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時は戻って、現在の日付は5月6日 日曜日。時刻は7時45分を過ぎたところ。
春らしい暖かな陽気が街に溢れ、街ゆく人皆が輝く花のようにも見える。
すれ違う子供たちの軽い足取りからは、連休の最終日を存分に楽しもうという意志が感じられる。
本来であれば、今日1日も勉強に時間を当てたいところだったのだが、あんな風に脅されてしまっては仕方がない。
あいつなら冗談ではなく本当にやりかねない。
無理やり出兵させられるとか徴兵令かよ。
そんなことを考えているから、足取りが重くなるのは当然。
鉛のような足を引きずりながら、待ち合わせ場所に指定された駅に向かう。
そもそも「街へ出掛ける」とは言われたものの具体的な説明は何一つ受けていない。
どこを訪れるつもりなのか、何の目的があってゴールデンウィーク最終日に俺なんかを連れ回すのか、いくら考えてもさっぱり理解ができない。
これで「待ち合わせ場所に行ってみたら、屈強な黒服の男性が待ってました」なんてことになれば、いよいよあいつは生かしておけない。
俺の精神安定のためにも消えて貰うしかなくなる。
疑心暗鬼になりながらも足は着実に一歩一歩前へ向かって進み、3分ほどで待ち合わせ場所に指定された駅の前まで来た。
すると、駅の正面。
直径3mほどの小さな噴水の前に、見知らぬ少女が佇んでいるのが見える。
スカートが膝より少し上まである上品なネイビーのワンピースに黒のチャンキーヒール。
首からは高価そうなシルバーのネックレスを下げ、白のハンドバッグを持った手を体の前で静かに留めている。
どこかの令嬢かなんかだろうか。随分と麗しい女性もいたものだ。
どこかの誰かさんも、黙ってさえいればただの憎たらしい天才というだけで、見た目は悪くはないんだが。
そんなことを思いながら辺りを見回し、俺をこの場に呼び出した張本人である白月の姿を探す。
けれど、辺りを見回してもそれらしき人物は見当たらない。
視界に映るのは、鳩に餌やりをする爺さんとベビーカーに赤ん坊を乗せて散歩している母親、それと噴水前に佇んでいるどこかの令嬢。
待ち合わせ場所は確かにここで合っているはず。時間だって間違っていないはずだ。
「人に『遅刻するな』とか言っておいて自分が遅刻かよ……」
俺は呆れるように嘆息して小さく呟く。
「さっきから何キョロキョロしてるのよ。本格的に不審者を目指す気にでもなったのかしら」
その聞き慣れた声にギョッとした俺は噴水の方を振り返る。
そこには、先ほどから誰かを待っているかのようにジッと佇んでいた令嬢—— もとい、白月蒼子の姿があった。
「いるんならもっと早く声かけろよ」
「気づかないあなたが悪いんでしょう?」
「いや、まさかそんな格好で来るとは思ってなかったもんでな」
「どんな格好で来ると思っていたのよ」
「え、ジャージとか」
「凡人の……というか、皇くんのファッションセンスがどれだけお粗末なものなのかよく理解できたわ。きっと自分の洋服もお母様に選んでもらっているんでしょうね」
軽い冗談のつもりだったのだが、どうやら買わなくてもいい怒りを買ってしまったらしい。
すごくいい笑顔をしている。
「とりあえずこの私を長時間待たせた罰として、皇くんには今日1日私の犬になってもらうわ」
「おい待て。待ち合わせの時間には間に合っただろ」
「だから何よ。待ったのは事実なんだからつべこべ言わずに言うこと聞きなさい」
「大した時間待たせてねぇだろ……」
「待ったわ。3時間も待ったわ」
「見え透いた嘘をつくな」
表情一つ変えずに淡々と嘘を吐きやがる。
「と、まぁ皇くんとのつまらないお喋りはこの辺にして、そろそろ行きましょうか」
「行くってどこへ?」
「は?ショッピングモールに決まってるじゃない」
そう言って白月はゴミを見るような目をこちらに向けて、スタスタとショッピングモールに向かって歩き出した。
