俺が白月蒼子を嫌う理由

ユウキ ヨルカ

文字の大きさ
上 下
16 / 186

15

しおりを挟む
外に出ると、空は予想通り綺麗な茜色に色づいていて、街全体に光が溶け込んでいた。

建ち並ぶ建造物が、街を走る自動車が、至る所に植えられている木や花が、多くの人々が闊歩するアスファルトが、沈みかけの陽光でしっとりと濡れているかのように輝いている。

そんな瞳に映る街の風景を眺めながら、俺は白月に尋ねる。


「おい、もう店はいいのか?」

「えぇ」

「じゃあ、どこに行くつもりなんだよ。まさか、変なところに連れて行かれるんじゃないだろうな」

「皇くんじゃあるまいし、そんなことしないわよ」

「俺もしねぇよ」

「……まぁ、とにかく付いて来なさいよ。どうせ目的地に着けば分かることなんだし」

そう言って白月は、人波に逆らいながら駅とは反対方向へ向かって進んでいく。


ショッピングモールや飲食店が建ち並ぶショッピング街を抜け、怪しげな雰囲気が漂う通りに差し掛かると、次第に人通りも少なくなった。一抹の不安を残しながらも、言われた通り白月の後ろを黙って付いていく。

するとしばらくして、俺たちは比較的新しい民家が建ち並ぶ見慣れない住宅街へと出た。

俺たち以外、外に出ている住民は見当たらない。

「こんなところに住宅街なんてあったんだな」

空が段々と薄暗くなるにつれて、あたりの民家からはポツポツと灯りが点き始める。

すぐ隣に見える民家からは子供の賑やかな笑い声が聞こえ、排気口からは今晩の夕食であろうカレーのいい匂いが漂って来る。

そんな『家族の暖かさ』が音として、匂いとして伝わってくるこの感じが、俺はとても好きだ。

しかし白月にとってはそうでもないらしく、俺の感想を無視して、ただひたすらに目的地に向かって足を進めている。


そうして、黙々と足を動かす白月の後に付いて更に歩いていくと、新しい民家が建ち並ぶような住宅街には似つかわしくないものが視界に入った。


「なぁ……あれ、もしかして鳥居か?」

「もしかしなくても鳥居よ」


俺たちの目の前には、神社でよく目にするような朱塗りの鳥居がそびえ立っていた。近寄って見てみると、鳥居に使われている柱は経年劣化して、所々朱塗りが剥がれている。

「なんでこんなところに……」

「行くわよ」

白月は特に驚くこともせず、その鳥居をくぐると、優に50段はあると思しき急な石段を慣れた足取りで登っていく。

白月に尋ねたいことは色々とあるが、今はとにかくこいつの後を付いていこう。
そう考えて、俺も同じように石段を1段、2段と登っていく。

石段の左右は鬱蒼とした木々に囲まれ、ここだけ世界から隔離されてしまっているかのような感覚に陥った。


石段を半分ほど登り終え、後ろを振り返ると、先程くぐった鳥居が一回りほど小さく見えた。

「何してるの? 早くしなさい」

白月は一度後ろを振り返って、途中で足を止めた俺にそう言うと、再び頂上へ向かって足を動かす。

俺は7段遅れて白月の後を追う。

今日1日の疲れもあったせいか、急な石段を50段ともなると流石に息が切れる。

肩で呼吸をしながら1段、また1段と石段を登っていく。


「人を見下ろすって、最高の気分ね」

一足早く石段を登り終えた白月は、頂上からこちらを見下ろしては、ニヤニヤと笑っている。

物理的に上から見下ろされるのが、こんなに腹が立つなんて知らなかった。

俺は残りの数段を勢いよく駆け上がる。


そうして最後の1段を登りきった先、俺の目の前にあったのは、数年、いや十数年の間手入れを施されていないように見える境内と朽ち果てた拝殿の姿だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

銀狐と宝石の街 〜禁忌のプロジェクトと神と術師の契約〜

百田 万夜子
ライト文芸
【ある少年と祖父は禁忌を犯した。】 その過ちのせいで世界に異変が起き、神が動き出す。過ちの代償は大きかった。 ==◆== これは、ある街のはなし。そこには、何時の時代にも 幾つもの〝変わった技〟と〝変わったモノ〟が明白に存在している。 そして、これは そこに住まう、不思議な力を持った〝アラユルモノ達〟のお話なのです。 ----- 表裏一体の世界と、特別な力を持った者たち…アラユルモノたちの物語。 人々の葛藤、出逢いと別れ、そして真実…。 この特殊な世界と、特別な力に導かれる少年達の『決意』の物語。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。 母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。 心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。 短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。 そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。 一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。 やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。 じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

