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天文部の部室を後にした俺たちは、昇降口で靴を履き替えると、昇降口から真っ直ぐに続くアプローチを通って正門へとやってきた。
今日から中間テストが終わるまでの約1週間、試験休みということでほとんどの部活動は活動禁止となっている。そのため、いつもグラウンドから聞こえてくる野球部の掛け声や陸上部のホイッスルの音は一切聞こえない。聞こえるのは、学校前の道路を行き来する自動車の走行音と俺の少し後ろでカツカツと響く白月の足音だけ。
そんな一定のリズムを刻んで歩く白月の足音を耳にしながら、1つの人影も見当たらないグラウンドに目をやり、「うちの学校のグラウンドはこんなにも広かったんだな」などと思い歩いていると、後ろを歩く白月の足音がぴたりと止まった。
「どうした」
俺は一度足を止め、振り返って尋ねる。
「私、少し書店に寄ってから帰るわね。皇くんは先に帰ってもらって結構よ」
「言われなくてもそのつもりだ。……何か買うのか?」
「えぇ。今日はハマっている漫画の新刊発売日なのよ」
「…………お前、漫画とか読むのか」
意外すぎて少し反応が遅れた。
ハンバーガーも食ったことのないようなお嬢様のくせに、なんでそこだけ庶民的なんだよ。というか、白月の両親は「漫画なんてくだらない」とか言いそうな感じがあるが、そこのところ一体どうなんだろうか。
と、そんな風に思っていると、白月は「何を言っているんだこいつは」といった侮蔑の眼差しをこちらに向けてきた。
「当たり前でしょ? 漫画だって立派な書物よ。得られるものはいくらでもあるわ。よく『小説は学習に適していて、漫画は適していない』なんて言われ方もするけれど、私に言わせればそれこそ凡人の考えよ。どちらにも、それでしか出来ない表現というものがあるのだから、どちらが良いだの悪いだの比べられるわけがないじゃない」
「まぁ……そうだけどよ」
確かに白月の言っていることは正しい。
俺自身、これまでの人生で多くのことを漫画から学んだ。
それは友情についてだったり、努力についてだったり、諦めない心についてだったり……。
白月の両親も、頭が固いように思えてそこのところはしっかりと理解しているのだろう。
「そういうわけだから、皇くん。あなたはさっさとお家に帰ってお勉強の続きでもしなさいな」
「だから、言われなくてもそのつもりだっつーの……。そうやって余裕かましてられるのも今のうちだからな」
「はいはい」
白月はそう言ってクスクスと鼻で笑うと、「それじゃあ、また明日」と言い残して、俺とは反対方向へ向かって足を進めていった。
俺はそんな白月の夕映えする後ろ姿を見てから嘆息すると、夕陽によって濃く長く伸びる自分の影を追うように家路に就いた。
今日から中間テストが終わるまでの約1週間、試験休みということでほとんどの部活動は活動禁止となっている。そのため、いつもグラウンドから聞こえてくる野球部の掛け声や陸上部のホイッスルの音は一切聞こえない。聞こえるのは、学校前の道路を行き来する自動車の走行音と俺の少し後ろでカツカツと響く白月の足音だけ。
そんな一定のリズムを刻んで歩く白月の足音を耳にしながら、1つの人影も見当たらないグラウンドに目をやり、「うちの学校のグラウンドはこんなにも広かったんだな」などと思い歩いていると、後ろを歩く白月の足音がぴたりと止まった。
「どうした」
俺は一度足を止め、振り返って尋ねる。
「私、少し書店に寄ってから帰るわね。皇くんは先に帰ってもらって結構よ」
「言われなくてもそのつもりだ。……何か買うのか?」
「えぇ。今日はハマっている漫画の新刊発売日なのよ」
「…………お前、漫画とか読むのか」
意外すぎて少し反応が遅れた。
ハンバーガーも食ったことのないようなお嬢様のくせに、なんでそこだけ庶民的なんだよ。というか、白月の両親は「漫画なんてくだらない」とか言いそうな感じがあるが、そこのところ一体どうなんだろうか。
と、そんな風に思っていると、白月は「何を言っているんだこいつは」といった侮蔑の眼差しをこちらに向けてきた。
「当たり前でしょ? 漫画だって立派な書物よ。得られるものはいくらでもあるわ。よく『小説は学習に適していて、漫画は適していない』なんて言われ方もするけれど、私に言わせればそれこそ凡人の考えよ。どちらにも、それでしか出来ない表現というものがあるのだから、どちらが良いだの悪いだの比べられるわけがないじゃない」
「まぁ……そうだけどよ」
確かに白月の言っていることは正しい。
俺自身、これまでの人生で多くのことを漫画から学んだ。
それは友情についてだったり、努力についてだったり、諦めない心についてだったり……。
白月の両親も、頭が固いように思えてそこのところはしっかりと理解しているのだろう。
「そういうわけだから、皇くん。あなたはさっさとお家に帰ってお勉強の続きでもしなさいな」
「だから、言われなくてもそのつもりだっつーの……。そうやって余裕かましてられるのも今のうちだからな」
「はいはい」
白月はそう言ってクスクスと鼻で笑うと、「それじゃあ、また明日」と言い残して、俺とは反対方向へ向かって足を進めていった。
俺はそんな白月の夕映えする後ろ姿を見てから嘆息すると、夕陽によって濃く長く伸びる自分の影を追うように家路に就いた。
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