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第27話「陸上大会について(2)」
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陸上大会当日1日目——。
天気は快晴。
空には雲ひとつない爽やかな青空が広がっていて、燦々と輝く太陽の光が俺の視界を遮る。
正午には27度まで気温が上がるらしく、今日1日は暑さとの戦いになりそうだ。
ほたる駅の休憩所の椅子に腰掛けた俺は、左腕につけた腕時計を確認する。
時刻はもうすぐ8時20分。
秀一と朝霧はもう会場に着いて準備を始めている頃だろう。
俺は昨日秀一から手渡された大会のスケジュール表を確認する。
9時から開会式が始まり、それが終わると競技がスタートする。
秀一が出場する男子100Mは10時半から。
朝霧が出場する女子100Mは昼休憩を挟んで14時からだ。
俺は再度腕時計を確認する。
うん、余裕で間に合いそうだ。
そんなことを考えていると、綺麗なよく通る声で名前を呼ばれた。
「羽島君、おはよう。待たせてしまったかしら?」
俺は腕時計から声の主の方に視線を移す。
そこには白いブラウスに水色のギンガムチェックのロングスカートを纏った榊原の姿があった。
ファッションに疎い俺は、榊原の服装を上手く表現することができない。
だから、『夏っぽい』という陳腐な表現しか思い浮かばなかった。
「おはよう、榊原。俺もついさっき着いたところだ。そろそろ電車も発車する頃だし改札通るか」
榊原は「そうね」と頷き、俺たちは改札を通って電車に乗車した。
車内は土曜日ということで通勤・通学者が少なく比較的空いており、俺たちは入口のすぐ横にある2人掛けのボックス席に座ることができた。
席に座るなり、榊原が尋ねてきた。
「羽島君は今から向かう運動競技場に何度か足を運んでいるの?」
「あぁ。中学の時はその運動競技場で何度か試合があったからな。それに中学時代から、よく秀一に誘われて応援にも行ってたし」
榊原はうんうんと頷くと、「羽島君と榎本君は中学生の頃から本当に仲が良かったのね」と言って微笑んだ。
そんなことを話しているうちに時計の長針は6を指し、電車はアナウンスと共にゆっくりと動き出した。
***
乗車してから20分ほど電車に揺られていると、車内にアナウンスが響き渡った。
「次は 蝶谷駅、蝶谷駅です」
アナウンスを聞いた俺たちは席を立つ。
それまで勢いよく走っていた電車は駅が近づくにつれて速度をゆっくり落とし始めた。
そして目的の蝶谷駅に着くと電車は完全に停車し、慣性の法則により立っていた俺たちは少しバランスを崩す。
俺は近くにあった手すりに捕まったため倒れずに済んだが、隣の榊原はバランスを崩して俺の方に倒れかかってきた。
「あっ……」
小さく声をあげてよろめく榊原を守ろうと反射的に榊原の方に体が向く。
すると、榊原の小さな体が俺の胸の中にすっぽりと収まった。
「おっと……」
榊原を支えることには成功したが、この状態は端から見れば抱き合っているようにしか見えない。
榊原の小さく華奢な身体と俺の身体が密着してしまっている。
榊原の膨らみのある胸が身体に押し付けられ、柔らかく包まれるような感覚に陥った。
吐息が届きそうなほど近い榊原との距離。
触れ合っている胸を通して榊原の鼓動が直に伝わってくるように感じた。
今までこれほど榊原を近くに感じたことはない。
榊原の艶やかな長い髪が頬に触れて少しくすぐったい。
そして、なんだかいい香りがする。
これは、桜の香りだろうか……
甘くて優しい香りが胸いっぱいに広がる。
それと同時に自分の体温が上昇していくのがわかる。
心臓は激しく脈打ち、汗腺から汗が滲み出る。
感情のダムが決壊しそうになったところで俺は我に返る。
「あっ……!わ、悪い!」
慌てて榊原から体を離す。
おそらく電車が止まってから2秒と経っていないだろう。
しかし、俺にはそれがとても長い時間に感じた。
顔が熱い。沸騰しそうだ。
俺はズボンで手汗を拭きながら榊原に目をやる。
榊原は黙ったまま俯いている。
長い髪で榊原の顔は隠れ表情は見えないが、唯一見えた耳が真っ赤に染まっている。
榊原の真っ赤に染まった耳を凝視していると、入口の扉が開いた。
「さ、榊原、降りようか……」
「そ、そうね……」
電車から降りた俺たちは無言を貫いた。
なんだかとてつもなく恥ずかしいことをしてしまったようで、榊原の顔を見ることができない。
まだ心臓が煩く脈を打っている。
もし、この鼓動が榊原に聞かれてしまっていたら……
俺は乾いた喉で唾を飲み込む。
不慮の事故とはいえ、榊原にも恥ずかしい思いをさせてしまった。
俺が榊原になんと言って謝罪するかを考えていると、榊原が最初に口を開いた。
「は……羽島君、あの……支えてくれて、あ、ありがとう……それと、ごめんなさい……」
榊原は今にも消え入りそうな声で言う。
「い、いや!俺の方こそ……!」
動揺を隠せない俺は声のボリュームを調整できず、大声になってしまった。
それから再び、俺たちの間には沈黙が続く。
この気まずい空気をなんとか跳ね除けなくては……
俺は息を深く吸って吐くと、思い切って声をかける。
「そ、それじゃあ……行くか」
「え、えぇ……そうしましょうか」
こうして、俺たちは運動競技場へ向かって歩き出した。
俺の頭の中は榊原のことでいっぱいで、秀一のことなどすっかり抜け落ちてしまっていた。
未だに榊原の胸の感触や髪の香りが頭から離れない。
