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辺りにバチンッと乾いた音が鳴り響く。
その音が耳から抜けるまで約5秒。
そんな、実際の時間の2倍にも3倍にも感じられるような息苦しい沈黙を断ち切ったのは、左頬を真っ赤に染めた白月だった。
「ごめんなさい……お父さん」
頬を勢いよく叩かれた白月の口から発せられたその声は、今まで一度も聞いたことのないようなとても弱々しく、細々としたものだった。
そんな衝撃的な状況を目の当たりにした俺は、ただただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
すると、少しばかり落ち着きを取り戻したらしい男性——、もとい白月の父親が門の前で立ち竦む俺に気がつき、バチリと目が合った。
「お前か!蒼子を唆したやつはッ!」
一度は治まりかけた怒りが、今度は矛先を俺に変えてやってくる。
「あっ、いや、俺は……」
混乱してなかなか思うように言葉が出てこない。
するとそんな俺を見た白月が、俺を庇うかのように口を開いた。
「お父さん! 彼は関係ない! 私が無理矢理付き合わせてしまったの!」
しかし、そんな白月の弁護が火に油を注いでしまったのか、白月の父親は再び怒鳴り声を上げた。
「黙れッ!!! 勉強も水泳もピアノも、書道も華道も水彩画も! 稽古を放棄して呑気に遊び呆けてるとは何事だ! お前は、周りの期待に応え続けなければならないというのに……! もっと自覚を持て!!」
再び、白月の父親の視線がこちらに向く。
「おいッ! そこのお前!」
「……っ!」
背中から嫌な汗が滲み出る。
「今後一切、蒼子に関わるな。蒼子はな、お前たちとは違うんだ! 天から授かった才能がいくつもあるんだ! その才能を、お前たちに関わったことで枯らすわけにはいかない! 分かったらとっとと去れ!!!」
正直、彼から発せられたその言葉の意味が俺には理解ができなかった。
それだけ、俺は動揺していたのだ。
あの白月蒼子が——
いつも自信満々で、常に余裕を保っていて、事あるごとに俺のことを楽しげに罵倒してくるあの白月蒼子が……俺の目の前で弱々しく俯いている。
理解出来なかった。
理解したくなかった。
それから俺は、逃げるかのようにその場から立ち去った。
彼女の父親から向けられた、憎悪と苛立ちと軽蔑を含んだその眼差しに耐えることができなかった。
そして何より、その場を去る直前にこちらを振り向いた白月の表情が、信じられないくらいに穏やかで、彼女が怒鳴られることにも、叩かれることにもすっかり慣れてしまっていることに気がついてしまったということが、何より辛く、そして悲しかったのだ。
俺は得体の知れない『何か』に心臓を強く締め付けられているようなそんな不快感を感じながら、ただひたすらに仄暗い夜道を走り続けた。
その音が耳から抜けるまで約5秒。
そんな、実際の時間の2倍にも3倍にも感じられるような息苦しい沈黙を断ち切ったのは、左頬を真っ赤に染めた白月だった。
「ごめんなさい……お父さん」
頬を勢いよく叩かれた白月の口から発せられたその声は、今まで一度も聞いたことのないようなとても弱々しく、細々としたものだった。
そんな衝撃的な状況を目の当たりにした俺は、ただただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
すると、少しばかり落ち着きを取り戻したらしい男性——、もとい白月の父親が門の前で立ち竦む俺に気がつき、バチリと目が合った。
「お前か!蒼子を唆したやつはッ!」
一度は治まりかけた怒りが、今度は矛先を俺に変えてやってくる。
「あっ、いや、俺は……」
混乱してなかなか思うように言葉が出てこない。
するとそんな俺を見た白月が、俺を庇うかのように口を開いた。
「お父さん! 彼は関係ない! 私が無理矢理付き合わせてしまったの!」
しかし、そんな白月の弁護が火に油を注いでしまったのか、白月の父親は再び怒鳴り声を上げた。
「黙れッ!!! 勉強も水泳もピアノも、書道も華道も水彩画も! 稽古を放棄して呑気に遊び呆けてるとは何事だ! お前は、周りの期待に応え続けなければならないというのに……! もっと自覚を持て!!」
再び、白月の父親の視線がこちらに向く。
「おいッ! そこのお前!」
「……っ!」
背中から嫌な汗が滲み出る。
「今後一切、蒼子に関わるな。蒼子はな、お前たちとは違うんだ! 天から授かった才能がいくつもあるんだ! その才能を、お前たちに関わったことで枯らすわけにはいかない! 分かったらとっとと去れ!!!」
正直、彼から発せられたその言葉の意味が俺には理解ができなかった。
それだけ、俺は動揺していたのだ。
あの白月蒼子が——
いつも自信満々で、常に余裕を保っていて、事あるごとに俺のことを楽しげに罵倒してくるあの白月蒼子が……俺の目の前で弱々しく俯いている。
理解出来なかった。
理解したくなかった。
それから俺は、逃げるかのようにその場から立ち去った。
彼女の父親から向けられた、憎悪と苛立ちと軽蔑を含んだその眼差しに耐えることができなかった。
そして何より、その場を去る直前にこちらを振り向いた白月の表情が、信じられないくらいに穏やかで、彼女が怒鳴られることにも、叩かれることにもすっかり慣れてしまっていることに気がついてしまったということが、何より辛く、そして悲しかったのだ。
俺は得体の知れない『何か』に心臓を強く締め付けられているようなそんな不快感を感じながら、ただひたすらに仄暗い夜道を走り続けた。
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