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第61話「夏休みについて(27)」
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駅を出て、まず初めに目に飛び込んできたのは、奥の建物が視認できないほどに立ち並ぶビルの群れだった。
俺は珍しいもの見たさで、辺りをキョロキョロと見回す。
周りの人から見れば、それは一発で俺が田舎出身だと分かってしまう行動だった。
ほたる市では決して見ることのできない都会の風景。
立ち並ぶビルやショッピングモール、マンションなどもそうだが、何よりその風景が当たり前という様子で街を歩く都会の人々が格好良く、そして羨ましく見えた。
こんな街に住んでいる人々は、きっと退屈という言葉からかけ離れた生活を送っているのだろう。
もちろん、ほたる市にはほたる市でいいところが沢山ある。
景色は綺麗だし、食べ物も美味い。
街の人はみんな親切で温かく、とても暮らしやすい。
正直、ほたる市にいても俺は特に退屈を感じることはない。
まぁ、それは自分が生まれ育った街だから、というのもあるだろうが。
しかし物量的な面で見ると、やはりほたる市とは比べものにならないほどの娯楽施設がここには存在する。
そういった点を踏まえて街を見てみると、やはりこの街に住む人を少し羨ましく思ってしまう。
それにしても、ここまで景色が違うと、空に浮かぶ雲や太陽すらも全く別のもののように感じる。
気温は若干こちらの方がほたる市よりも低い気がするが、それでもまだ暑い。
季節は8月中旬。
夏はまだまだ始まったばかりだ。
もう暫くはこの暑さとも、仲良く付き合っていかなければならない。
俺はそんなことを考えながら、都会の街並みや歩く人々を照らす燦々とした太陽を見上げると、駅を出たところにあるバス停に向かって歩き出した。
そしてバス停に着き、設置されている時刻表を確認すると、次のバスが来るまであと3分というところだった。
バスの回転率も、田舎と違ってやはり早い。
白いワイシャツに黒いスラックス姿のサラリーマンや、夏休みなのに何故か白ワイシャツの上に色とりどりのカーディガンを着た女子高生グループの後ろに並び、バスを待つ。
女子高生グループの楽しげな話し声や、いくつもの店舗が入った大型ショッピングセンターの外壁に設置されている、巨大なモニターから流れる化粧品のCMなどに耳を傾けていると、バス停にバスがやってきた。
バスはきっちり時間通りにバス停に到着し、ドアが開くなり、車内からぞろぞろと人が降りて来る。
乗客がバスを降り終えると、今度は並んでいる列がどんどんと車内に吸い込まれていく。
そうして俺も冷房の効いた車内に乗り込み、窓側の1人席に腰をかける。
乗客を全て乗せると、バスはドアを閉め、エンジン音を響かせながら次のバス停へ向かって走り出した。
***
俺がこれから向かう凪波大学は、駅から少し離れた所にある。
凪波大学の前にはバス停があるそうなので、そこまでバスで移動した方がいいと真柳教授にアドバイスを貰ったため、俺はこうしてバスに乗り込んだというわけだ。
大学のある『凪波大学前』まで、駅から5つバス停を跨ぐことになる。
その間、俺はバスの窓から通り過ぎていく都会の街並みを眺め、終始目を輝かせていた。
別に都会の街並みを初めて目にしたというわけではない。
中学の修学旅行や家族旅行で、何度か都会には遊びに来ている。
しかし、一度都会からほたる市に帰ると、「もしかすると、あれは全て夢だったのでは?」という感覚に陥り、再び都会を訪れた時も一度目と同じ感想を持つようになってしまうのだ。
これはこれで飽きることはないし、いいことだと思う。
もし、俺がこの街に住んでいれば、この新鮮な気持ちを失ってしまうかもしれない。
そう考えるとやはり、都会はたまに訪れてこそなのだと思い知らされる。
そんなことを考えているうちにバスは次々とバス停に停車していき、気がつけば凪波大学前まで来ていた。
バスは凪波大学前のバス停に停車し、ガコンとドアを開け、俺は席から立ち上がると運賃を払ってバスを降りた。
凪波大学前で下車したのは俺だけだったらしく、俺が降りるとバスはドアを閉めて、再び次のバス停へ向かって走っていった。