春らしい暖かな陽気が街に溢れ、街ゆく人皆が輝く花のようにも見える。
すれ違う子供たちの軽い足取りからは、連休の最終日を存分に楽しもうという意志が感じられる。
本来であれば、今日1日も勉強に時間を当てたいところだったのだが、あんな風に脅されてしまっては仕方がない。
あいつなら冗談ではなく本当にやりかねない。
無理やり出兵させられるとか徴兵令かよ。
そんなことを考えているから、足取りが重くなるのは当然。
鉛のような足を引きずりながら、待ち合わせ場所に指定された駅に向かう。
そもそも「街へ出掛ける」とは言われたものの具体的な説明は何一つ受けていない。
どこを訪れるつもりなのか、何の目的があってゴールデンウィーク最終日に俺なんかを連れ回すのか、いくら考えてもさっぱり理解ができない。
これで「待ち合わせ場所に行ってみたら、屈強な黒服の男性が待ってました」なんてことになれば、いよいよあいつは生かしておけない。
俺の精神安定のためにも消えて貰うしかなくなる。
疑心暗鬼になりながらも足は着実に一歩一歩前へ向かって進み、3分ほどで待ち合わせ場所に指定された駅の前まで来た。
すると、駅の正面。
直径3mほどの小さな噴水の前に、見知らぬ少女が佇んでいるのが見える。
スカートが膝より少し上まである上品なネイビーのワンピースに黒のチャンキーヒール。
首からは高価そうなシルバーのネックレスを下げ、白のハンドバッグを持った手を体の前で静かに留めている。
どこかの令嬢かなんかだろうか。随分と麗しい女性もいたものだ。
どこかの誰かさんも、黙ってさえいればただの憎たらしい天才というだけで、見た目は悪くはないんだが。
そんなことを思いながら辺りを見回し、俺をこの場に呼び出した張本人である白月の姿を探す。
けれど、辺りを見回してもそれらしき人物は見当たらない。
視界に映るのは、鳩に餌やりをする爺さんとベビーカーに赤ん坊を乗せて散歩している母親、それと噴水前に佇んでいるどこかの令嬢。
待ち合わせ場所は確かにここで合っているはず。時間だって間違っていないはずだ。
「人に『遅刻するな』とか言っておいて自分が遅刻かよ……」
俺は呆れるように嘆息して小さく呟く。
「さっきから何キョロキョロしてるのよ。本格的に不審者を目指す気にでもなったのかしら」
その聞き慣れた声にギョッとした俺は噴水の方を振り返る。
そこには、先ほどから誰かを待っているかのようにジッと佇んでいた令嬢—— もとい、白月蒼子の姿があった。
「いるんならもっと早く声かけろよ」
「気づかないあなたが悪いんでしょう?」
「いや、まさかそんな格好で来るとは思ってなかったもんでな」
「どんな格好で来ると思っていたのよ」
「え、ジャージとか」
「凡人の……というか、皇くんのファッションセンスがどれだけお粗末なものなのかよく理解できたわ。きっと自分の洋服もお母様に選んでもらっているんでしょうね」
軽い冗談のつもりだったのだが、どうやら買わなくてもいい怒りを買ってしまったらしい。
すごくいい笑顔をしている。
「とりあえずこの私を長時間待たせた罰として、皇くんには今日1日私の犬になってもらうわ」
「おい待て。待ち合わせの時間には間に合っただろ」
「だから何よ。待ったのは事実なんだからつべこべ言わずに言うこと聞きなさい」
「大した時間待たせてねぇだろ……」
「待ったわ。3時間も待ったわ」
「見え透いた嘘をつくな」
表情一つ変えずに淡々と嘘を吐きやがる。
「と、まぁ皇くんとのつまらないお喋りはこの辺にして、そろそろ行きましょうか」
「行くってどこへ?」
「は?ショッピングモールに決まってるじゃない」
そう言って白月はゴミを見るような目をこちらに向けて、スタスタとショッピングモールに向かって歩き出した。
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