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「合格はまあ心配ないとして、ここから学園は少し遠いね。どうするつもりだったんだい?」
「移動魔法を使って自宅から通わせるつもりでしたが」
「うーん、費用も掛かる上に帰りは馬車。あまりいい手段とは思えないんだがねぇ…」
自宅から学園まで馬車で2時間。
通えなくはないが、道中が必ずしも安全とは限らないため、さらにプラス時間がかかる。
では移動魔法を使うとなると、使う魔力の量がバカにならない。
大人の魔法使いが10人そろって、やっと自宅と学園を行き来できるほど。
シルヴィがひとりで魔力を込めるとしたら、約20日かかるほど魔力を必要とする。
「そうなると近くに家を建てるのが一番でしょうか」
「子供が心配なのはわかるけど、それは少しやりすぎだとは思うよ」
「うむ。わしもそう思う」
学園に通うための家をつくろうとしたアドルフに賛同する者はいなかった。
シルヴィの母親であるセレナも、同意することはなかった。
「宿があったらいいのですが、シルヴィには向いていなさそうですし…」
「宿はありますが、セレナさん。それはどういう意味でしょうか?」
「いえ、ひとりで暮らせるほど成長はしているのですが、少し“がさつ”と言うのですか…」
「少し男勝りなところがありまして、同じ宿の人に迷惑がかかってしまうかと」
「な、なにを言うんじゃ!そんなわけ…なくはないかも…しれないが…」
少し心当たりがあるシルヴィは目を逸らした。
しかし、そんなシルヴィをミストは笑うことなくある提案をした。
「なら私の家で預かるのはどうでしょう?」
「先生のおうちにですか?そこまでご迷惑をおかけになるのは…」
「気にしなくて大丈夫ですよ。ちょうど孫と同じ年。迷惑どころか、私にとってはうれしいことですよ」
悪いどころか、むしろ歓迎されている。
シルヴィはもちろん、アドルフにも悪い話しではないのだが…
「やっぱり、心配です」
「気持ちはわかる。でも、いつまでも一緒にとはいられないんだよ?」
「そうよ。私も心配ですけど、シルヴィをいつまでも家に縛るのは良くありませんわ」
「た、確かにそうだが…」
愛娘であるシルヴィと一緒に暮らせなくなる。
どんなに早くても年単位だから、父親であるアドルフは辛い。
もちろん、母親のセレナもだ。
「心配なら休みの日に来るといいよ。何なら学園にも」
「学園にもですか?久しぶりに足を運んでみるのもいいですね」
「そうだわ!試験の日に一緒に行くのはどうでしょう?」
「試験の日でも、特に立ち入り禁止などの決まりはないので、休みの日なんてどうでしょう?」
「いいですね!さっそく確認します!」
アドルフは執事を呼び、スケジュールの確認を行う。
重要な予定は覚えているが、それ以外にも用事などが多い。
こうした確認をよくするため、執事にスケジュールを組むように頼んでいる。
「今日は除いて、明日はお休み。明後日が会談でその次の日がまた別のところで会談」
「その次の日はどうかしら?」
「ああ、ここなら大丈夫かな」
「旦那様。今朝、その日から泊りがけで予定が入ったと仰っておりましたが」
「そうだった!ここがダメなら次は…うーむ…」
話は全然進まなかった。
進まなかったせいで、書かれたスケジュールをシルヴィとセレナは覗く。
自分の家ではなくヴィクトリア家の問題のため、ミストは目を離して空を見ていた。
「1ヵ月後までないじゃない!」
「し、仕方がないだろう。ちょうど忙しい時期なんだから」
「そうだわ!シルヴィ、私とだけ一緒に行くのはどう?」
「ちょっ、セレナ…」
「それはどうじゃろうか。父上が足を運ぶからこそ一緒に行く意味があるのじゃと思うのだが」
そうなると明日しかなくなる。
もし無理なら来月と期間が開いてしまうが、学園の話を聞いてしまった今、シルヴィにとっては待ち遠しくとても長い1ヵ月になってしまう。
「先生、明日って言うのは…」
「随分と急ですね。うーん…少し待っててください」
