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当然、俺の口からは驚きと疑問が入り混じったような間の抜けた声が零れる。
なぜ、女子生徒の口から俺の名前が出てくるのか。疑問に思いつつ、その女子生徒の顔に視線を合わせると、女子生徒は花が咲いたかのようにぱぁっと表情を明るくさせると、再び口を開いた。
「やっぱり晴人くんだ! 晴人くんも揚げ物買いに来たの? 今ね、半額セールやってるからお得だよ!」
女子生徒は疑いから確信に変わったように俺の名前を呼ぶと、手に持ったビニール袋を持ち上げて見せて来た。
俺はそんな彼女が掲げるビニール袋には目もくれず、ただ彼女の顔だけをジッと見つめる。
しばらくそうしているうちに、ようやく彼女が何故俺の名前を知っているのかという答えに辿り着くことができた。
しかし、その答えが本当に正しいものなのか正直あまり自信がなかった為、正誤を確かめるように恐る恐る頭に浮かんだ1人の少女の名を口にする。
「お前……もしかして、葉原か?」
「なんで疑問形!? もしかしなくてもそうだよぉ! 」
そう言って、餌を目一杯口に詰め込んだハムスターのように頬を膨らませる彼女の名は、葉原夕。俺や白月と同じ小中学校に通っていた1学年下の後輩だ。
しかし俺の記憶が正しければ、葉原は中学までは長い髪を2つに結っておさげにしていたし、度の強い黒縁メガネをかけていたはず。
昼休みや放課後は、友達と過ごすよりも理科の先生との談義に花を咲かせるのが好きな、少し変わった少女だった。
そんな当時の葉原の印象は、はっきり言って『地味』の一言に尽きた。
それが今では髪を短くカットして軽くウェーブをかけ、地味系の本体とも言えるメガネの代わりにコンタクトを装着し、若者向けのファッション雑誌に載っていそうな明るい雰囲気のJKに様変わりしている。
小中学校時代、住んでいる地区が同じということもあって割と親しくしていた少女が、まるで当時の面影をなくしている現実に衝撃を受けながら、俺は葉原に尋ねる。
「……それ、あれか? 高校デビューってやつか?」
「まぁね。わたしも華の女子高生になったわけだし、おしゃれくらいしないとね!」
「ほーん……。大変だな、女子高生」
腰に手を当てながら、あまり起伏が無いように見える胸を張って言う葉原に対し、そんな言葉を返すが、おしゃれとは無縁な生活を送る俺には、女子高生の気持ちなどこれっぽっちも理解できるはずもなく、そんな適当な感想しか出てこない。
「てゆーか、学校の廊下とかで何回もすれ違ってるのに全然気づかないとか、晴人くんホントひどすぎ」
「いやいや、それは流石に気づかないって。もはや別人じゃねぇか……。ってか、俺に気づいてるなら、今みたいにそっちから声かけてくればいいだろ」
再びむくれたように頬を膨らませる葉原に、これほどは無いというくらいの正論を叩きつけてやると、それをバッサリと切り捨てるように葉原の口から否定の言葉が飛んで来た。
「はぁー!? 出来るわけないじゃん!」
「……は? なんで?」
友達の前で異性の先輩に話しかけるのが恥ずかしいとか、そんな乙女チックな理由でもあるのかと思い疑問を口にすると、葉原からは思いもよらぬ返答が返ってきた。
「だって、いっつも晴人くんの側に蒼子ちゃんいるんだもん。もし付き合ってるなら、邪魔しちゃ悪いし……」
茜色に色づく夕陽が顔に当たっているせいか、少しばかり頬が赤く染まっているように見える葉原の言葉に、俺は背筋這うようなぞわぞわとした嫌悪感を覚えた。
葉原が俺の小中学校時代からの後輩ということは、もちろん俺があの天才、白月蒼子に纏わり付かれていたことも知っている。葉原も白月も、幾度となく互いに顔を合わせて会話をしているため、少なくても「蒼子ちゃん」と名前で呼べる程度には2人の関係が親密であることが分かる。
しかしだからこそ、そんな葉原に嬉しくもない勘違いをされたのがショックだった。
「馬鹿かよ。あんなやつと付き合ってるわけがねぇだろうが」
「えぇ~? ほんとにぃ~?」
「その目やめろ。ってか、へんな噂とか流してねぇだろうな」
そう言って、疑念の目を向けて来る葉原を問い詰める。
すると葉原は、ビニール袋を持つ手とは逆の手を突き出して「してないよぉ~!」と身の潔白を主張してきた。
そんなあわあわと忙しなく手を動かす葉原は昔から、誰に対しても優しく接することができる心を持っていた。それに、人の噂をペラペラと軽々しく誰かに話すようなやつでもなかった。
だから俺もすぐに葉原を問いただすのをやめた。
いくら外見が変わったとしても、内面だけはそう簡単には変えられない。
そもそも人の性格なんてものは、例え一生かけても変えるなどできないんじゃないだろうか。
「まぁ、それならいい。でもいいか? 今後、くれぐれも変な勘違いはしないように」
念のためにそう言って釘を刺しておくと、葉原は眠気を誘うような柔らかな声で「はーい」と間延びした返事を返した。
