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「うちの学校、天文部なんてあったんだな」
この高校に入学して1年が経過したが、今まで天文部に所属している生徒の話を聞いたことがなかったため、そんな部が存在していることすら知らなかった。
白月は、首を上に向けてプレートを眺める俺には一切構わず、天文部の部室の扉に手をかける。
「あ、おい。勝手に入っていいのかよ」
「部員なんだから、いいに決まってるでしょ」
「……は? 部員? 誰が?」
「私が」
何やらさらっと衝撃の事実を告げられたような気もしたが、白月はいつもと変わらぬ無関心な表情で部室の中へと入っていく。
ワンテンポ遅れて俺も天文部の部室に入る。
初めて入る天文部の部室は素直に物珍しく、俺は部室内をぐるっと見回す。
部室の大きさは通常の教室の半分程度。決して広いとは言えないが、2人が入るには十分なスペースがある。
部屋の中央には4人掛けのテーブルが設置されていて、その上にはかなり年季が入っているように見える天球儀が1つ。
左右の壁には、綺麗に撮影された星座や彗星のポスターが所狭しと貼られている。
元々は白かったはずの壁が、ポスターの周りだけ少し黄ばんでいるところを見るに、随分と昔からポスターが貼られているのだろう。
部室の一番奥には窓硝子があるが、今はカーテンが閉まっているため、光が入ってこなくて薄暗い。この位置なら、その窓から中庭が見えるはずだ。晴れてさえいれば、昼には暖かな日差しが室内に差し込むことだろう。
そんなことを思いながら、しばらく部室内を眺めている俺に対し、白月が声をかけてくる。
「扉はちゃんと閉めなさいよ」
「言われなくても分かってる」
俺は銀のドアノブを握ってしっかり音が鳴るまで扉を引くと、念のためにドアノブに付いている鍵をカチャリと回した。
「鍵をかけろとまでは言ってないのだけれど……。もしかして、誰かに入って来られるとまずい事でも考えているのかしら?」
白月は手に持った鞄をテーブルの上に乗せると、虫ケラを見るような目をして言葉を続ける。
「全く嫌になるわね。きっと、皇くんの脳はそれはそれは鮮やかなピンク色をしているんでしょうね」
「お前、流石に自意識過剰過ぎるぞ……。それに脳の色なんて大体がピンクだろうが」
「私は違うわ。私の脳は灰色よ。灰色の脳細胞よ」
上手いこと言ったつもりかもしれないが、全然面白くない。
「ってか、天文部員って他に何人いるんだ? 今まで天文部に入ってるっていうやつの話を一度も聞いたことがないんだが」
「それはそうでしょうね。だって、部員は今のところ私1人だけだもの」
「……うちの学校って確か、最低3名は部員がいないと部として認められないんじゃなかったか?」
俺も詳しくは知らないが、確か生徒手帳にそんなことが書いてあった気がする。
すると白月は「少しは頭を働かせろ」とでも言いたそうな目をこちらに向けて、俺の疑問に答えた。
「4月の上旬までは他に2人部員がいたのよ。けれど、5月が近づいた頃になって突然、2人とも部活を辞めてしまってね。今は私が唯一の天文部員ってわけ」
「なるほどな」
何故この時期になってその2人が部活を辞めたのか、真の理由は本人たちに聞かない限り知りようがない事であるが、恐らく、狭い空間に『天才 白月蒼子』と一緒という状況に耐えられなくなったとか、そんなところだろう。
能力にあまりにも大きな差が生じれば、ただ同じ空間にいるというだけでも息が詰まりそうになる。
別に「誰が悪い」というわけではないけれど、部活を辞めた2人も、1人残された白月も同様に哀れだと、俺は白月の話を聞いてそんなことを思った。
この高校に入学して1年が経過したが、今まで天文部に所属している生徒の話を聞いたことがなかったため、そんな部が存在していることすら知らなかった。
白月は、首を上に向けてプレートを眺める俺には一切構わず、天文部の部室の扉に手をかける。
「あ、おい。勝手に入っていいのかよ」
「部員なんだから、いいに決まってるでしょ」
「……は? 部員? 誰が?」
「私が」
何やらさらっと衝撃の事実を告げられたような気もしたが、白月はいつもと変わらぬ無関心な表情で部室の中へと入っていく。
ワンテンポ遅れて俺も天文部の部室に入る。
初めて入る天文部の部室は素直に物珍しく、俺は部室内をぐるっと見回す。
部室の大きさは通常の教室の半分程度。決して広いとは言えないが、2人が入るには十分なスペースがある。
部屋の中央には4人掛けのテーブルが設置されていて、その上にはかなり年季が入っているように見える天球儀が1つ。
左右の壁には、綺麗に撮影された星座や彗星のポスターが所狭しと貼られている。
元々は白かったはずの壁が、ポスターの周りだけ少し黄ばんでいるところを見るに、随分と昔からポスターが貼られているのだろう。
部室の一番奥には窓硝子があるが、今はカーテンが閉まっているため、光が入ってこなくて薄暗い。この位置なら、その窓から中庭が見えるはずだ。晴れてさえいれば、昼には暖かな日差しが室内に差し込むことだろう。
そんなことを思いながら、しばらく部室内を眺めている俺に対し、白月が声をかけてくる。
「扉はちゃんと閉めなさいよ」
「言われなくても分かってる」
俺は銀のドアノブを握ってしっかり音が鳴るまで扉を引くと、念のためにドアノブに付いている鍵をカチャリと回した。
「鍵をかけろとまでは言ってないのだけれど……。もしかして、誰かに入って来られるとまずい事でも考えているのかしら?」
白月は手に持った鞄をテーブルの上に乗せると、虫ケラを見るような目をして言葉を続ける。
「全く嫌になるわね。きっと、皇くんの脳はそれはそれは鮮やかなピンク色をしているんでしょうね」
「お前、流石に自意識過剰過ぎるぞ……。それに脳の色なんて大体がピンクだろうが」
「私は違うわ。私の脳は灰色よ。灰色の脳細胞よ」
上手いこと言ったつもりかもしれないが、全然面白くない。
「ってか、天文部員って他に何人いるんだ? 今まで天文部に入ってるっていうやつの話を一度も聞いたことがないんだが」
「それはそうでしょうね。だって、部員は今のところ私1人だけだもの」
「……うちの学校って確か、最低3名は部員がいないと部として認められないんじゃなかったか?」
俺も詳しくは知らないが、確か生徒手帳にそんなことが書いてあった気がする。
すると白月は「少しは頭を働かせろ」とでも言いたそうな目をこちらに向けて、俺の疑問に答えた。
「4月の上旬までは他に2人部員がいたのよ。けれど、5月が近づいた頃になって突然、2人とも部活を辞めてしまってね。今は私が唯一の天文部員ってわけ」
「なるほどな」
何故この時期になってその2人が部活を辞めたのか、真の理由は本人たちに聞かない限り知りようがない事であるが、恐らく、狭い空間に『天才 白月蒼子』と一緒という状況に耐えられなくなったとか、そんなところだろう。
能力にあまりにも大きな差が生じれば、ただ同じ空間にいるというだけでも息が詰まりそうになる。
別に「誰が悪い」というわけではないけれど、部活を辞めた2人も、1人残された白月も同様に哀れだと、俺は白月の話を聞いてそんなことを思った。
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