そう言うと、ミストは部屋から出ていった。
「どうしたのかしら?」
「連絡を取っているんだと思うよ。学園で何か緊急事態があったら大変だから、連絡魔法を職員たちが覚えているはずだからね」
ミストは部屋から出て、外で通信をとっている。
話が終わるまで、3人はメイドが出したお茶を飲んでいた。
ミストが戻ってくるのは10分後、少し疲れていた顔をしている。
「ふぅ…。私にも飲み物を貰えるかな?」
「もちろんですとも。先生に」
「かしこまりました」
後ろに控えていたメイドがお茶を注ぐ。
「それでどうでしたか?やはり急なので無理だったでしょうが…」
「いえ、何とかできそうですけど。少し問題が起きてしまったので」
「問題じゃと?」
「そう。ちょっと怒らせちゃったみたいでね」
少し深刻そうな顔をしているミストを見た3人は、表情が変わった。
怒らせてしまったのは良いことではないが、無理な話が通ったのだ。
少しだけホッとしている。
「簡単に説明すると、試験監督の人に無理してもらったんだ。やってくれるとは言っていたけど、審査が厳しくなるかもしれない」
「でもシルヴィなら――」
「私もそう言いたいですが、後は試験監督次第です。さすがに私的な理由で落とすことはないでしょうけど」
無理させてまで入学させるということは、それほどの実力があると思われている。
期間が短くなったことで、入学するためのハードルが上がってしまったのだ。
その上、無理だと言っていただろう中、頼んだから怒っているという悪条件付き。
「まあ大丈夫じゃろう」
「本当に大丈夫かい?今魔力を使ったんだから、明日の試験までに回復すればいいんだけど…」
「うむ。魔力の量は低いが、回復は早いから大丈夫じゃ」
心配するミストだったが、心配は要らないようだ。
「明日ということは…。先生、泊っていかれますか?」
「そうしたいところだけど、すぐに帰って準備をしないとさらに怒りを買ってしまうからね」
「そうですか。すみません、無理を言ってしまい」
「いえいえ、私も学園に招きたかったので全然構いませんよ」
ミストも招きたいからやってること。
いやいやではなく、自ら進んでやっているからやる気がないわけではない。
むしろ、招き入れたいからこそ気合いが入っているようだった。
「では私は帰ります。明日の昼頃から試験を受けれますので」
「何か必要なものはありますか?」
「特にありません。強いて言えば、気合いですかね」
「うむ。それなら大丈夫じゃ」
元気の良い返事にミストは笑う。
アドルフはミストと試験監督用にお土産を渡す。
帰りの挨拶を済ますと、ミストは学園へと戻っていった。
「シルヴィ、今日はもう休んでいなさい」
「うむ。明日は朝出発かのう」
「そうだね。先生は昼からと言っていたけど、案内もあるから少し早めで」
「わかった。じゃあ部屋に戻るとしよう」
シルヴィも部屋から出ていった。
アドルフとセレナは部屋に残っている。
「シルヴィのあの顔、久しぶりに見たわ」
「いつも私のわがままでいろいろな人と会って楽しくなかった分、嬉しいのかもしれないね。学園に行ったらたくさん楽しいことが待っているはずだから」
「シルヴィだけではなく、私も楽しみだわ」
「私もだよ」
本日は晴天、夜は人がたくさんいた昼間とは違いとても静かであった。
そんな中、寝付けなかったシルヴィが外へと向かう。
緊張のせいというわけではなく、どちらかと言えば楽しいことの前日、つまりワクワクしていたせいで寝れなかったのだ。
「なあ、おるんじゃろう?」
「はいはい、いますよー。こういう時じゃないと姿も現せられないんだから」
先ほどまで誰もいなかったが、シルヴィの前に一人の少女が現れた。
年はシルヴィと変わらない。
「今日はわしに合わせた見た目じゃのう」
「…いい加減その『わし』ってのやめたほうがいいわよ?家族ならまだしも、学園に行くなら直した方がいいと思うわ」
「なんじゃ、聞いておったのか」
シルヴィは驚いていた。
あの場にはシルヴィ、アドルフ、セレナ、そしてミストと側近だけ。
