34 / 186
33
しおりを挟む
すると、その言葉を受けた白月は驚きで一瞬両目を大きく見開くと、すぐに素の表情に戻って俯いた。
長い髪に隠れて白月の表情は見えない。
部室内には再び嫌な沈黙が流れ出した。
俯いたまま黙る白月を見て、少し強く言いすぎたか、などと思っていると、いつの間にか再開した吹奏楽部の演奏と、外から聞こえる雨音に紛れて白月がポツリと呟いた。
「……知らないくせに」
「は?」
恐ろしく静かな白月の声。
——嵐の前の静けさ。
そんな言葉が脳裏を過ぎった。
まるで、鳥達が翼をばたつかせて騒めくような得体の知れない不安と不気味さが、嫌な予感を感じさせる。
そして、それは現実となった。
「何も知らないくせに、勝手なこと言わないでっ……!」
突然発せられた白月の怒号に驚き、思わず体がびくりと反応した。
白月は先程まで俯かせていた顔を勢いよく上げ、その冷ややかな双眸で俺を睨みつける。瞳の端には微かに涙が溜まっているのが見えた。
制服のスカートの端を強く握る手は静かに震え、俺はすぐに白月は怒っているのだと理解した。
「あなたに……! 凡人のあなたに、一体何が分かるって言うのよ! 」
開いた口を閉じることも忘れ、ただ呆然とその場に立ち尽くす俺に、白月は続けて言葉を並べる。
「毎日毎日、名前も知らない人たちから身勝手な期待を押し付けられて、『天才だから』『凄い才能を持っているから』って、失敗することすら許してもらえなくて……! 私だって、辞められるのなら今すぐにでも辞めたいわよ!!」
俺が白月に対して6年間抑え続けてきた想いを吐き出したように、白月も俺に対して、今まで決して口にすることはなかった……いや、口に出したくても出せなかった想いを思い切り吐き出した。
今まで、白月が一度たりとも俺に見せたことがなかった表情に圧倒されながらも、不思議と頭はクリアだった。
そんな白月は最後に、白月が最も強く思っているであろう言葉を静かに口にした。
「天才になんて……生まれて来なければ良かったのに」
それっきり、白月が口を開くことはなかった。
長い髪に隠れて白月の表情は見えない。
部室内には再び嫌な沈黙が流れ出した。
俯いたまま黙る白月を見て、少し強く言いすぎたか、などと思っていると、いつの間にか再開した吹奏楽部の演奏と、外から聞こえる雨音に紛れて白月がポツリと呟いた。
「……知らないくせに」
「は?」
恐ろしく静かな白月の声。
——嵐の前の静けさ。
そんな言葉が脳裏を過ぎった。
まるで、鳥達が翼をばたつかせて騒めくような得体の知れない不安と不気味さが、嫌な予感を感じさせる。
そして、それは現実となった。
「何も知らないくせに、勝手なこと言わないでっ……!」
突然発せられた白月の怒号に驚き、思わず体がびくりと反応した。
白月は先程まで俯かせていた顔を勢いよく上げ、その冷ややかな双眸で俺を睨みつける。瞳の端には微かに涙が溜まっているのが見えた。
制服のスカートの端を強く握る手は静かに震え、俺はすぐに白月は怒っているのだと理解した。
「あなたに……! 凡人のあなたに、一体何が分かるって言うのよ! 」
開いた口を閉じることも忘れ、ただ呆然とその場に立ち尽くす俺に、白月は続けて言葉を並べる。
「毎日毎日、名前も知らない人たちから身勝手な期待を押し付けられて、『天才だから』『凄い才能を持っているから』って、失敗することすら許してもらえなくて……! 私だって、辞められるのなら今すぐにでも辞めたいわよ!!」
俺が白月に対して6年間抑え続けてきた想いを吐き出したように、白月も俺に対して、今まで決して口にすることはなかった……いや、口に出したくても出せなかった想いを思い切り吐き出した。
今まで、白月が一度たりとも俺に見せたことがなかった表情に圧倒されながらも、不思議と頭はクリアだった。
そんな白月は最後に、白月が最も強く思っているであろう言葉を静かに口にした。
「天才になんて……生まれて来なければ良かったのに」
それっきり、白月が口を開くことはなかった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
記憶屋
卯月青澄
ライト文芸
僕は風間。
人の記憶(思い出)を消す事の出来る記憶屋。
正しく言うと記憶、思い出を一時的に取り出し、『記憶箱』と呼ばれる小さな木箱に閉まっておく事が出来るというもの。
でも、それはいつかは本人が開けなければならない箱。
僕は依頼のあった人物に会いに行き、記憶を一時的に封印するのが仕事。
そして今日もこれから依頼人に会いに行く。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】

