俺が白月蒼子を嫌う理由

ユウキ ヨルカ

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「…… “半分” ってそう意味だったのね」

「葉原を入部させただけじゃ、部として認められる規定人数には足りないだろ。せっかく部員が増えても、廃部になったんじゃあ意味がない」


——そう。

白月は部員が欲しかったわけじゃない。

普段周りに見せている、天才としての『白月蒼子』を忘れさせてくれるような、心安らぐ自分の居場所が欲しかったのだ。

家庭でも、学校でも、常に『天才』を演じ続けなければならない。
そんな彼女が、唯一心を落ち着かせることが出来る場所。それがこの『天文部』だった。

自分の本音を素直に言えないこいつは、俺が『勝負に負けた方が勝った方の言うことを聞く』なんて条件を設けなければ、きっと部についての話を持ち出すこともなかっただろう。

例え誰も部に入部せず、廃部が決定することになったとしても——。


全く、天才のプライドなのか何なのかは知らないが「誰か入部してください」の一言すら言えないなんて、面倒くさいにもほどがある。

『想いは言葉にしないと相手に伝わらない』なんてことは、今時の小学生だってちゃんと理解してるっていうのに。


俺はそんなことを考えながら、正面に立つ白月を見て言葉を続ける。


「そういうわけで、俺も今日から天文部員として活動することにした。これで、めでたく天文部も正式な部活動として認められることになったわけだ。良かったな」

「なんだかすごく適当に決めたみたいに聞こえるけど、皇くんはそれでいいの?」

「……せっかくの青春時代に、一度も部活動に参加しなかったなんてことになったら、将来かなり後悔しそうだからな。それに、今日からは葉原もいることだし、少しは楽しめそうだ」

今までは白月に勝つために余った時間のほとんどを勉強に当てていたが、先日の出来事があってからは、もう少し高校生らしい時間の使い方というのも学んだ方がいいということを理解した。それと葉原も部に参加するということで、薄暗く寂しげだった部室にも暖かな明かりが灯ったように見える。これなら、きっといい放課後ライフが送れるに違いない。

そんなことを考えての発言だったのだが、名前を出された葉原は顔を真っ赤に染めてわかりやすいほどに照れている。

しばらくそんな葉原を眺めていると、葉原は触り心地の良さそうな頬をくいっと持ち上げて微笑んだ。


「でも、こうしてまた3人で一緒に過ごせるなんて夢みたいだなぁ……。本当に晴人くんの言った通りだったね」

「俺、何か言ったっけ?」

「……『心が躍るような楽しいこと』、本当にあったよ」


そう言って満点の笑みを浮かべる葉原は、まごうことなき俺と白月が最も親しく接していた心優しい後輩のものだった。

そんな葉原につられるように、白月も頬を緩ませる。


「この部室も賑やかになるわね」

「蒼子ちゃん! これからいっぱい話しようね! 星のこととか、宇宙のこととか……あとガールズトークも!!」

「えぇ、そうね」


前の2つはともかく、ガールズトークなんて白月には絶対無理だろ。ガールズどころか、人と話すことすら満足にできないんだから、まずは人と話すことから始めてみては?

と、そんなことを考えながら、2人と同じく緩みきった頬を元に戻していると、白月がふとこちらに目を向けてきた。

俺はそれに応えるように、「なんだよ」と目で返す。


すると白月は、じゃれつく葉原を宥めながら口をパクパクと動かした。

声は発していないため聞こえないが、口の動きで白月が何を言ったのかはしっかり理解した。


『—— ありがとう』


半分は『礼なんていらない』という意味を込めて。もう半分は、一体どこから来るものなのか分からない『照れ』を隠すため、俺は軽く微笑んでそれに応えたのだった。
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