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「突然なんだよ。普通にやればいいじゃねぇか」
俺は思ったことをそのまま口にする。やりたいのなら勝手にやればいい。白月が個人で何をしようが俺には関係ないことだ。いちいち報告までする必要はない。
そんなことを思っていると、白月は言葉を付け加えて再度繰り返した。
「天文部として天体観測をします」
「……あぁ、そういうこと」
白月の言葉の意味をようやく理解した俺はトーンを落として言葉を返す。
まぁ、今の流れでいったら確かにそういう意味で捉える方が普通だった。今まで部活動の経験がなかったもんだから、てっきり白月が個人で行うことを報告しだしたのかと勘違いしてしまった。
けれど、どうして急に「天体観測をする」なんて言い出したのだろう。星なんて別に、天気さえ良ければいつだって見ることができる。それをわざわざ部として行うことに意味があるのか?
そうして頭を捻らせていると、まるで俺の心を読んだかのように白月が説明を加えた。
「皇くんは、天文部を『ただ天体について話し合うだけの部』と勘違いしているようだけれど、それは大きな間違いよ。部である以上、何かしらの活動実績を残しておかないと、天文部はまた廃部の危機にさらされてしまう。……そういうわけだから夏休み中、2、3日学校に泊まって天体観測をします」
「それはつまり…… “合宿” って事でいいのか?」
「えぇ」
この凪ノ宮高校には、校舎とは別に合宿所が完備されている。夏季休暇に入ると、よく運動部が集団で利用したりするらしいが、俺も施設の細かな情報まではよく知らない。
そもそも合宿というイベント自体、小中学生時代に行った学年行事くらいでしか経験がない。
と言うか、星を観測するだけならわざわざ泊まり込む必要はないんじゃないか? 夜だけ学校に入る許可をもらって、屋上やらグラウンドで活動すればいいのでは? などと思っていると、隣に座る葉原が勢いよく席を立ち上がった。
「いいじゃん合宿! やろうよ!! 学校にお泊まりなんて、なんかすっごいワクワクするし、いかにも『青春』って感じする!」
そう言って声を弾ませる葉原は、俺とは対照的にかなりやる気のようだ。……確かに葉原はこういうイベント事が好きそうだもんな。乗り気になるのもよくわかる。
そんなことを思っていると、開け放たれた窓を背にして立つ白月が口元に薄っすらと笑みを浮かべた。
「それじゃあ多数決を取ります。夏休み中に行う『天文部~天体観測合宿~』に賛成の者は挙手」
白月がそういうと同時に、俺以外の2人は天井に突き刺さるほど真っ直ぐに右手を上に挙げる。
俺はそんな2人を見て、「多数決が民主主義なんてのは、結局のところ嘘である」と社会の闇を身を以て実感した。俺は深く諦念しながら、重たい錨を引き上げるように右腕を挙げる。そうして全員が賛成の意を示したところで、白月が再び口を開いた。
「賛成3人、反対0人。というわけで、今年の夏休みは天文部として天体観測合宿を執り行うことに決定しました」
「わぁ~! ぱちぱちぱち!」
葉原はセルフ歓声と拍手を口で表す。
「詳しい日程はまた後日改めて報告するわ。だから2人はまず、再来週に控えた期末テストに集中してちょうだい。ここで赤点なんて取ってしまうと、夏休み中に補講をする羽目になって合宿どころではなくなるわよ」
白月の口から『期末テスト』という言葉が出たことで、一瞬葉原の表情が曇った。
「テスト……テストかぁ…………」
そういえば前回の中間テスト、葉原はどうだったんだろうか。興味本位で尋ねてみる。
「なぁ、葉原。前回の中間テスト、どうだったんだ?」
「あー……うん。赤点はなんとか免れたんだけど、全体的に点数がちょっとね……。特に英語と数学がやばかった。平均点下回ってたし……」
さっきまでの明るさが嘘のように、葉原のテンションが下がっていく。
凪ノ宮に入学した葉原と初めて言葉を交わしたあの日、「分からないことがあるなら遠慮せずに俺の所まで来い」的なことを言っておいたのだが、上級学年の教室というのは新入生にとってはなかなか来づらい場所だったようだ。この前、2年2組教室の前で葉原を見かけた時もなんだかおどおどしていたし、葉原には正直悪いことをしてしまったと少し反省した。
その代わりと言ってはなんだが、次のテストはできる限り力を貸してやろう。それに、運がいいのか悪いのか、この部には学年一……いや、学校一の天才がいる。
他の生徒ならともかく、葉原になら白月も手を貸してくれることだろう。
俺は頬を指で掻きながら苦笑する葉原に向かって口を開く。
「大丈夫だ葉原。この部には優秀な先輩が2人もいる。次のテストはきっと余裕でクリアできる」
「は? 2人? 私以外、他に誰かいるの?」
せっかく葉原を励ましていたところなのに、横から白月が割り込んできた。
……こいつ、素で言ってそうなところがムカつくんだよな。
そんなことを思いつつ、見た目に似合わずきょとんと可愛げに小首を傾げる白月を睨むと、少し元気を取り戻したらしい葉原が「うん」と小さく頷いた。
「2人が勉強手伝ってくれるなら頑張れる気がする! 絶対テスト突破して、みんなで合宿するぞー!! おー!」
そう言って天を衝くかのように丸めた右拳を高く挙げる葉原を見て、俺と白月は和むように薄っすらと口元に笑みを浮かべてみせた。
俺は思ったことをそのまま口にする。やりたいのなら勝手にやればいい。白月が個人で何をしようが俺には関係ないことだ。いちいち報告までする必要はない。
そんなことを思っていると、白月は言葉を付け加えて再度繰り返した。
「天文部として天体観測をします」
「……あぁ、そういうこと」
白月の言葉の意味をようやく理解した俺はトーンを落として言葉を返す。
まぁ、今の流れでいったら確かにそういう意味で捉える方が普通だった。今まで部活動の経験がなかったもんだから、てっきり白月が個人で行うことを報告しだしたのかと勘違いしてしまった。
けれど、どうして急に「天体観測をする」なんて言い出したのだろう。星なんて別に、天気さえ良ければいつだって見ることができる。それをわざわざ部として行うことに意味があるのか?