走り去っていくバスを見送り、視線を正面に向けると、目の前には赤いレンガ造りの大きな建物がそびえ立っていた。
その姿はまるで西洋の城のようで、上品さと迫力を合わせ持つ風格を感じられた。
「これが大学か…………高校とはえらい違いだな」
あまりの迫力に俺は思わず言葉を洩らした。
大学の正門と思しきところには、カジュアルな服装を纏った大学生が多く見受けられる。
大学も今は夏休み中らしく、おそらくはサークル活動などで大学へ来ているのだろう。
俺はバス停から正門の方へ向かって歩き出す。
そして、楽しそうに談笑する大学生たちの横を通って俺は大学の敷地内に足を踏み入れた。
高校1年生で大学の敷地内に入ったことのある者はそうそういないだろう。
オープンキャンパスも高校2年次から行われるのがほとんどだ。
そのため、周りより一足先に大学に足を踏み入れたということが、なんだがとても特別な事のような気がして、少し心が踊ってしまった。
大学の敷地内ではいくつものサークルが活動を行なっていて、真剣に、そして笑顔で楽しそうに取り組んでいる大学生の姿は、とても華やかに見える。
俺はそんな彼らを横目で見ながら、青い葉をつけた桜並木を通って構内へと入っていった。
そして大学構内に入るなり、またもや俺は驚かされた。
外観もそうだが、内装もとても洒落ていて、高級ホテルのフロントを思わせた。
まぁ、高級ホテルにも入ったことはないため、あくまで想像上のものなのだが。
また、構内は外に比べて涼しく、首元に滲んだ汗がスゥッと引いていくのを感じた。
そうして俺は、モダンな雰囲気を醸し出す構内を見回しながら歩き、警備員が常駐する受付で要件を話す。
30代前後の警備員に「真柳教授の誘いで、講義を見学しに来た」と伝えると、警備員はどこかへ電話をかけて確認を済ませたのち、通行証を俺に渡してそれを首からかけるように指示した。
俺は言われた通り、手渡された通行証を首から下げる。
「では、あとは好きに周ってもらって結構ですので。お帰りの際に、その通行証をこちらに返していただきますよう、お願いします」
俺が通行証を付けたのを確認した警備員はそう言って、こちらに笑顔を向けた。
「分かりました。ありがとうございます」
俺は警備員に一言礼を言って、真柳教授の研究室へと足を進めた——。
俺は珍しいもの見たさで、辺りをキョロキョロと見回す。
周りの人から見れば、それは一発で俺が田舎出身だと分かってしまう行動だった。
ほたる市では決して見ることのできない都会の風景。
立ち並ぶビルやショッピングモール、マンションなどもそうだが、何よりその風景が当たり前という様子で街を歩く都会の人々が格好良く、そして羨ましく見えた。
こんな街に住んでいる人々は、きっと退屈という言葉からかけ離れた生活を送っているのだろう。
もちろん、ほたる市にはほたる市でいいところが沢山ある。
景色は綺麗だし、食べ物も美味い。
街の人はみんな親切で温かく、とても暮らしやすい。
正直、ほたる市にいても俺は特に退屈を感じることはない。
まぁ、それは自分が生まれ育った街だから、というのもあるだろうが。
しかし物量的な面で見ると、やはりほたる市とは比べものにならないほどの娯楽施設がここには存在する。
そういった点を踏まえて街を見てみると、やはりこの街に住む人を少し羨ましく思ってしまう。
それにしても、ここまで景色が違うと、空に浮かぶ雲や太陽すらも全く別のもののように感じる。
気温は若干こちらの方がほたる市よりも低い気がするが、それでもまだ暑い。
季節は8月中旬。
夏はまだまだ始まったばかりだ。
もう暫くはこの暑さとも、仲良く付き合っていかなければならない。
俺はそんなことを考えながら、都会の街並みや歩く人々を照らす燦々とした太陽を見上げると、駅を出たところにあるバス停に向かって歩き出した。
そしてバス停に着き、設置されている時刻表を確認すると、次のバスが来るまであと3分というところだった。
バスの回転率も、田舎と違ってやはり早い。
白いワイシャツに黒いスラックス姿のサラリーマンや、夏休みなのに何故か白ワイシャツの上に色とりどりのカーディガンを着た女子高生グループの後ろに並び、バスを待つ。
女子高生グループの楽しげな話し声や、いくつもの店舗が入った大型ショッピングセンターの外壁に設置されている、巨大なモニターから流れる化粧品のCMなどに耳を傾けていると、バス停にバスがやってきた。
