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俺がどうして白月に勝ちたいのか……だって?
そんなの決まってんだろ。俺が心の底から嫌悪する『天才』に一泡吹かせるため。ただそれだけ。そのためだけに、今まで好きでもない努力をこうして積み重ねてきたんだ。
けれど、その努力ももう意味を成さない。
いくら頑張ったところで、ただの『凡人』が『天才』に勝つことなど不可能だと理解してしまったから。
俺は白月の問いに対し、俯きながら答える。
「お前に……お前ら天才に一度でも勝つことが出来れば、『天才』と『凡人』の認識を改めることが出来るかもしれない。そうすれば少しは救われるんじゃないかと、そう思ったから——」
「無理よ」
白月の強く冷たい声が、俺の言葉を遮った。
「皇くん、それは無理な話よ」
「…………」
開いた口を閉ざす俺を見ながら、白月は言葉を続ける。
「例え、私に勝ったからと言って、それが『天才に勝った』と言うことにはならないのよ。貴方だって、分かっているでしょ? 『天才』と『凡人』が交わることは決してない。ましてや、ただの『凡人』が『天才』に勝つなんてのは不可能な話。『天才』に勝つことが出来るのは、同じ『天才』か『天才の素質』がある者だけ」
俺は、そんな当たり前のことを冷静に、淡々と口にする白月に対し、掌に爪痕が残るほど強く拳を握りしめて訴える。
「分かってる、そんなことはッ……! けれど、それじゃあ俺たち『凡人』は、一体何のために頑張ればいいんだ! 人が何かに全力で励むのは、それに応じた結果を欲しているからだ。あいつに勝ちたい。努力を認められたい。だから人は頑張れる。けれど、いくら努力を積み重ねても勝てない相手が存在すると分かってしまえば、俺たち『凡人』は努力する理由を見失ってしまう。頑張ることを諦めたやつに、生きる理由はない。ただ無気力に生きているやつは人間じゃない。それはもう、魂を抜かれたただの抜け殻だ」
そう言って俺は白月に目を向ける。
「なぁ、白月……教えてくれよ。俺は——、凡人おれたちは一体何のために頑張ればいい?」
こいつなら——、俺たち『凡人』とは違う『天才』の白月なら、その答えを持っているんじゃないか。そんな淡い希望を胸に、俺は白月に尋ねる。
しかし、そんな白月から返ってきた言葉は、俺が望むような希望に満ち溢れた言葉でも、同情して憐れむような優しい言葉でも、俺を今一度奮い立たせるような強い言葉でもなかった。
「呆れた……」
「……白月?」
「私、皇くんは周りの人たちとは何かが違うって、ずっとそう思ってた。……けれど、それはどうやら間違いだったみたい」
白月は俺の体を裂くように冷ややかな双眸をスッと細めると、まるで吐き捨てるかのようにそう呟いた。
そんなの決まってんだろ。俺が心の底から嫌悪する『天才』に一泡吹かせるため。ただそれだけ。そのためだけに、今まで好きでもない努力をこうして積み重ねてきたんだ。
けれど、その努力ももう意味を成さない。
いくら頑張ったところで、ただの『凡人』が『天才』に勝つことなど不可能だと理解してしまったから。
俺は白月の問いに対し、俯きながら答える。
「お前に……お前ら天才に一度でも勝つことが出来れば、『天才』と『凡人』の認識を改めることが出来るかもしれない。そうすれば少しは救われるんじゃないかと、そう思ったから——」
「無理よ」
白月の強く冷たい声が、俺の言葉を遮った。
「皇くん、それは無理な話よ」
「…………」
開いた口を閉ざす俺を見ながら、白月は言葉を続ける。
「例え、私に勝ったからと言って、それが『天才に勝った』と言うことにはならないのよ。貴方だって、分かっているでしょ? 『天才』と『凡人』が交わることは決してない。ましてや、ただの『凡人』が『天才』に勝つなんてのは不可能な話。『天才』に勝つことが出来るのは、同じ『天才』か『天才の素質』がある者だけ」
俺は、そんな当たり前のことを冷静に、淡々と口にする白月に対し、掌に爪痕が残るほど強く拳を握りしめて訴える。
「分かってる、そんなことはッ……! けれど、それじゃあ俺たち『凡人』は、一体何のために頑張ればいいんだ! 人が何かに全力で励むのは、それに応じた結果を欲しているからだ。あいつに勝ちたい。努力を認められたい。だから人は頑張れる。けれど、いくら努力を積み重ねても勝てない相手が存在すると分かってしまえば、俺たち『凡人』は努力する理由を見失ってしまう。頑張ることを諦めたやつに、生きる理由はない。ただ無気力に生きているやつは人間じゃない。それはもう、魂を抜かれたただの抜け殻だ」
そう言って俺は白月に目を向ける。
「なぁ、白月……教えてくれよ。俺は——、凡人おれたちは一体何のために頑張ればいい?」
こいつなら——、俺たち『凡人』とは違う『天才』の白月なら、その答えを持っているんじゃないか。そんな淡い希望を胸に、俺は白月に尋ねる。
しかし、そんな白月から返ってきた言葉は、俺が望むような希望に満ち溢れた言葉でも、同情して憐れむような優しい言葉でも、俺を今一度奮い立たせるような強い言葉でもなかった。
「呆れた……」
「……白月?」
「私、皇くんは周りの人たちとは何かが違うって、ずっとそう思ってた。……けれど、それはどうやら間違いだったみたい」
白月は俺の体を裂くように冷ややかな双眸をスッと細めると、まるで吐き捨てるかのようにそう呟いた。
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