そうして頭を捻らせていると、まるで俺の心を読んだかのように白月が説明を加えた。
「皇くんは、天文部を『ただ天体について話し合うだけの部』と勘違いしているようだけれど、それは大きな間違いよ。部である以上、何かしらの活動実績を残しておかないと、天文部はまた廃部の危機にさらされてしまう。……そういうわけだから夏休み中、2、3日学校に泊まって天体観測をします」
「それはつまり…… “合宿” って事でいいのか?」
「えぇ」
この凪ノ宮高校には、校舎とは別に合宿所が完備されている。夏季休暇に入ると、よく運動部が集団で利用したりするらしいが、俺も施設の細かな情報まではよく知らない。
そもそも合宿というイベント自体、小中学生時代に行った学年行事くらいでしか経験がない。
と言うか、星を観測するだけならわざわざ泊まり込む必要はないんじゃないか? 夜だけ学校に入る許可をもらって、屋上やらグラウンドで活動すればいいのでは? などと思っていると、隣に座る葉原が勢いよく席を立ち上がった。
「いいじゃん合宿! やろうよ!! 学校にお泊まりなんて、なんかすっごいワクワクするし、いかにも『青春』って感じする!」
そう言って声を弾ませる葉原は、俺とは対照的にかなりやる気のようだ。……確かに葉原はこういうイベント事が好きそうだもんな。乗り気になるのもよくわかる。
そんなことを思っていると、開け放たれた窓を背にして立つ白月が口元に薄っすらと笑みを浮かべた。
「それじゃあ多数決を取ります。夏休み中に行う『天文部~天体観測合宿~』に賛成の者は挙手」
白月がそういうと同時に、俺以外の2人は天井に突き刺さるほど真っ直ぐに右手を上に挙げる。
俺はそんな2人を見て、「多数決が民主主義なんてのは、結局のところ嘘である」と社会の闇を身を以て実感した。俺は深く諦念しながら、重たい錨を引き上げるように右腕を挙げる。そうして全員が賛成の意を示したところで、白月が再び口を開いた。
「賛成3人、反対0人。というわけで、今年の夏休みは天文部として天体観測合宿を執り行うことに決定しました」
「わぁ~! ぱちぱちぱち!」
葉原はセルフ歓声と拍手を口で表す。
「詳しい日程はまた後日改めて報告するわ。だから2人はまず、再来週に控えた期末テストに集中してちょうだい。ここで赤点なんて取ってしまうと、夏休み中に補講をする羽目になって合宿どころではなくなるわよ」
白月の口から『期末テスト』という言葉が出たことで、一瞬葉原の表情が曇った。
「テスト……テストかぁ…………」
そういえば前回の中間テスト、葉原はどうだったんだろうか。興味本位で尋ねてみる。
「なぁ、葉原。前回の中間テスト、どうだったんだ?」
「あー……うん。赤点はなんとか免れたんだけど、全体的に点数がちょっとね……。特に英語と数学がやばかった。平均点下回ってたし……」
さっきまでの明るさが嘘のように、葉原のテンションが下がっていく。
凪ノ宮に入学した葉原と初めて言葉を交わしたあの日、「分からないことがあるなら遠慮せずに俺の所まで来い」的なことを言っておいたのだが、上級学年の教室というのは新入生にとってはなかなか来づらい場所だったようだ。この前、2年2組教室の前で葉原を見かけた時もなんだかおどおどしていたし、葉原には正直悪いことをしてしまったと少し反省した。
その代わりと言ってはなんだが、次のテストはできる限り力を貸してやろう。それに、運がいいのか悪いのか、この部には学年一……いや、学校一の天才がいる。
他の生徒ならともかく、葉原になら白月も手を貸してくれることだろう。
俺は頬を指で掻きながら苦笑する葉原に向かって口を開く。
「大丈夫だ葉原。この部には優秀な先輩が2人もいる。次のテストはきっと余裕でクリアできる」
「は? 2人? 私以外、他に誰かいるの?」
せっかく葉原を励ましていたところなのに、横から白月が割り込んできた。
……こいつ、素で言ってそうなところがムカつくんだよな。
そんなことを思いつつ、見た目に似合わずきょとんと可愛げに小首を傾げる白月を睨むと、少し元気を取り戻したらしい葉原が「うん」と小さく頷いた。
「2人が勉強手伝ってくれるなら頑張れる気がする! 絶対テスト突破して、みんなで合宿するぞー!! おー!」
そう言って天を衝くかのように丸めた右拳を高く挙げる葉原を見て、俺と白月は和むように薄っすらと口元に笑みを浮かべてみせた。
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