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駅から歩くこと約10分。
白月の後ろについてやってきたのは、街でも比較的大きいショッピングモール『PIRCO』。
アパレルショップ、書店、雑貨屋、カフェ、映画館……
大抵のことはここに来ることで全て解決するため、老若男女問わず多くの人々がこぞって利用する。
ついでに言えば、今日はゴールデンウィーク最終日。
普段の3割り増しで人が多い。
白月は正面ゲートを通ると、迷いのない足取りでエスカレーターに乗る。
「何か買うのか?」
「ちょっと夏物の洋服を見ておきたいと思って」
「女性服売り場って確か6階だろ? エレベーターで行った方が断然早いと思うんだが」
エレベーターが来るまで多少は待つことになるとは言っても、消費カロリーはあちらの方が抑えられる。
効率厨の俺からすれば、エレベーターで上がる方が楽で良かったのだが。
そんなことを考えながら尋ねると、白月はこちらに顔も向けずに口を開く。
「嫌よ。あなたと密室に2人なんて酸欠で死んでしまうわ」
「あっそ……」
これだけの利用客がいて、エレベーターに俺たちだけなんでことはなかなかあり得ることではないし、そもそも俺と一緒に乗ったからといって酸欠になどなるわけがないのだが、いちいち反論するのも疲れるのでやめることにした。
そうしてエスカレーターに5回乗り換え6階に到着するや否や、白月はすぐ近くにある女性服専門店に向かってスタスタと足を進める。
「いらっしゃいませぇ~」
明るい髪色をした女性店員の甘ったるい挨拶を無視して白月は店内に入る。
「なぁ」
「何よ」
「俺、別のところ見てきていいか? こういうところ正直苦手なんだよ」
別にここが女性服専用の店だからというわけではなく、俺は普通にアパレルショップが苦手なのだ。
さっき白月が「皇くんのファッションセンスはお粗末だ」などと言っていたが、実はあながち間違いでもなかった。
自分の服は自分で買うようにはしているが、こう言った場所は極力訪れたくない場所だ。
頼んでもいないのに服選びを手伝おうとしてくるし、これが似合うあれが似合うと自分の価値観を押し付けてくる。
善意でやっていることとは理解しているが、どうしてもあの接客には慣れることができない。
「何言ってるの、ダメに決まってるでしょ。何のために今日あなたを呼んだと思ってるのよ」
「え、逆に何のために俺を呼んだの?」
「服選び、荷物持ち、機嫌取り、それとパシリ」
「おい、ふざけんな。俺はお前の家来でも召使いでも奴隷でもねぇぞ」
こいつ、人を何だと思ってるんだ。
天才ってのは、そんなに偉いのか?才能に恵まれただけのラッキーガールのくせに。
「失礼ね、そんなこと思ってないわよ。あなたのことは、そこら中にいる凡人の1人としか思ってないわ」
「その『凡人』っていうの、いい加減やめてくれないか? 否定するつもりはないが、お前みたいなやつに言われると腹が立つ」
「凡人に凡人って言って何が悪いのよ。あなたたちが私を『天才』って呼ぶのと同じことでしょ?分かったなら大人しくここで私の服選びを手伝いなさい」
そう言って白月は、店内にある服を手に取り物色し始めた。
言い返す隙さえ与えない白月は、さながら機関銃備え付きの城塞といったところか。
こんなやつに勝とうとしているなんて、俺もなかなかの馬鹿野郎だ。
白月の後ろについてやってきたのは、街でも比較的大きいショッピングモール『PIRCO』。
アパレルショップ、書店、雑貨屋、カフェ、映画館……
大抵のことはここに来ることで全て解決するため、老若男女問わず多くの人々がこぞって利用する。
ついでに言えば、今日はゴールデンウィーク最終日。
普段の3割り増しで人が多い。
白月は正面ゲートを通ると、迷いのない足取りでエスカレーターに乗る。
「何か買うのか?」
「ちょっと夏物の洋服を見ておきたいと思って」
「女性服売り場って確か6階だろ? エレベーターで行った方が断然早いと思うんだが」
エレベーターが来るまで多少は待つことになるとは言っても、消費カロリーはあちらの方が抑えられる。
効率厨の俺からすれば、エレベーターで上がる方が楽で良かったのだが。
そんなことを考えながら尋ねると、白月はこちらに顔も向けずに口を開く。
「嫌よ。あなたと密室に2人なんて酸欠で死んでしまうわ」
「あっそ……」
これだけの利用客がいて、エレベーターに俺たちだけなんでことはなかなかあり得ることではないし、そもそも俺と一緒に乗ったからといって酸欠になどなるわけがないのだが、いちいち反論するのも疲れるのでやめることにした。
そうしてエスカレーターに5回乗り換え6階に到着するや否や、白月はすぐ近くにある女性服専門店に向かってスタスタと足を進める。
「いらっしゃいませぇ~」
明るい髪色をした女性店員の甘ったるい挨拶を無視して白月は店内に入る。
「なぁ」
「何よ」
「俺、別のところ見てきていいか? こういうところ正直苦手なんだよ」
別にここが女性服専用の店だからというわけではなく、俺は普通にアパレルショップが苦手なのだ。
さっき白月が「皇くんのファッションセンスはお粗末だ」などと言っていたが、実はあながち間違いでもなかった。
自分の服は自分で買うようにはしているが、こう言った場所は極力訪れたくない場所だ。
頼んでもいないのに服選びを手伝おうとしてくるし、これが似合うあれが似合うと自分の価値観を押し付けてくる。
善意でやっていることとは理解しているが、どうしてもあの接客には慣れることができない。
「何言ってるの、ダメに決まってるでしょ。何のために今日あなたを呼んだと思ってるのよ」
「え、逆に何のために俺を呼んだの?」
「服選び、荷物持ち、機嫌取り、それとパシリ」
「おい、ふざけんな。俺はお前の家来でも召使いでも奴隷でもねぇぞ」
こいつ、人を何だと思ってるんだ。
天才ってのは、そんなに偉いのか?才能に恵まれただけのラッキーガールのくせに。
「失礼ね、そんなこと思ってないわよ。あなたのことは、そこら中にいる凡人の1人としか思ってないわ」
「その『凡人』っていうの、いい加減やめてくれないか? 否定するつもりはないが、お前みたいなやつに言われると腹が立つ」
「凡人に凡人って言って何が悪いのよ。あなたたちが私を『天才』って呼ぶのと同じことでしょ?分かったなら大人しくここで私の服選びを手伝いなさい」
そう言って白月は、店内にある服を手に取り物色し始めた。
言い返す隙さえ与えない白月は、さながら機関銃備え付きの城塞といったところか。
こんなやつに勝とうとしているなんて、俺もなかなかの馬鹿野郎だ。
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