バスはきっちり時間通りにバス停に到着し、ドアが開くなり、車内からぞろぞろと人が降りて来る。
乗客がバスを降り終えると、今度は並んでいる列がどんどんと車内に吸い込まれていく。
そうして俺も冷房の効いた車内に乗り込み、窓側の1人席に腰をかける。
乗客を全て乗せると、バスはドアを閉め、エンジン音を響かせながら次のバス停へ向かって走り出した。
***
俺がこれから向かう凪波大学は、駅から少し離れた所にある。
凪波大学の前にはバス停があるそうなので、そこまでバスで移動した方がいいと真柳教授にアドバイスを貰ったため、俺はこうしてバスに乗り込んだというわけだ。
大学のある『凪波大学前』まで、駅から5つバス停を跨ぐことになる。
その間、俺はバスの窓から通り過ぎていく都会の街並みを眺め、終始目を輝かせていた。
別に都会の街並みを初めて目にしたというわけではない。
中学の修学旅行や家族旅行で、何度か都会には遊びに来ている。
しかし、一度都会からほたる市に帰ると、「もしかすると、あれは全て夢だったのでは?」という感覚に陥り、再び都会を訪れた時も一度目と同じ感想を持つようになってしまうのだ。
これはこれで飽きることはないし、いいことだと思う。
もし、俺がこの街に住んでいれば、この新鮮な気持ちを失ってしまうかもしれない。
そう考えるとやはり、都会はたまに訪れてこそなのだと思い知らされる。
そんなことを考えているうちにバスは次々とバス停に停車していき、気がつけば凪波大学前まで来ていた。
バスは凪波大学前のバス停に停車し、ガコンとドアを開け、俺は席から立ち上がると運賃を払ってバスを降りた。
凪波大学前で下車したのは俺だけだったらしく、俺が降りるとバスはドアを閉めて、再び次のバス停へ向かって走っていった。
走り去っていくバスを見送り、視線を正面に向けると、目の前には赤いレンガ造りの大きな建物がそびえ立っていた。
その姿はまるで西洋の城のようで、上品さと迫力を合わせ持つ風格を感じられた。
「これが大学か…………高校とはえらい違いだな」
あまりの迫力に俺は思わず言葉を洩らした。
大学の正門と思しきところには、カジュアルな服装を纏った大学生が多く見受けられる。
大学も今は夏休み中らしく、おそらくはサークル活動などで大学へ来ているのだろう。
俺はバス停から正門の方へ向かって歩き出す。
そして、楽しそうに談笑する大学生たちの横を通って俺は大学の敷地内に足を踏み入れた。
高校1年生で大学の敷地内に入ったことのある者はそうそういないだろう。
オープンキャンパスも高校2年次から行われるのがほとんどだ。
そのため、周りより一足先に大学に足を踏み入れたということが、なんだがとても特別な事のような気がして、少し心が踊ってしまった。
大学の敷地内ではいくつものサークルが活動を行なっていて、真剣に、そして笑顔で楽しそうに取り組んでいる大学生の姿は、とても華やかに見える。
俺はそんな彼らを横目で見ながら、青い葉をつけた桜並木を通って構内へと入っていった。
そして大学構内に入るなり、またもや俺は驚かされた。
外観もそうだが、内装もとても洒落ていて、高級ホテルのフロントを思わせた。
まぁ、高級ホテルにも入ったことはないため、あくまで想像上のものなのだが。
また、構内は外に比べて涼しく、首元に滲んだ汗がスゥッと引いていくのを感じた。
そうして俺は、モダンな雰囲気を醸し出す構内を見回しながら歩き、警備員が常駐する受付で要件を話す。
30代前後の警備員に「真柳教授の誘いで、講義を見学しに来た」と伝えると、警備員はどこかへ電話をかけて確認を済ませたのち、通行証を俺に渡してそれを首からかけるように指示した。
俺は言われた通り、手渡された通行証を首から下げる。
「では、あとは好きに周ってもらって結構ですので。お帰りの際に、その通行証をこちらに返していただきますよう、お願いします」
俺が通行証を付けたのを確認した警備員はそう言って、こちらに笑顔を向けた。
「分かりました。ありがとうございます」
俺は警備員に一言礼を言って、真柳教授の研究室へと足を進めた——。
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