ここにいる少女の姿を見た者はひとりもいなかった。
「お母さんの記憶からダーヴィル、そして今のシルヴィまで知ってるけどさ。やっぱりまだ心配だわ」
「エフティよ。お主は確かに長生きしておるじゃろうが、わしも人間から見たら長生きしておる。大丈夫じゃ」
エフティはダーヴィルを生まれ変わらせてくれた大樹の精霊の子供。
つまり少女の恰好をしているが、元々は大樹である。
ダーヴィルが亡くなった時に現れた時と違い、今は半透明ではなく、くっきりと姿があった。
「ならお主も来ればよかろう。学園へは馬車で2時間ばかりじゃろうから、その姿でも届くじゃろうし」
「届くも何も、今の私には本体との距離は関係ないけどね。今はもう、私たちの存在を知っているのはシルヴィだけだもの」
大樹の伝説が今も続いているわけではない。
消えた町の言い伝えなど、知っている者が言わない限り続かない。
ダーヴィルは故郷がどこかは言ったものの、言い伝えまでは言うことはなかった。
「すまんのう。わしが伝えておれば…」
「いいのよ。言ったとしても、良いことに使う人なんていなかっただろうし」
エフティは背を向け、空を見上げる。
シルヴィも空を見上げた時、空には綺麗な星々が輝いていた。
「そろそろ寝た方がいいわよ。明日早いんでしょう?」
「大丈夫じゃろうけど、早めに起きるつもりじゃ。ならそろそろ寝させてもらうかのう」
「…おやすみなさい」
「おやすみ」
シルヴィは部屋に戻るが、エフティはまだ外にいる。
エフティは中庭の方へと移動し、手入れされている花々を見て回っていた。
枯れている花を見つけたエフティが手を差し出すと、花は色を取り戻す。
「こういう事は出来るんだけど、やっぱりお母さんみたいに力は強くないわ」
自分の手のひらを見たエフティが魔力を込めると、体は徐々に大きくなっていく。
成人ぐらいのサイズになると、それ以上に大きくなることはなかった。
「私には生まれ変わりをさせるほどの力がないわ。今度こそ最後の人生、悔いが残らないようにさせないと」
急な風が吹くと、すでにエフティの姿はなかった。
「移動魔法を使って自宅から通わせるつもりでしたが」
「うーん、費用も掛かる上に帰りは馬車。あまりいい手段とは思えないんだがねぇ…」
自宅から学園まで馬車で2時間。
通えなくはないが、道中が必ずしも安全とは限らないため、さらにプラス時間がかかる。
では移動魔法を使うとなると、使う魔力の量がバカにならない。
大人の魔法使いが10人そろって、やっと自宅と学園を行き来できるほど。
シルヴィがひとりで魔力を込めるとしたら、約20日かかるほど魔力を必要とする。
「そうなると近くに家を建てるのが一番でしょうか」
「子供が心配なのはわかるけど、それは少しやりすぎだとは思うよ」
「うむ。わしもそう思う」
学園に通うための家をつくろうとしたアドルフに賛同する者はいなかった。
シルヴィの母親であるセレナも、同意することはなかった。
「宿があったらいいのですが、シルヴィには向いていなさそうですし…」
「宿はありますが、セレナさん。それはどういう意味でしょうか?」
「いえ、ひとりで暮らせるほど成長はしているのですが、少し“がさつ”と言うのですか…」
「少し男勝りなところがありまして、同じ宿の人に迷惑がかかってしまうかと」
「な、なにを言うんじゃ!そんなわけ…なくはないかも…しれないが…」
少し心当たりがあるシルヴィは目を逸らした。
しかし、そんなシルヴィをミストは笑うことなくある提案をした。
「なら私の家で預かるのはどうでしょう?」
「先生のおうちにですか?そこまでご迷惑をおかけになるのは…」
「気にしなくて大丈夫ですよ。ちょうど孫と同じ年。迷惑どころか、私にとってはうれしいことですよ」
悪いどころか、むしろ歓迎されている。
シルヴィはもちろん、アドルフにも悪い話しではないのだが…
「やっぱり、心配です」
「気持ちはわかる。でも、いつまでも一緒にとはいられないんだよ?」
「そうよ。私も心配ですけど、シルヴィをいつまでも家に縛るのは良くありませんわ」
