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白月はそんな俺の問いに対し、不思議そうに首を傾げると「だって——」と、その言葉の意味について説明しだした。
「だって私、100点しか取らないから」
「……は?」
「中間テストで行われる教科の最大得点は、どれも100点でしょ? それより上の点数は存在しないんだから、皇くんがいくら努力したところで私に総合点数で勝つことは不可能なのよ。良くても引き分けが限界。……言ってる意味、分かるかしら?」
「…………」
俺は白月の話を聞いて、完全に言葉を失った。
100点しか取らない? 本気で言ってるのか、こいつは……。
最近ではプライバシーの関係もあって、順位は公開されても点数まで公開されることはなくなっているという学校が増えてきているらしい。少なくても俺の通っていた小・中学校、そしてこの凪ノ宮高校では点数までは開示されていない。だから、白月が毎回のテストでどれくらいの点数を取っていたのか、今まで全く知らなかった。
もし、白月の話が誇張したものではなく真実なら、こいつの学力は俺の持つ凡人用の物差しでは到底測りきることは出来ないだろう。
「100点しか取らないとか、どっからそんな自信湧いてくんだよ……」
乾いた笑いと共に、そんな言葉が零れる。
全教科で満点を取るということは、1つのミスも犯してはいけないということだ。
小学校のテストならあるいは可能かもしれない。しかし、高校のテストともなるとその難易度は桁違いに跳ね上がる。
決して無理ではない。……無理ではないが、どう考えても無茶だ。
テスト範囲に指定された箇所で、特に理解できないような部分はないが、それでも1つのケアレスミスすらしてはいけないと考えると、かなりの不安とプレッシャーが襲ってくる。
この俺に、全教科で100点満点を取るなんてことが果たして可能なのだろうか……。
そんなことを考えながら、なんとかして満点を取っている自分の姿をイメージしようとしていると、斜め前の席に座る白月が口元に薄っすらと笑みを浮かべながら声をかけてきた。
「ねぇ、皇くん」
「話しかけんな。気が散る」
「なんとかして私に勝ちたいと思っている皇くんに、特別にハンデをあげましょうか?」
「……は?」
「1教科でも100点満点のテストがあれば、今回は皇くんの勝ちってことにしてあげる。さらにおまけとして、私に勝てたらなんでも1つだけ言うことを聞いてあげるわ」
何を言うかと思えば……。
こいつは俺を——、『凡人』を完全に舐めている。
俺はニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべる白月を強く睨みつけると、出来る限り感情を抑えて静かに言葉をぶつける。
「……ハンデ? いらねぇよ。そんなものをもらって勝っても意味がない。正々堂々勝負して勝たなきゃ、胸を張って「勝った」とは言えねぇだろうが。もちろん、手を抜くなんてのもダメだ。『天才』には『天才』なりのプライドがあるように、『凡人』にも『凡人』なりのプライドってのがあるんだ。だから余計なことはすんな」
すると、流石の白月でも茶々を入れていい場面ではないと理解したのか、フッと軽く息を吐くと、真剣な表情を俺の方に向けた。
「……分かった。皇くんがそう望むなら、そうしましょう。ちなみに、私が勝った時は皇くんに1つお願いを聞いてもらうから、そのつもりで」
「あぁ、それでいい」
「それじゃあ、中間テストまで残り1週間。せいぜい頑張ってちょうだいね」
白月はそう言って席を立つと、鞄を持って窓際へと移動した。そして、カーテンをピシャリと閉めると、部屋の鍵を持って部室を出た。
「何してるの。帰るわよ」
「あぁ」
残り1週間という短い期間で、どこまで自分を追い詰めることが出来るのか、正直なところまだ分からない。
けれど、勢いよく啖呵を切ってしまった以上、やるしか道は残されていない。
ならばせめて『凡人』の——、皇 晴人の持つ力の全てを費やして、残りの1週間、全力でテスト勉強に励むことにしよう。