なぜ、女子生徒の口から俺の名前が出てくるのか。疑問に思いつつ、その女子生徒の顔に視線を合わせると、女子生徒は花が咲いたかのようにぱぁっと表情を明るくさせると、再び口を開いた。
「やっぱり晴人くんだ! 晴人くんも揚げ物買いに来たの? 今ね、半額セールやってるからお得だよ!」
女子生徒は疑いから確信に変わったように俺の名前を呼ぶと、手に持ったビニール袋を持ち上げて見せて来た。
俺はそんな彼女が掲げるビニール袋には目もくれず、ただ彼女の顔だけをジッと見つめる。
しばらくそうしているうちに、ようやく彼女が何故俺の名前を知っているのかという答えに辿り着くことができた。
しかし、その答えが本当に正しいものなのか正直あまり自信がなかった為、正誤を確かめるように恐る恐る頭に浮かんだ1人の少女の名を口にする。
「お前……もしかして、葉原か?」
「なんで疑問形!? もしかしなくてもそうだよぉ! 」
そう言って、餌を目一杯口に詰め込んだハムスターのように頬を膨らませる彼女の名は、葉原夕。俺や白月と同じ小中学校に通っていた1学年下の後輩だ。
しかし俺の記憶が正しければ、葉原は中学までは長い髪を2つに結っておさげにしていたし、度の強い黒縁メガネをかけていたはず。
昼休みや放課後は、友達と過ごすよりも理科の先生との談義に花を咲かせるのが好きな、少し変わった少女だった。
そんな当時の葉原の印象は、はっきり言って『地味』の一言に尽きた。
それが今では髪を短くカットして軽くウェーブをかけ、地味系の本体とも言えるメガネの代わりにコンタクトを装着し、若者向けのファッション雑誌に載っていそうな明るい雰囲気のJKに様変わりしている。
小中学校時代、住んでいる地区が同じということもあって割と親しくしていた少女が、まるで当時の面影をなくしている現実に衝撃を受けながら、俺は葉原に尋ねる。
「……それ、あれか? 高校デビューってやつか?」
「まぁね。わたしも華の女子高生になったわけだし、おしゃれくらいしないとね!」
「ほーん……。大変だな、女子高生」
腰に手を当てながら、あまり起伏が無いように見える胸を張って言う葉原に対し、そんな言葉を返すが、おしゃれとは無縁な生活を送る俺には、女子高生の気持ちなどこれっぽっちも理解できるはずもなく、そんな適当な感想しか出てこない。
「てゆーか、学校の廊下とかで何回もすれ違ってるのに全然気づかないとか、晴人くんホントひどすぎ」
「いやいや、それは流石に気づかないって。もはや別人じゃねぇか……。ってか、俺に気づいてるなら、今みたいにそっちから声かけてくればいいだろ」
再びむくれたように頬を膨らませる葉原に、これほどは無いというくらいの正論を叩きつけてやると、それをバッサリと切り捨てるように葉原の口から否定の言葉が飛んで来た。
「はぁー!? 出来るわけないじゃん!」
「……は? なんで?」
友達の前で異性の先輩に話しかけるのが恥ずかしいとか、そんな乙女チックな理由でもあるのかと思い疑問を口にすると、葉原からは思いもよらぬ返答が返ってきた。
「だって、いっつも晴人くんの側に蒼子ちゃんいるんだもん。もし付き合ってるなら、邪魔しちゃ悪いし……」
茜色に色づく夕陽が顔に当たっているせいか、少しばかり頬が赤く染まっているように見える葉原の言葉に、俺は背筋這うようなぞわぞわとした嫌悪感を覚えた。
葉原が俺の小中学校時代からの後輩ということは、もちろん俺があの天才、白月蒼子に纏わり付かれていたことも知っている。葉原も白月も、幾度となく互いに顔を合わせて会話をしているため、少なくても「蒼子ちゃん」と名前で呼べる程度には2人の関係が親密であることが分かる。
しかしだからこそ、そんな葉原に嬉しくもない勘違いをされたのがショックだった。
「馬鹿かよ。あんなやつと付き合ってるわけがねぇだろうが」
「えぇ~? ほんとにぃ~?」
「その目やめろ。ってか、へんな噂とか流してねぇだろうな」
そう言って、疑念の目を向けて来る葉原を問い詰める。
すると葉原は、ビニール袋を持つ手とは逆の手を突き出して「してないよぉ~!」と身の潔白を主張してきた。
そんなあわあわと忙しなく手を動かす葉原は昔から、誰に対しても優しく接することができる心を持っていた。それに、人の噂をペラペラと軽々しく誰かに話すようなやつでもなかった。
だから俺もすぐに葉原を問いただすのをやめた。
いくら外見が変わったとしても、内面だけはそう簡単には変えられない。
そもそも人の性格なんてものは、例え一生かけても変えるなどできないんじゃないだろうか。
「まぁ、それならいい。でもいいか? 今後、くれぐれも変な勘違いはしないように」
念のためにそう言って釘を刺しておくと、葉原は眠気を誘うような柔らかな声で「はーい」と間延びした返事を返した。
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