「た、確かにそうだが…」
愛娘であるシルヴィと一緒に暮らせなくなる。
どんなに早くても年単位だから、父親であるアドルフは辛い。
もちろん、母親のセレナもだ。
「心配なら休みの日に来るといいよ。何なら学園にも」
「学園にもですか?久しぶりに足を運んでみるのもいいですね」
「そうだわ!試験の日に一緒に行くのはどうでしょう?」
「試験の日でも、特に立ち入り禁止などの決まりはないので、休みの日なんてどうでしょう?」
「いいですね!さっそく確認します!」
アドルフは執事を呼び、スケジュールの確認を行う。
重要な予定は覚えているが、それ以外にも用事などが多い。
こうした確認をよくするため、執事にスケジュールを組むように頼んでいる。
「今日は除いて、明日はお休み。明後日が会談でその次の日がまた別のところで会談」
「その次の日はどうかしら?」
「ああ、ここなら大丈夫かな」
「旦那様。今朝、その日から泊りがけで予定が入ったと仰っておりましたが」
「そうだった!ここがダメなら次は…うーむ…」
話は全然進まなかった。
進まなかったせいで、書かれたスケジュールをシルヴィとセレナは覗く。
自分の家ではなくヴィクトリア家の問題のため、ミストは目を離して空を見ていた。
「1ヵ月後までないじゃない!」
「し、仕方がないだろう。ちょうど忙しい時期なんだから」
「そうだわ!シルヴィ、私とだけ一緒に行くのはどう?」
「ちょっ、セレナ…」
「それはどうじゃろうか。父上が足を運ぶからこそ一緒に行く意味があるのじゃと思うのだが」
そうなると明日しかなくなる。
もし無理なら来月と期間が開いてしまうが、学園の話を聞いてしまった今、シルヴィにとっては待ち遠しくとても長い1ヵ月になってしまう。
「先生、明日って言うのは…」
「随分と急ですね。うーん…少し待っててください」
そう言うと、ミストは部屋から出ていった。
「どうしたのかしら?」
「連絡を取っているんだと思うよ。学園で何か緊急事態があったら大変だから、連絡魔法を職員たちが覚えているはずだからね」
ミストは部屋から出て、外で通信をとっている。
話が終わるまで、3人はメイドが出したお茶を飲んでいた。
ミストが戻ってくるのは10分後、少し疲れていた顔をしている。
「ふぅ…。私にも飲み物を貰えるかな?」
「もちろんですとも。先生に」
「かしこまりました」
後ろに控えていたメイドがお茶を注ぐ。
「それでどうでしたか?やはり急なので無理だったでしょうが…」
「いえ、何とかできそうですけど。少し問題が起きてしまったので」
「問題じゃと?」
「そう。ちょっと怒らせちゃったみたいでね」
少し深刻そうな顔をしているミストを見た3人は、表情が変わった。
怒らせてしまったのは良いことではないが、無理な話が通ったのだ。
少しだけホッとしている。
「簡単に説明すると、試験監督の人に無理してもらったんだ。やってくれるとは言っていたけど、審査が厳しくなるかもしれない」
「でもシルヴィなら――」
「私もそう言いたいですが、後は試験監督次第です。さすがに私的な理由で落とすことはないでしょうけど」
無理させてまで入学させるということは、それほどの実力があると思われている。
期間が短くなったことで、入学するためのハードルが上がってしまったのだ。
その上、無理だと言っていただろう中、頼んだから怒っているという悪条件付き。
「まあ大丈夫じゃろう」
「本当に大丈夫かい?今魔力を使ったんだから、明日の試験までに回復すればいいんだけど…」
「うむ。魔力の量は低いが、回復は早いから大丈夫じゃ」
心配するミストだったが、心配は要らないようだ。
「明日ということは…。先生、泊っていかれますか?」
「そうしたいところだけど、すぐに帰って準備をしないとさらに怒りを買ってしまうからね」
「そうですか。すみません、無理を言ってしまい」
「いえいえ、私も学園に招きたかったので全然構いませんよ」
ミストも招きたいからやってること。
いやいやではなく、自ら進んでやっているからやる気がないわけではない。
