Goodbye, weakness.

 例年に比べて長く続いた梅雨が明け、夏の始まりを報せる蝉の声が一斉に響きだした八月某日。
 とあるニュースが日本全土を震撼させた。

『女優 東雲すみか(28)死亡 自宅で首吊り自殺か』

 そのあまりにも早すぎる訃報はたちまちSNS上で拡散され、多くの悲しみの声と共に夏日最初のトップニュースを飾った。
 各新聞やテレビの報道番組では、彼女の死を悼む言葉と共に女優〈東雲すみか〉が残した多くの功績を称える特集が組まれ、彼女の死の真相や発見に至るまでの経緯が記事として、議論として、多くの人の目に留まった。

 特別、彼女に興味があったわけではないし、強い憧れや好意を抱いていたわけでもない。ましてやファンですらなかったと思う。
 彼女が普段どんな表情で大衆の前に姿を見せていたのか、どんな演技で大衆を魅了していたのか、外の世界と隔絶した生活を送っていた僕はほとんど知らない。

 ——だけど。

 ……たった一度だけ、彼女と二人きりで話をしたことがある。

 木陰に響く蝉時雨。
 アスファルトを焦がす夏の日差し。
 どこまでも澄んだ青い空と、天まで届く真っ白な入道雲。
 時折海からやって来る潮風と、幻影のように漂い続ける煙草の煙。

 忘れもしない。
 暑い暑い八月の、僕と彼女だけが知っている、あの夏の日の記憶——。
24h.ポイント 0pt
0
小説 192,060 位 / 192,060件 ライト文芸 7,619 位 / 7,619件

あなたにおすすめの小説

ハーバリウムの棺桶

雨上鴉
ライト文芸
「あら、あなたも永遠が欲しいのね!」 仮想19世紀後期のとある街に、特別な場所がある。 死体を綺麗にする技術士──エンバーマーの店主が営む花屋。 そこには、他の葬儀屋にはない特殊なメニューがあって……? ※この小説には実在の技術が出てきますが、全てフィクションです。実際のものと関係はありません。

人間工房

沼津平成
ライト文芸
人間をつくることができる工房があるらしい。ちょっと覗いてみよう。

お盆に台風 in北三陸2024

ようさん
ライト文芸
 2024年、8月。  お盆の帰省シーズン序盤、台風5号が北東北を直撃する予報が出る中、北三陸出身の不良中年(?)昌弘は、ひと回り年下の不思議ちゃん系青年(?)圭人と一緒に東北新幹線に乗っていた。  いつまでも元気で口やかましいと思っていた実家の両親は、例の感染症騒動以来何かと衰えが目立つ。  緊急安全確保の警報が出る実家へ向かう新幹線の車中、地元に暮らす幼馴染の咲恵から町直通のバスが停まってしまったという連絡が入る。  昌弘の実家は無事なのか?そして、無事に実家でのお盆休暇を過ごすことができるのか!? ※公開中のサブタイトルを一部変更しました。内容にほぼ変更はありません(9.18) ※先に執筆した「ばあちゃんの豆しとぎ」のシリーズ作品です。前作の主人公、静子の祖母の葬儀から約20年経った現代が舞台。  前作を読んでなくても楽しめます。  やや残念気味の中年に成長したはとこの(元)イケメン好青年・昌弘が台風の近づく北三陸で、鉄オタの迷相棒・圭人と頑張るお話(予定)   ※体験談をヒントにしたフィクションです。実在の人物、団体とは関係ありません。 ※題材に対してネタっぽい作風で大変申し訳ありません。戦乱や気象変動による災害の犠牲が世界から無くなることを祈りつつ真剣に書いております。ご不快に思われたらスルーでお願いします。  

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

ルネ~あなたの願い、特殊メイクで叶えます~

一刀星リョーマ
ライト文芸
特殊メイクアーティスト・ルネがあなたの願いを特殊メイクで叶えます…

79ページ、49ページ

クイン
ライト文芸
49歳ニートの息子が突然の作家志望宣言。 79歳の母は息子を支えるため、切磋琢磨するお話

花束をあなたに

天笠鈴音
ライト文芸
これは、最高の祝福の花束をあなたに届けるための物語…

鈍感勇者は気にしない。 ~ 最強パーティを追放されたので不当解雇かと思ったら理由が正当だった。でも正直どうでもいい。 ~

ジョーカー
ファンタジー
ギルド最強と言われ、 魔王討伐に最も近いと言われているパーティ、 「漆黒の混沌」。 そのリーダーを務めていた転生者、 「ボッチ・トワニ・ヒトリミーノ」は......パーティを解雇された。 理不尽だ不当解雇だと訴える彼。 しかしその理由は至極真っ当なものだった。 「リーダーのくせに何もしない」「いやらしい目で見て来る」「空気が読めない」「酒場で酒いっぱいで何時間も居座る」「弱い」「喋らないから何考えてるか分からない」。 パーティ内外から様々なクレームを入れられ、 自分が最低の奴だと気づくボッチ。 しかも彼が転生時に与えられた職業は「足の小指を角にぶつける師」。 全く何で役立つか分からないものだった。 そりゃ追放されても仕方ないよね? 「お世話になりました。 さようなら」 自分の非を認めパーティをあっさり出て行こうとするボッチ。 しかしそれが逆に他のメンバーの逆鱗に触れる。 「何で悔しがらないの?! 後悔しないの?! そういうところだぞ!! 」 そう。 彼はセオリーなど簡単に無視してしまうような、 空気が読めなくて何も気にせず今回の事も全くダメージを受けないような人の気持ちが分からないコミュ障でサイコパスだったのだ! しかしそんな彼も、 パーティを追放されても譲れないものがあった。 それは「魔王討伐」。 転生時に与えられたこの使命だけは全うしようとソロで動き出す彼。 ギルドの受付にわざと仕事を受けさせてもらえなくても、 他の冒険者に馬鹿にされても、 それに気づかず使命完遂を目指して突き進む。 無意識に周りに「精神的ざまぁ」をしながら。 そんな時彼は、 同じように他のパーティから追放された「器用貧乏のキヨウ」と言う少女に出会う。 彼女に半ば強引にパーティを組まされゴブリン討伐する事になったボッチ。 物凄くよく弱い二人は、 駆け出し冒険者でも簡単に倒せるようなゴブリン相手に苦戦するのだが、 そんな時上級種であるハイゴブリンが現れて......! 俺TUEEEE追放ざまぁ器用貧乏無自覚などテンプレ要素たっぷり! でもボッチはそんなセオリーを無視して突き進む! テンプレ的テンプレ脱線ギャグ王道ファンタジーここに爆誕! ※一日一話更新目指します。 ※小説家になろう様。 カクヨム様で同時連載!