俺が白月蒼子を嫌う理由

ユウキ ヨルカ

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「そうして色んな分野で『天才だ』『神童だ』と注目されるようになってからは、今まで楽しいと思っていたはずのことが、どんどん苦しいものに変わっていった」

楽しいと思っていたことを続けるのが急に苦しくなる。白月がそう感じるのは、いわゆる『天才ならではのプレッシャー』と言うやつのせいだろう。

それからのことは、白月の口から説明されなくても何となく理解することができた。

きっと、注目を浴びる白月本人だけではなく、才能を開花させるきっかけを作った両親も、周りからのプレッシャーに応えなければならないという使命感のようなものに襲われてしまったのだろう。


本来、親だけは何があっても子供の味方であり続け、一番近くで成長を見守っていかなくてはならない。

子供が「苦しい」と言えば、なんとかして助けてやるが親というものである。

けれど白月の場合、実の両親ですらも周囲の人間の目ばかりを気にして、白月の心の声に耳を傾けようとはしなかった。

そんな白月は、活躍するたびに周りからの期待がどんどん大きくなっていき、逃げることも出来ず、たった1人でその重圧に耐えなければならなくなったのだ。

頭でそう考えるだけなら誰にだって出来る。
けれど、どうあがいても凡人の俺には『天才の苦悩』というものを上手く想像することができなかった。

だから、俺は白月に対して素直に思ったことを伝える。


「お前の父親が……いや、ひょっとしたら母親もかもしれないが、周囲の目を気にして徹底的にお前の才能を管理しようしたってことはなんとなく分かった。……いや、これっぽっちも理解はできないが、それでもなんとなくは分かった」

白月は俺の話に口を挟むようなことはせず、ただ静かに耳を傾ける。


「けど、だからって何でもかんでも親の言いなりになるのはおかしいだろ。それに、たかが休日に街へ出掛けたくらいで実の娘に手をあげるとか、お前の父親どうかしてんじゃねえのか?」

時には互いに意見が合わず、喧嘩をすることもあるだろう。自分の子供が何か良からぬことをしてしまった時には、躾として厳しく接する事も必要だと思う。

けれど、自分の子供だからと言って何をしてもいいと言うわけではない。

親も子も、あくまで1人の人間だ。
常にお互いを尊重し合って、生きていかなければならない。

だから、糸に吊るされたマリオネットを操るように自分の子供を扱うことは許されることではないし、ましてや一時の感情に呑まれて手をあげるなんて事は、親として絶対にやってはいけない行為だと思う。

白月の父親は、白月に対してそれをやってしまった。それも恐らくは、一度や二度の事ではないだろう。


「お前、一度でも両親に自分の気持ちしっかりと伝えたことあんのか?」

「…………」

黙って俯く白月の表情は、ここからでは確認できない。


コンクールに向けての練習でもしているのか、雨音を遮って吹奏楽部の演奏が微かに聴こえてくる。
トランペットのハリのある音色やフルートの繊細で上品な音色が、天文部の部室まで届く。

しばらく綺麗に合わさった音色に耳を澄ましていると、白月が再び口を開いた。


「私、休日って嫌いなの」

「突然なんだよ」

急に話が変わったことに、俺は疑問を抱いた。
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