むしろ、招き入れたいからこそ気合いが入っているようだった。
「では私は帰ります。明日の昼頃から試験を受けれますので」
「何か必要なものはありますか?」
「特にありません。強いて言えば、気合いですかね」
「うむ。それなら大丈夫じゃ」
元気の良い返事にミストは笑う。
アドルフはミストと試験監督用にお土産を渡す。
帰りの挨拶を済ますと、ミストは学園へと戻っていった。
「シルヴィ、今日はもう休んでいなさい」
「うむ。明日は朝出発かのう」
「そうだね。先生は昼からと言っていたけど、案内もあるから少し早めで」
「わかった。じゃあ部屋に戻るとしよう」
シルヴィも部屋から出ていった。
アドルフとセレナは部屋に残っている。
「シルヴィのあの顔、久しぶりに見たわ」
「いつも私のわがままでいろいろな人と会って楽しくなかった分、嬉しいのかもしれないね。学園に行ったらたくさん楽しいことが待っているはずだから」
「シルヴィだけではなく、私も楽しみだわ」
「私もだよ」
本日は晴天、夜は人がたくさんいた昼間とは違いとても静かであった。
そんな中、寝付けなかったシルヴィが外へと向かう。
緊張のせいというわけではなく、どちらかと言えば楽しいことの前日、つまりワクワクしていたせいで寝れなかったのだ。
「なあ、おるんじゃろう?」
「はいはい、いますよー。こういう時じゃないと姿も現せられないんだから」
先ほどまで誰もいなかったが、シルヴィの前に一人の少女が現れた。
年はシルヴィと変わらない。
「今日はわしに合わせた見た目じゃのう」
「…いい加減その『わし』ってのやめたほうがいいわよ?家族ならまだしも、学園に行くなら直した方がいいと思うわ」
「なんじゃ、聞いておったのか」
シルヴィは驚いていた。
あの場にはシルヴィ、アドルフ、セレナ、そしてミストと側近だけ。
ここにいる少女の姿を見た者はひとりもいなかった。
「お母さんの記憶からダーヴィル、そして今のシルヴィまで知ってるけどさ。やっぱりまだ心配だわ」
「エフティよ。お主は確かに長生きしておるじゃろうが、わしも人間から見たら長生きしておる。大丈夫じゃ」
エフティはダーヴィルを生まれ変わらせてくれた大樹の精霊の子供。
つまり少女の恰好をしているが、元々は大樹である。
ダーヴィルが亡くなった時に現れた時と違い、今は半透明ではなく、くっきりと姿があった。
「ならお主も来ればよかろう。学園へは馬車で2時間ばかりじゃろうから、その姿でも届くじゃろうし」
「届くも何も、今の私には本体との距離は関係ないけどね。今はもう、私たちの存在を知っているのはシルヴィだけだもの」
大樹の伝説が今も続いているわけではない。
消えた町の言い伝えなど、知っている者が言わない限り続かない。
ダーヴィルは故郷がどこかは言ったものの、言い伝えまでは言うことはなかった。
「すまんのう。わしが伝えておれば…」
「いいのよ。言ったとしても、良いことに使う人なんていなかっただろうし」
エフティは背を向け、空を見上げる。
シルヴィも空を見上げた時、空には綺麗な星々が輝いていた。
「そろそろ寝た方がいいわよ。明日早いんでしょう?」
「大丈夫じゃろうけど、早めに起きるつもりじゃ。ならそろそろ寝させてもらうかのう」
「…おやすみなさい」
「おやすみ」
シルヴィは部屋に戻るが、エフティはまだ外にいる。
エフティは中庭の方へと移動し、手入れされている花々を見て回っていた。
枯れている花を見つけたエフティが手を差し出すと、花は色を取り戻す。
「こういう事は出来るんだけど、やっぱりお母さんみたいに力は強くないわ」
自分の手のひらを見たエフティが魔力を込めると、体は徐々に大きくなっていく。
成人ぐらいのサイズになると、それ以上に大きくなることはなかった。
「私には生まれ変わりをさせるほどの力がないわ。今度こそ最後の人生、悔いが残らないようにさせないと」
急な風が吹くと、すでにエフティの姿はなかった。
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