俺は頭を激しく左右に振ると、気持ちを切り替え、前へ前へと足を踏み出した——。
天気は快晴。
空には雲ひとつない爽やかな青空が広がっていて、燦々と輝く太陽の光が俺の視界を遮る。
正午には27度まで気温が上がるらしく、今日1日は暑さとの戦いになりそうだ。
ほたる駅の休憩所の椅子に腰掛けた俺は、左腕につけた腕時計を確認する。
時刻はもうすぐ8時20分。
秀一と朝霧はもう会場に着いて準備を始めている頃だろう。
俺は昨日秀一から手渡された大会のスケジュール表を確認する。
9時から開会式が始まり、それが終わると競技がスタートする。
秀一が出場する男子100Mは10時半から。
朝霧が出場する女子100Mは昼休憩を挟んで14時からだ。
俺は再度腕時計を確認する。
うん、余裕で間に合いそうだ。
そんなことを考えていると、綺麗なよく通る声で名前を呼ばれた。
「羽島君、おはよう。待たせてしまったかしら?」
俺は腕時計から声の主の方に視線を移す。
そこには白いブラウスに水色のギンガムチェックのロングスカートを纏った榊原の姿があった。
ファッションに疎い俺は、榊原の服装を上手く表現することができない。
だから、『夏っぽい』という陳腐な表現しか思い浮かばなかった。
「おはよう、榊原。俺もついさっき着いたところだ。そろそろ電車も発車する頃だし改札通るか」
榊原は「そうね」と頷き、俺たちは改札を通って電車に乗車した。
車内は土曜日ということで通勤・通学者が少なく比較的空いており、俺たちは入口のすぐ横にある2人掛けのボックス席に座ることができた。
席に座るなり、榊原が尋ねてきた。
「羽島君は今から向かう運動競技場に何度か足を運んでいるの?」
「あぁ。中学の時はその運動競技場で何度か試合があったからな。それに中学時代から、よく秀一に誘われて応援にも行ってたし」
榊原はうんうんと頷くと、「羽島君と榎本君は中学生の頃から本当に仲が良かったのね」と言って微笑んだ。
そんなことを話しているうちに時計の長針は6を指し、電車はアナウンスと共にゆっくりと動き出した。
***
乗車してから20分ほど電車に揺られていると、車内にアナウンスが響き渡った。
「次は 蝶谷駅、蝶谷駅です」
アナウンスを聞いた俺たちは席を立つ。
それまで勢いよく走っていた電車は駅が近づくにつれて速度をゆっくり落とし始めた。
そして目的の蝶谷駅に着くと電車は完全に停車し、慣性の法則により立っていた俺たちは少しバランスを崩す。
俺は近くにあった手すりに捕まったため倒れずに済んだが、隣の榊原はバランスを崩して俺の方に倒れかかってきた。
「あっ……」
小さく声をあげてよろめく榊原を守ろうと反射的に榊原の方に体が向く。
すると、榊原の小さな体が俺の胸の中にすっぽりと収まった。
「おっと……」
榊原を支えることには成功したが、この状態は端から見れば抱き合っているようにしか見えない。
榊原の小さく華奢な身体と俺の身体が密着してしまっている。
榊原の膨らみのある胸が身体に押し付けられ、柔らかく包まれるような感覚に陥った。
吐息が届きそうなほど近い榊原との距離。
触れ合っている胸を通して榊原の鼓動が直に伝わってくるように感じた。
今までこれほど榊原を近くに感じたことはない。
榊原の艶やかな長い髪が頬に触れて少しくすぐったい。
そして、なんだかいい香りがする。
これは、桜の香りだろうか……
甘くて優しい香りが胸いっぱいに広がる。
それと同時に自分の体温が上昇していくのがわかる。
心臓は激しく脈打ち、汗腺から汗が滲み出る。
感情のダムが決壊しそうになったところで俺は我に返る。
「あっ……!わ、悪い!」
慌てて榊原から体を離す。
おそらく電車が止まってから2秒と経っていないだろう。
しかし、俺にはそれがとても長い時間に感じた。
顔が熱い。沸騰しそうだ。
俺はズボンで手汗を拭きながら榊原に目をやる。
榊原は黙ったまま俯いている。
長い髪で榊原の顔は隠れ表情は見えないが、唯一見えた耳が真っ赤に染まっている。
榊原の真っ赤に染まった耳を凝視していると、入口の扉が開いた。
「さ、榊原、降りようか……」
「そ、そうね……」
電車から降りた俺たちは無言を貫いた。
なんだかとてつもなく恥ずかしいことをしてしまったようで、榊原の顔を見ることができない。
まだ心臓が煩く脈を打っている。
もし、この鼓動が榊原に聞かれてしまっていたら……
俺は乾いた喉で唾を飲み込む。
不慮の事故とはいえ、榊原にも恥ずかしい思いをさせてしまった。
俺が榊原になんと言って謝罪するかを考えていると、榊原が最初に口を開いた。
「は……羽島君、あの……支えてくれて、あ、ありがとう……それと、ごめんなさい……」
榊原は今にも消え入りそうな声で言う。
「い、いや!俺の方こそ……!」
動揺を隠せない俺は声のボリュームを調整できず、大声になってしまった。
それから再び、俺たちの間には沈黙が続く。
この気まずい空気をなんとか跳ね除けなくては……
俺は息を深く吸って吐くと、思い切って声をかける。
「そ、それじゃあ……行くか」
「え、えぇ……そうしましょうか」
こうして、俺たちは運動競技場へ向かって歩き出した。
俺の頭の中は榊原のことでいっぱいで、秀一のことなどすっかり抜け落ちてしまっていた。
未だに榊原の胸の感触や髪の香りが頭から離れない。
俺は頭を激しく左右に振ると、気持ちを切り替え、前へ前へと足を踏み出した——。
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