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中間テストが終了してから約1週間が経ち、季節は徐々に春から夏へと移り変わっていっていく。
6月1日 金曜日。時刻は既に16時を回っている。
本来であれば、5限が終わってこれから放課後に突入するといった時間のはずなのだが、俺は教室でも、天文部の部室でもなく、自室のベッドの中にいた。
別に祝日で学校が休みというわけでも、大災害が起こった影響で休校になったというわけでも、目覚ましが鳴らずに寝坊して学校に行きそびれたというわけでもない。熱だってないし、体のどこかが痛むというわけでもない。
そんな見た目はいたって健康体な俺が、何故学校に登校せず、こうしてベッドの中で蛹のようにうずくまっているのか。
その原因は、机の上に乱雑に広げられた紙切れにある。
俺の本名と学年、出席番号……そして、赤色のボールペンで大きな花丸と一緒に『96』と書かれた、ただの紙切れ。
その他にも、『94、98、95……』と90番代の数字と共に、花丸や『excellent!!』の文字が書かれた紙切れが数枚。
言うまでもなく、それらは全て先日行われた中間テストの用紙だった。
結果だけを簡潔に述べるならば、俺は白月との勝負に負けた。言い訳すら浮かんでこないほどの惨敗だった。
自分から勝負を持ちかけて置いて、さらには「全教科満点を目指す」「余裕かましてられるのも今の内だ」なんて豪語しておきながら、結果はこの有様。
全教科100点どころか、得意な数学でさえ100点には至らなかった。それに比べて白月は、宣言通り全教科100点満点を取ってみせた。
廊下の掲示板に張り出された順位表の一番上には、『1位 白月蒼子』の文字が確かな存在感を持って書かれてあった。
せめて学年の順位が2位なら、言い訳くらいは言えたかもしれない。しかし、白月蒼子の下にあった名前は俺のものではなかった。
俺の——、『皇晴人』の名前があったのは、白月の名前の下の下のさらに下、6位の位置だった。
俺は絶望した。
『天才』と『凡人』の圧倒的な才能の差に対して……ではなく、自分自身の無能さにひどく絶望したのだ。
今まで、精一杯『秀才』のフリを続けてきたつもりだったけれど、やはり俺の本質はあくまで『凡人』なのだと、改めてそう再認識させられた。
この世界はファンタジーじゃない。当然、アニメや漫画のようにはいかない。『凡人』が『天才』に勝つことは出来ないし、努力が全て報われるとも限らない。
そんな当たり前のこと分かりきっていたはずなのに、否定したくて、拒絶したくて、信じたくなくて……、見たくないものに蓋をして、ずっと考えないようにしていたのだ。
頑張っていれば、努力さえ続けていれば、天才にだって勝てるかもしれない。
そんな綺麗事は俺自身が最も嫌っていたはずなのに、いつからかそんな希望に満ちた考えを持つようになり、それに縋るようになっていた。
6月1日 金曜日。時刻は既に16時を回っている。
本来であれば、5限が終わってこれから放課後に突入するといった時間のはずなのだが、俺は教室でも、天文部の部室でもなく、自室のベッドの中にいた。
別に祝日で学校が休みというわけでも、大災害が起こった影響で休校になったというわけでも、目覚ましが鳴らずに寝坊して学校に行きそびれたというわけでもない。熱だってないし、体のどこかが痛むというわけでもない。
そんな見た目はいたって健康体な俺が、何故学校に登校せず、こうしてベッドの中で蛹のようにうずくまっているのか。
その原因は、机の上に乱雑に広げられた紙切れにある。
俺の本名と学年、出席番号……そして、赤色のボールペンで大きな花丸と一緒に『96』と書かれた、ただの紙切れ。
その他にも、『94、98、95……』と90番代の数字と共に、花丸や『excellent!!』の文字が書かれた紙切れが数枚。
言うまでもなく、それらは全て先日行われた中間テストの用紙だった。
結果だけを簡潔に述べるならば、俺は白月との勝負に負けた。言い訳すら浮かんでこないほどの惨敗だった。
自分から勝負を持ちかけて置いて、さらには「全教科満点を目指す」「余裕かましてられるのも今の内だ」なんて豪語しておきながら、結果はこの有様。
全教科100点どころか、得意な数学でさえ100点には至らなかった。それに比べて白月は、宣言通り全教科100点満点を取ってみせた。
廊下の掲示板に張り出された順位表の一番上には、『1位 白月蒼子』の文字が確かな存在感を持って書かれてあった。
せめて学年の順位が2位なら、言い訳くらいは言えたかもしれない。しかし、白月蒼子の下にあった名前は俺のものではなかった。
俺の——、『皇晴人』の名前があったのは、白月の名前の下の下のさらに下、6位の位置だった。
俺は絶望した。
『天才』と『凡人』の圧倒的な才能の差に対して……ではなく、自分自身の無能さにひどく絶望したのだ。
今まで、精一杯『秀才』のフリを続けてきたつもりだったけれど、やはり俺の本質はあくまで『凡人』なのだと、改めてそう再認識させられた。
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そんな当たり前のこと分かりきっていたはずなのに、否定したくて、拒絶したくて、信じたくなくて……、見たくないものに蓋をして、ずっと考えないようにしていたのだ。
頑張っていれば、努力さえ続けていれば、天才にだって勝てるかもしれない。
そんな綺麗事は俺自身が最も嫌っていたはずなのに、いつからかそんな希望に満ちた考えを持つようになり、それに縋るようになっていた。
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