「しん、とら。」
人体構成-1
ライト文芸
これは世界が終わるまでのほんの数年間の物語。
高校を卒業してから数年が経ち、久しぶりに皆で集まろうと声を掛けた二人組は最後の一仕事を終えるべく、少しづつ物語を綴っていく。
「たしかあれは……。」
話者:マメの語る思い出を、筆者:羽曳野冬華は多分に加筆しながら小説とし、これまでの数年間を皆で振り返りながら多くの人に読んでもらうべく完成させ、インターネットへと発信する(予定である)。
徐々に増える年越しメンバーと、彼女達と関わった怪異や遺物によって引き起こされた事件達は各々の目にどう映っていたのか。
一人の視点だけでは見えてこない裏側もいつか観られるかもしれない(し観られないかもしれない)。

気だるげ男子のいたわりごはん
水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【奨励賞】作品です。
◇◇◇◇
いつも仕事でへとへとな私、清家杏(せいけあん)には、とっておきの楽しみがある。それは週に一度、料理代行サービスを利用して、大好きなあっさり和食ごはんを食べること。疲弊した体を引きずって自宅に帰ると、そこにはいつもお世話になっている女性スタッフではなく、無愛想で見目麗しい青年、郡司祥生(ぐんじしょう)がいて……。
仕事をがんばる主人公が、おいしい手料理を食べて癒されたり元気をもらったりするお話。
郡司が飼う真っ白なもふもふ犬(ビションフリーゼ)も登場します!

子供の言い分 大人の領分
ひおむし
恋愛
第二王子は、苛立っていた。身分を超えて絆を結んだ、元平民の子爵令嬢を苛む悪辣な婚約者に。気持ちを同じくする宰相子息、騎士団長子息は、ともに正義の鉄槌をくださんと立ち上がろうーーーとしたら、何故か即効で生徒指導室に放り込まれた。
「はーい、全員揃ってるかなー」
王道婚約破棄VSダウナー系教師。
いつも学園モノの婚約破棄見るたびに『いや教師何やってんの、学校なのに』と思っていた作者の鬱憤をつめた作品です。
猫と幼なじみ
鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。
ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。
※小説家になろうでも公開中※
ナツキス -ずっとこうしていたかった-
帆希和華
ライト文芸
紫陽花が咲き始める頃、笹井絽薫のクラスにひとりの転校生がやってきた。名前は葵百彩、一目惚れをした。
嫉妬したり、キュンキュンしたり、切なくなったり、目一杯な片思いをしていた。
ある日、百彩が同じ部活に入りたいといい、思わぬところでふたりの恋が加速していく。
大会の合宿だったり、夏祭りに、誕生日会、一緒に過ごす時間が、二人の距離を縮めていく。
そんな中、絽薫は思い出せないというか、なんだかおかしな感覚があった。フラッシュバックとでも言えばいいのか、毎回、同じような光景が突然目の前に広がる。
なんだろうと、考えれば考えるほど答えが遠くなっていく。
夏の終わりも近づいてきたある日の夕方、絽薫と百彩が二人でコンビニで買い物をした帰り道、公園へ寄ろうと入り口を通った瞬間、またフラッシュバックが起きた。
ただいつもと違うのは、その中に百彩がいた。
高校二年の夏、たしかにあった恋模様、それは現実だったのか、夢だったのか……。
17才の心に何を描いていくのだろう?
あの夏のキスのようにのリメイクです。
細かなところ修正しています。ぜひ読んでください。
選択しなくちゃいけなかったので男性向けにしてありますが、女性の方にも読んでもらいたいです。
よろしくお願いします!
白薔薇園の憂鬱
岡智 みみか
ライト文芸
おじいちゃんの作品を取り戻せ! 大好きだったマイナー芸術家のおじいちゃんの作品は、全て生活費のために父に売られてしまった。独りになった今、幸せだったあの頃を取り戻したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる