65 / 186
64
しおりを挟む
「晴人くん、蒼子ちゃん! 今回は本当にありがとー! 助かったよぉ~」
期末テストが終了してから1週間後の水曜日。
天文部の部室に、返却されたテスト用紙を手に持った葉原が息を切らせてやってきた。
通常教科に家庭科と保健体育を合わせた、計12教科のテスト用紙を全て返却された葉原は、その全てが平均点を上回っていたらしく、部室に着くなり感涙に咽び泣きながら俺と白月に礼を言ってきた。
「この私がしっかり監督していたんだもの。当然の結果よ」
「なんでさも自分のお陰みたいに言ってんだ。お前は見てただけだろうが」
人の功績を横から奪い取ろうとする白月を訝しんだ目で見る。
「というか、今回の結果は葉原の努力の成果が出たってだけで、俺たちに礼を言う必要はねぇよ。頑張ったな」
試験勉強の手伝いをしたと言っても、実際にテストを受けたのは葉原本人であり、葉原自身の努力がなければいくら教えたところで結果は伴わなかっただろう。
『努力に応じた結果を出す』というのは、俺たちが思っているよりもずっと難しいことだということを、俺は身を以て知っている。
だから、こうして望んだ結果を出すことが出来たということは、それだけ葉原が必死になって勉強したという証明なのだ。
「うん。でも、やっぱりありがと。2人に見てもらってなかったら私、きっとこんなに頑張れなかったよ。……ところで、2人はテストどうだったの?」
謙虚で礼儀正しい葉原は改めて礼を口にすると、今度は俺たちにテストの是非を尋ねてきた。
「私はいつも通りね」
「俺もそこそこだな。平均80点行ったか行かないかくらいだったと思う」
白月の言う「いつも通り」とは、いつも通りオール100点ということだろう。相変わらず学力の次元が違いすぎる。
けれど、こいつはこいつ。俺は俺だ。
もう張り合うことはしない。俺はあくまで、俺自身のために勉強するだけ。
そう考えて今回のテストに望んだ。
その結果、前回の中間テストよりは合計点数が下がったものの学年上位には食い込めるような点を取ることができた。いつもなら、いろんなものが磨り減りそうになる定期試験も、今回は比較的安定して受けることができた。きっとこれも、心の成長というやつのお陰だろう。
そんな風に考えていると、葉原は感嘆の息を洩らしながら輝かしい瞳をこちらに向けてきた。
「すごいなぁ……2人とも。昔から全然変わってない。私ももっと頑張らなくちゃ」
俺はそう言って意気込む葉原に、自分の二の舞にはなって欲しくなくて、静かに諭す。
「そんなに気負う必要はないからな。自分のペースでゆっくり進んでいけばいい。……あと、間違ってもこいつみたいになろうとは思うなよ? こいつの頭の作りは俺たちとはまるで違うんだから、真似しようとしても無駄だぞ」
「わかってるよぉ、そんなこと。……ただ、もう少し、今の自分に自信を持ちたくて……。だから、少しずつ努力してく。 2人に迷惑をかけずに済むくらいまで」
「『迷惑をかけている』なんていうのは、自意識過剰だぜ。お前は俺たちの後輩なんだから、気にせずもっと頼っていいんだ」
たった1つしか歳が違わないといっても、俺たちが『先輩』で葉原が『後輩』という事実に変わりはない。下級生を導くのは上級生の義務みたいなもんだ。だから、葉原がそんなことを考える必要はどこにも無い。
「皇くんの言う通り、あなたはもっと人を頼ってもいいのよ。誰か頼れる相手が存在するということは、それはそれは素晴らしいことなのだから」
そう語る白月の言葉には、確かな重みやはっきりとした形があるように思えた。
こいつは——、白月は、俺たち『凡人』とは違う『天才』だからこそ、どれだけ人に頼ることが難しいのかをよく知っている。
……人に “自分の弱さ” を曝け出すことがどれほど大変で勇気のいることなのかを、こいつはよく知っているのだ。
そんな白月の言葉を受けて、葉原は「うん」と強く頷いた。そして、顔をグッと上げると、幼い顔に悪戯っぽい表情浮かべて無邪気に笑ってみせた。
「2人がそこまで言うなら、もう少しだけ頼ってみようかな。 ……そういうわけで! これからいっぱい迷惑かけるからよろしくね! 先輩!」
季節はもうすっかり夏。窓から見える蒼穹には、燦々と輝く白い太陽が「待ってました」と言わんばかりの強い存在感を放って浮かんでいる。
明日は終業式。1学期最後の登校日だ。
それが終われば、凪ノ宮高校にも待ちに待った夏休みがやってくる。いい形で夏休みのスタートを切るためにも、気を抜かず、最後の1日をしっかりと過ごそうと、俺は目の前に立って笑う葉原を見ながらそんなことを考えるのだった。
