白の無才

ユウキ ヨルカ

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第15話「紫陽花祭りについて(3)」

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カーテンの間から差し込む光で、俺は目を覚ました。

紫陽花祭り当日——。

俺は寝起きで重い体を年老いた亀のようにゆっくりと動かすと、ベッドから立ち上がりカーテンに向かって歩く。
そして、光が漏れ出している隙間に手を入れ、勢いよくカーテンを開けた。

その瞬間、激しい眩しさが俺の両目を襲った。
あまりの眩しさに俺は目を瞑る。

俺はその眩しさに目を慣らし、ゆっくりと瞼を開けると、窓の外には久しぶりに見る燦々とした太陽と吸い込まれそうなほど青い空が広がっていた。

「天気予報が当たって良かった」

俺はそう呟くとベッドに戻り、枕元にあるスマホを確認した。

時刻はちょうど正午を回ったところだった。

集合時刻までまだ4時間ほどある。

俺はとりあえず昼食を済ませることに決め、自室を出て階段を降り、リビングのある1階へ向かった。

父さんと母さんは土曜日だというのに今日も仕事で忙しいらしく、家にはいなかった。
リビングのテーブルにふと目をやると、何やらメモ用紙のようなものに書き置きがしてあるのに気がついた。

俺はそのメモ用紙を手に取り、読み上げる。


「『お兄ちゃん、部活行ってくるね。お昼ご飯は冷蔵庫にあるのを温めて食べてね! 由紀より』……」


どうりで妹の由紀の姿が見当たらないと思った。

俺はメモ用紙をテーブルに戻すと、冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫の中には、ラップがかけられた食器が入っていた。
食器の中を確認したところ、昼食はどうやら炒飯らしい。

俺はかけられたラップを外して電子レンジに入れると、冷たくなった炒飯を1分ほど温めた。

タイマーが鳴り、電子レンジから取り出すと炒飯からはもくもくと白い湯気が上がった。

俺は温められた炒飯を持ってリビングのテーブルに着くと、手元にあったリモコンでテレビを点け、昼のバラエティ番組を見ながら昼食を食べ始めた。





昼食を食べ終え、食器を洗い終えると2階の自室へと戻った。
部屋に戻ると、もう一度スマホで時刻を確認する。

「まだ13時か」

部屋を見回し、集合時間まで暇つぶしになるものを探す。

そういえば買っておいてまだ読んでない小説があったな……。

そう思った俺は部屋の奥にある本棚から文庫本を1冊取り出すと、そのままベッドに腰掛けた。


小説のタイトルは「ノー・タレント」。

主人公は俺と同じ「才能」を渇望する青年で、自分の「才能」を見つけるため、同じ悩みを持つ友人と共に様々なことに果敢に挑戦していくという物語である。

書店で最初の数ページを読んだ時、まるで自分のことを書かれているような気がして購入することを決めた。

俺は主人公に自分を重ね合わせ、物語を読み進めていった——。




読み始めてからどれくらい時間が経っただろう。
俺はスマホで現在の時刻を確認した。

時刻は15時を少し回ったところだった。

「そろそろ出かけるか……」

俺は読んでいた小説に栞を挟んで閉じ、本棚へ戻すと財布とスマホをポケットに入れ、部屋を出た。

階段を降り、玄関で靴を履くとドアを開け、家を出た。

玄関の扉を開けると、むわっとした熱気を肌で感じた。

この時間帯なら気温も下がったはずだと思ったのだが、どうやら昼間に降り注いだ太陽の光と熱がコンクリートに吸収され、それが今、空へ向かって登っているらしい。

俺は梅雨のジメジメとした湿った空気が肌にまとわりつくのを振り払い、駅へと急いだ。

雨が降るのはもちろん嫌だが、梅雨の時期は逆に晴れていても高い湿度と気温で不快感はあまり変わらないということを身を以て知った。


家からほたる駅までは徒歩で約30分。
最寄りの駅から電車で行くこともできたが、電車賃が少しもったいなく感じたため歩いて行くことにした。

駅に近づくにつれ、だんだんと人通りが多くなっているように感じた。
おそらくここにいる人の大半は、俺たちと同じく紫陽花祭りの参加者なのだろう。

そんなことを思って歩いていると、ようやく待ち合わせ場所に指定したほたる駅に着いた。

時刻は15時50分。

集合時間には余裕で間に合ったようだ。

俺はグループチャットで、駅に到着したことを秀一たちに伝えた。
すると、1分もしないうちに秀一から返信が返ってきた。

「俺ももう着いてるぜ。駅の噴水前にいる」

噴水前か……

俺は噴水がある駅の東口へ移動することにした。
今いる北口から東口へ移動するために駅の中を通っていると、子供連れの家族や部活帰りなのか、ジャージ姿の学生が多く見えた。

結構賑わってるな……などと思いながら歩いていると、東口のゲートが見えた。

俺は東口を出て、秀一が待っているという噴水前に向かった。
すると、噴水の前でスマホを覗き込む秀一の姿を発見した。

秀一はスマホから顔を上げ、近づく俺に気がつくと、こちらに向かって右手を上げた。

「よう、悠」

「早いな、秀一。榊原たちはまだ来てないのか?」

「さっき莉緒から、榊原さんと一緒にこっちに向かってるって連絡あったぜ」

「そうか」

俺はポケットからスマホを取り出し、グループチャットを確認する。
確かに3分ほど前に朝霧から連絡が来ていた。

グループチャットで「秀一と合流した」と文字を打っていると、秀一が俺の肩を叩き、前方を指差した。

「悠、榊原さんたち来たみたいだぜ」

秀一が指差す方を見ると、榊原と朝霧が仲良く手を繋いでこちらに向かって来るのが見えた。

「遅れてごめん!人が多くてさー」

「羽島君、榎本君。待たせてごめんなさい。」

朝霧と榊原は噴水前に着くと、若干息を切らせた様子でそう言った。

「気にするな。俺たちが少し早く着いただけだ」

「そうそう」

俺と秀一は、謝る朝霧たちに向かって言った。
実際、今ちょうど16時になったところなので集合時間にはしっかり間に合っている。

「そういえば俺、2人の私服姿初めてみたよ!なんだか新鮮だな!」

秀一は朝霧と榊原を見て言った。

朝霧は白のTシャツに黒のショートパンツといった活発的なファッション。

それに対して榊原は、白のブラウスに青のフレアスカートといった『初夏の令嬢』という感じのファッションをしていた。

ファッションには疎い俺だが、二人とも良く似合っていると素直にそう思った。

俺たちに私服姿をじっくりと観察された朝霧と榊原は少し照れたように顔を伏せた。

「そ、それより早く行こうよ!」

朝霧は顔をほんのりと赤らめると、上ずった声で言った。
朝霧の隣では榊原がうんうんと首を縦に振っている。

「そうだな。よし、それじゃあ行くか!」

秀一は胸を躍らせた様子でそう言うと、祭りの会場へ向かって歩き出した。

それに続いて俺たちも会場に向かって歩き出す。

「楽しみだな」

俺は意外にも心を弾ませると、榊原に声をかけた。

「えぇ。たくさん楽しみましょうね!」

榊原は期待に満ちあふれた表情をして、そう言った。



いよいよ、俺たちの紫陽花祭りが始まろうとしていた——。

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