俺はそんな決意を胸にしながら、白月に続いて天文部の部室を後にした。
「だって私、100点しか取らないから」
「……は?」
「中間テストで行われる教科の最大得点は、どれも100点でしょ? それより上の点数は存在しないんだから、皇くんがいくら努力したところで私に総合点数で勝つことは不可能なのよ。良くても引き分けが限界。……言ってる意味、分かるかしら?」
「…………」
俺は白月の話を聞いて、完全に言葉を失った。
100点しか取らない? 本気で言ってるのか、こいつは……。
最近ではプライバシーの関係もあって、順位は公開されても点数まで公開されることはなくなっているという学校が増えてきているらしい。少なくても俺の通っていた小・中学校、そしてこの凪ノ宮高校では点数までは開示されていない。だから、白月が毎回のテストでどれくらいの点数を取っていたのか、今まで全く知らなかった。
もし、白月の話が誇張したものではなく真実なら、こいつの学力は俺の持つ凡人用の物差しでは到底測りきることは出来ないだろう。
「100点しか取らないとか、どっからそんな自信湧いてくんだよ……」
乾いた笑いと共に、そんな言葉が零れる。
全教科で満点を取るということは、1つのミスも犯してはいけないということだ。
小学校のテストならあるいは可能かもしれない。しかし、高校のテストともなるとその難易度は桁違いに跳ね上がる。
決して無理ではない。……無理ではないが、どう考えても無茶だ。
テスト範囲に指定された箇所で、特に理解できないような部分はないが、それでも1つのケアレスミスすらしてはいけないと考えると、かなりの不安とプレッシャーが襲ってくる。
この俺に、全教科で100点満点を取るなんてことが果たして可能なのだろうか……。
そんなことを考えながら、なんとかして満点を取っている自分の姿をイメージしようとしていると、斜め前の席に座る白月が口元に薄っすらと笑みを浮かべながら声をかけてきた。
「ねぇ、皇くん」
「話しかけんな。気が散る」
「なんとかして私に勝ちたいと思っている皇くんに、特別にハンデをあげましょうか?」
「……は?」
「1教科でも100点満点のテストがあれば、今回は皇くんの勝ちってことにしてあげる。さらにおまけとして、私に勝てたらなんでも1つだけ言うことを聞いてあげるわ」
何を言うかと思えば……。
こいつは俺を——、『凡人』を完全に舐めている。
俺はニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべる白月を強く睨みつけると、出来る限り感情を抑えて静かに言葉をぶつける。
「……ハンデ? いらねぇよ。そんなものをもらって勝っても意味がない。正々堂々勝負して勝たなきゃ、胸を張って「勝った」とは言えねぇだろうが。もちろん、手を抜くなんてのもダメだ。『天才』には『天才』なりのプライドがあるように、『凡人』にも『凡人』なりのプライドってのがあるんだ。だから余計なことはすんな」
すると、流石の白月でも茶々を入れていい場面ではないと理解したのか、フッと軽く息を吐くと、真剣な表情を俺の方に向けた。
「……分かった。皇くんがそう望むなら、そうしましょう。ちなみに、私が勝った時は皇くんに1つお願いを聞いてもらうから、そのつもりで」
「あぁ、それでいい」
「それじゃあ、中間テストまで残り1週間。せいぜい頑張ってちょうだいね」
白月はそう言って席を立つと、鞄を持って窓際へと移動した。そして、カーテンをピシャリと閉めると、部屋の鍵を持って部室を出た。
「何してるの。帰るわよ」
「あぁ」
残り1週間という短い期間で、どこまで自分を追い詰めることが出来るのか、正直なところまだ分からない。
けれど、勢いよく啖呵を切ってしまった以上、やるしか道は残されていない。
ならばせめて『凡人』の——、皇 晴人の持つ力の全てを費やして、残りの1週間、全力でテスト勉強に励むことにしよう。
俺はそんな決意を胸にしながら、白月に続いて天文部の部室を後にした。
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