期末テストが終了してから1週間後の水曜日。
天文部の部室に、返却されたテスト用紙を手に持った葉原が息を切らせてやってきた。
通常教科に家庭科と保健体育を合わせた、計12教科のテスト用紙を全て返却された葉原は、その全てが平均点を上回っていたらしく、部室に着くなり感涙に咽び泣きながら俺と白月に礼を言ってきた。
「この私がしっかり監督していたんだもの。当然の結果よ」
「なんでさも自分のお陰みたいに言ってんだ。お前は見てただけだろうが」
人の功績を横から奪い取ろうとする白月を訝しんだ目で見る。
「というか、今回の結果は葉原の努力の成果が出たってだけで、俺たちに礼を言う必要はねぇよ。頑張ったな」
試験勉強の手伝いをしたと言っても、実際にテストを受けたのは葉原本人であり、葉原自身の努力がなければいくら教えたところで結果は伴わなかっただろう。
『努力に応じた結果を出す』というのは、俺たちが思っているよりもずっと難しいことだということを、俺は身を以て知っている。
だから、こうして望んだ結果を出すことが出来たということは、それだけ葉原が必死になって勉強したという証明なのだ。
「うん。でも、やっぱりありがと。2人に見てもらってなかったら私、きっとこんなに頑張れなかったよ。……ところで、2人はテストどうだったの?」
謙虚で礼儀正しい葉原は改めて礼を口にすると、今度は俺たちにテストの是非を尋ねてきた。
「私はいつも通りね」
「俺もそこそこだな。平均80点行ったか行かないかくらいだったと思う」
白月の言う「いつも通り」とは、いつも通りオール100点ということだろう。相変わらず学力の次元が違いすぎる。
けれど、こいつはこいつ。俺は俺だ。
もう張り合うことはしない。俺はあくまで、俺自身のために勉強するだけ。
そう考えて今回のテストに望んだ。
その結果、前回の中間テストよりは合計点数が下がったものの学年上位には食い込めるような点を取ることができた。いつもなら、いろんなものが磨り減りそうになる定期試験も、今回は比較的安定して受けることができた。きっとこれも、心の成長というやつのお陰だろう。
そんな風に考えていると、葉原は感嘆の息を洩らしながら輝かしい瞳をこちらに向けてきた。
「すごいなぁ……2人とも。昔から全然変わってない。私ももっと頑張らなくちゃ」
俺はそう言って意気込む葉原に、自分の二の舞にはなって欲しくなくて、静かに諭す。
「そんなに気負う必要はないからな。自分のペースでゆっくり進んでいけばいい。……あと、間違ってもこいつみたいになろうとは思うなよ? こいつの頭の作りは俺たちとはまるで違うんだから、真似しようとしても無駄だぞ」
「わかってるよぉ、そんなこと。……ただ、もう少し、今の自分に自信を持ちたくて……。だから、少しずつ努力してく。 2人に迷惑をかけずに済むくらいまで」
「『迷惑をかけている』なんていうのは、自意識過剰だぜ。お前は俺たちの後輩なんだから、気にせずもっと頼っていいんだ」
たった1つしか歳が違わないといっても、俺たちが『先輩』で葉原が『後輩』という事実に変わりはない。下級生を導くのは上級生の義務みたいなもんだ。だから、葉原がそんなことを考える必要はどこにも無い。
「皇くんの言う通り、あなたはもっと人を頼ってもいいのよ。誰か頼れる相手が存在するということは、それはそれは素晴らしいことなのだから」
そう語る白月の言葉には、確かな重みやはっきりとした形があるように思えた。
こいつは——、白月は、俺たち『凡人』とは違う『天才』だからこそ、どれだけ人に頼ることが難しいのかをよく知っている。
……人に “自分の弱さ” を曝け出すことがどれほど大変で勇気のいることなのかを、こいつはよく知っているのだ。
そんな白月の言葉を受けて、葉原は「うん」と強く頷いた。そして、顔をグッと上げると、幼い顔に悪戯っぽい表情浮かべて無邪気に笑ってみせた。
「2人がそこまで言うなら、もう少しだけ頼ってみようかな。 ……そういうわけで! これからいっぱい迷惑かけるからよろしくね! 先輩!」
季節はもうすっかり夏。窓から見える蒼穹には、燦々と輝く白い太陽が「待ってました」と言わんばかりの強い存在感を放って浮かんでいる。
明日は終業式。1学期最後の登校日だ。
それが終われば、凪ノ宮高校にも待ちに待った夏休みがやってくる。いい形で夏休みのスタートを切るためにも、気を抜かず、最後の1日をしっかりと過ごそうと、俺は目の前に立って笑う葉原を見ながらそんなことを考えるのだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
記憶屋