【受賞】約束のクローバー ~僕が自ら歩く理由~

朱村びすりん
ライト文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞】にて《涙じんわり賞》を受賞しました! 応援してくださった全ての方に心より御礼申し上げます。 ~あらすじ~  小学五年生のコウキは、軽度の脳性麻痺によって生まれつき身体の一部が不自由である。とくに右脚の麻痺が強く、筋肉が強張ってしまう。ロフストランド杖と装具がなければ、自力で歩くことさえ困難だった。  ほとんどの知人や友人はコウキの身体について理解してくれているが、中には意地悪くするクラスメイトもいた。  町を歩けば見ず知らずの人に不思議な目で見られることもある。  それでもコウキは、日々前向きに生きていた。 「手術を受けてみない?」  ある日、母の一言がきっかけでコウキは【選択的脊髄後根遮断術(SDR)】という手術の存在を知る。  病院で詳しい話を聞くと、その手術は想像以上に大がかりで、入院が二カ月以上も必要とのこと。   しかし術後のリハビリをこなしていけば、今よりも歩行が安定する可能性があるのだという。  十歳である今でも、大人の付き添いがなければ基本的に外を出歩けないコウキは、ひとつの希望として手術を受けることにした。  保育園の時から付き合いがある幼なじみのユナにその話をすると、彼女はあるものをコウキに手渡す。それは、ひとつ葉のクローバーを手に持ちながら、力強く二本脚で立つ猫のキーホルダーだった。  ひとつ葉のクローバーの花言葉は『困難に打ち勝つ』。  コウキの手術が成功するよう、願いが込められたお守りである。  コウキとユナは、いつか自由気ままに二人で町の中を散歩しようと約束を交わしたのだった。  果たしてコウキは、自らの脚で不自由なく歩くことができるのだろうか──  かけがえのない友との出会い、親子の絆、少年少女の成長を描いた、ヒューマンストーリー。 ※この物語は実話を基にしたフィクションです。  登場する一部の人物や施設は実在するものをモデルにしていますが、設定や名称等ストーリーの大部分を脚色しています。  また、物語上で行われる手術「選択的脊髄後根遮断術(SDR)」を受ける推奨年齢は平均五歳前後とされております。医師の意見や見解、該当者の年齢、障害の重さや特徴等によって、検査やリハビリ治療の内容に個人差があります。  物語に登場する主人公の私生活等は、全ての脳性麻痺の方に当てはまるわけではありませんのでご理解ください。 ◆2023年8月16日完結しました。 ・素敵な表紙絵をちゅるぎ様に描いていただきました!

パパLOVE

卯月青澄
ライト文芸
高校1年生の西島香澄。 小学2年生の時に両親が突然離婚し、父は姿を消してしまった。 香澄は母を少しでも楽をさせてあげたくて部活はせずにバイトをして家計を助けていた。 香澄はパパが大好きでずっと会いたかった。 パパがいなくなってからずっとパパを探していた。 9年間ずっとパパを探していた。 そんな香澄の前に、突然現れる父親。 そして香澄の生活は一変する。 全ての謎が解けた時…きっとあなたは涙する。 ☆わたしの作品に目を留めてくださり、誠にありがとうございます。 この作品は登場人物それぞれがみんな主役で全てが繋がることにより話が完成すると思っています。 最後まで読んで頂けたなら、この言葉の意味をわかってもらえるんじゃないかと感じております。 1ページ目から読んで頂く楽しみ方があるのはもちろんですが、私的には「三枝快斗」篇から読んでもらえると、また違った楽しみ方が出来ると思います。 よろしければ最後までお付き合い頂けたら幸いです。

猫にまつわる三択人生の末路

ねこ沢ふたよ
ライト文芸
街で黒猫を見かけた・・・さてどうする? そこから始まる三択で行方が変わります。 超簡単なゲームブックです。  基本コメディで楽しく遊べる内容を目指しています。

処理中です...