の天体観測をしっかりと行うためにも、キリのいいところまでやってしまいましょう。……それじゃあ、投影機の作り方についてだけど——」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

記憶屋

卯月青澄
ライト文芸
僕は風間。 人の記憶(思い出)を消す事の出来る記憶屋。 正しく言うと記憶、思い出を一時的に取り出し、『記憶箱』と呼ばれる小さな木箱に閉まっておく事が出来るというもの。 でも、それはいつかは本人が開けなければならない箱。 僕は依頼のあった人物に会いに行き、記憶を一時的に封印するのが仕事。 そして今日もこれから依頼人に会いに行く。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

「しん、とら。」

人体構成-1
ライト文芸
これは世界が終わるまでのほんの数年間の物語。 高校を卒業してから数年が経ち、久しぶりに皆で集まろうと声を掛けた二人組は最後の一仕事を終えるべく、少しづつ物語を綴っていく。 「たしかあれは……。」 話者:マメの語る思い出を、筆者:羽曳野冬華は多分に加筆しながら小説とし、これまでの数年間を皆で振り返りながら多くの人に読んでもらうべく完成させ、インターネットへと発信する(予定である)。 徐々に増える年越しメンバーと、彼女達と関わった怪異や遺物によって引き起こされた事件達は各々の目にどう映っていたのか。 一人の視点だけでは見えてこない裏側もいつか観られるかもしれない(し観られないかもしれない)。

気だるげ男子のいたわりごはん

水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【奨励賞】作品です。 ◇◇◇◇ いつも仕事でへとへとな私、清家杏(せいけあん)には、とっておきの楽しみがある。それは週に一度、料理代行サービスを利用して、大好きなあっさり和食ごはんを食べること。疲弊した体を引きずって自宅に帰ると、そこにはいつもお世話になっている女性スタッフではなく、無愛想で見目麗しい青年、郡司祥生(ぐんじしょう)がいて……。 仕事をがんばる主人公が、おいしい手料理を食べて癒されたり元気をもらったりするお話。 郡司が飼う真っ白なもふもふ犬(ビションフリーゼ)も登場します!

子供の言い分 大人の領分

ひおむし
恋愛
第二王子は、苛立っていた。身分を超えて絆を結んだ、元平民の子爵令嬢を苛む悪辣な婚約者に。気持ちを同じくする宰相子息、騎士団長子息は、ともに正義の鉄槌をくださんと立ち上がろうーーーとしたら、何故か即効で生徒指導室に放り込まれた。 「はーい、全員揃ってるかなー」 王道婚約破棄VSダウナー系教師。 いつも学園モノの婚約破棄見るたびに『いや教師何やってんの、学校なのに』と思っていた作者の鬱憤をつめた作品です。

猫と幼なじみ

鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。 ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。 ※小説家になろうでも公開中※

ナツキス -ずっとこうしていたかった-

帆希和華
ライト文芸
 紫陽花が咲き始める頃、笹井絽薫のクラスにひとりの転校生がやってきた。名前は葵百彩、一目惚れをした。  嫉妬したり、キュンキュンしたり、切なくなったり、目一杯な片思いをしていた。  ある日、百彩が同じ部活に入りたいといい、思わぬところでふたりの恋が加速していく。  大会の合宿だったり、夏祭りに、誕生日会、一緒に過ごす時間が、二人の距離を縮めていく。  そんな中、絽薫は思い出せないというか、なんだかおかしな感覚があった。フラッシュバックとでも言えばいいのか、毎回、同じような光景が突然目の前に広がる。  なんだろうと、考えれば考えるほど答えが遠くなっていく。  夏の終わりも近づいてきたある日の夕方、絽薫と百彩が二人でコンビニで買い物をした帰り道、公園へ寄ろうと入り口を通った瞬間、またフラッシュバックが起きた。  ただいつもと違うのは、その中に百彩がいた。  高校二年の夏、たしかにあった恋模様、それは現実だったのか、夢だったのか……。      17才の心に何を描いていくのだろう?  あの夏のキスのようにのリメイクです。  細かなところ修正しています。ぜひ読んでください。  選択しなくちゃいけなかったので男性向けにしてありますが、女性の方にも読んでもらいたいです。   よろしくお願いします!  

白薔薇園の憂鬱

岡智 みみか
ライト文芸
おじいちゃんの作品を取り戻せ! 大好きだったマイナー芸術家のおじいちゃんの作品は、全て生活費のために父に売られてしまった。独りになった今、幸せだったあの頃を取り戻したい。

処理中です...