卯月青澄
ライト文芸
僕は風間。
人の記憶(思い出)を消す事の出来る記憶屋。
正しく言うと記憶、思い出を一時的に取り出し、『記憶箱』と呼ばれる小さな木箱に閉まっておく事が出来るというもの。
でも、それはいつかは本人が開けなければならない箱。
僕は依頼のあった人物に会いに行き、記憶を一時的に封印するのが仕事。
そして今日もこれから依頼人に会いに行く。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】

「しん、とら。」
人体構成-1
ライト文芸
これは世界が終わるまでのほんの数年間の物語。
高校を卒業してから数年が経ち、久しぶりに皆で集まろうと声を掛けた二人組は最後の一仕事を終えるべく、少しづつ物語を綴っていく。
「たしかあれは……。」
話者:マメの語る思い出を、筆者:羽曳野冬華は多分に加筆しながら小説とし、これまでの数年間を皆で振り返りながら多くの人に読んでもらうべく完成させ、インターネットへと発信する(予定である)。
徐々に増える年越しメンバーと、彼女達と関わった怪異や遺物によって引き起こされた事件達は各々の目にどう映っていたのか。
一人の視点だけでは見えてこない裏側もいつか観られるかもしれない(し観られないかもしれない)。

気だるげ男子のいたわりごはん
水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【奨励賞】作品です。
◇◇◇◇
いつも仕事でへとへとな私、清家杏(せいけあん)には、とっておきの楽しみがある。それは週に一度、料理代行サービスを利用して、大好きなあっさり和食ごはんを食べること。疲弊した体を引きずって自宅に帰ると、そこにはいつもお世話になっている女性スタッフではなく、無愛想で見目麗しい青年、郡司祥生(ぐんじしょう)がいて……。
仕事をがんばる主人公が、おいしい手料理を食べて癒されたり元気をもらったりするお話。
郡司が飼う真っ白なもふもふ犬(ビションフリーゼ)も登場します!

子供の言い分 大人の領分
ひおむし
恋愛
第二王子は、苛立っていた。身分を超えて絆を結んだ、元平民の子爵令嬢を苛む悪辣な婚約者に。気持ちを同じくする宰相子息、騎士団長子息は、ともに正義の鉄槌をくださんと立ち上がろうーーーとしたら、何故か即効で生徒指導室に放り込まれた。
「はーい、全員揃ってるかなー」
王道婚約破棄VSダウナー系教師。
いつも学園モノの婚約破棄見るたびに『いや教師何やってんの、学校なのに』と思っていた作者の鬱憤をつめた作品です。
猫と幼なじみ
鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。
ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。
※小説家になろうでも公開中※
ナツキス -ずっとこうしていたかった-
帆希和華
ライト文芸
紫陽花が咲き始める頃、笹井絽薫のクラスにひとりの転校生がやってきた。名前は葵百彩、一目惚れをした。
嫉妬したり、キュンキュンしたり、切なくなったり、目一杯な片思いをしていた。
ある日、百彩が同じ部活に入りたいといい、思わぬところでふたりの恋が加速していく。
大会の合宿だったり、夏祭りに、誕生日会、一緒に過ごす時間が、二人の距離を縮めていく。
そんな中、絽薫は思い出せないというか、なんだかおかしな感覚があった。フラッシュバックとでも言えばいいのか、毎回、同じような光景が突然目の前に広がる。
なんだろうと、考えれば考えるほど答えが遠くなっていく。
夏の終わりも近づいてきたある日の夕方、絽薫と百彩が二人でコンビニで買い物をした帰り道、公園へ寄ろうと入り口を通った瞬間、またフラッシュバックが起きた。
ただいつもと違うのは、その中に百彩がいた。
高校二年の夏、たしかにあった恋模様、それは現実だったのか、夢だったのか……。
17才の心に何を描いていくのだろう?
あの夏のキスのようにのリメイクです。
細かなところ修正しています。ぜひ読んでください。
選択しなくちゃいけなかったので男性向けにしてありますが、女性の方にも読んでもらいたいです。
よろしくお願いします!
白薔薇園の憂鬱
岡智 みみか
ライト文芸
おじいちゃんの作品を取り戻せ! 大好きだったマイナー芸術家のおじいちゃんの作品は、全て生活費のために父に売られてしまった。独りになった今、幸せだったあの頃を取り戻したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる