賢者、平和を望み少女になる

銀狐

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 ダーヴィルが亡くなって2千という長い年月が経った。
 季節は春、暖かい風が吹き始める季節だ。

「おや?シルヴィはどこへ?」
「あら?お客様が来ると言ったのだけれど、お散歩へ行ってしまったのかしら?」

 ここはヴィクトリア家のお屋敷。
 土地は広く、たくさんのメイドや執事、料理人たちがいる裕福な家。

 当主の『アドルフ・ヴィクトリア』に妻の『セレナ・ヴィクトリア』。
 そして10歳の一人娘、『シルヴィ・ヴィクトリア』の3人家族。

 そんなヴィクトリア家には今日、お客が来ることになっていた。

「誰か、シルヴィを探してくれませんか?」
「見つけたら来客室へ来るように言っといてくれ」
「かしこまりました。すぐに探してまいります」

 メイドが部屋を出て、シルヴィを探し始める。
 家自体大きい為、人1人を探すだけでも大変なのだ。

「あの、旦那様…」
「どうしたんだい?もう見つかったのかい?」
「いえ、お客様が部屋にいなくて…」
「…はぁ。またですか」

 娘のシルヴィもいない、お客もいない。
 アドルフは頭を抱えていた。

「大丈夫よ。あの人には御恩があるのですから、ご自由に言ってあるのでしょう?」
「確かにそうだが…。一応人の家なんだけどねぇ…」

 アドルフは頭を抱えたままだった。

 中庭。家の中心にある場所だ。
 そこには1人の少女がベンチに座っている。
 両親から継いだ、長く綺麗な金髪ブロンドヘアーが特徴的だ。

「今日も来客とはのう…。疲れてしまうわい!」

 少女は、少女とは思えない口調で怒っていた。
 彼女こそ、生まれ変わったダーヴィルだ。

「しかし、いつ着てもスカートは慣れないのう…」

 少女は年相応の服装をしている。
 もちろん、来客と面会することもあるため普段よりは気合いの入っている服装だ。
 いつもよりも疲れが増す服装で、出歩くのも正直嫌になるほど。

「じゃが、平和な時代に生まれさせてもらったのだから、我儘は言ってはおられんのう」

 少女は立ち上がり、家へと向かう。

 その時だ。
 1人の男性が中庭へと入ってきた。
 男性はこの大きな家に入るためなのか、シルヴィと同様にしっかりとした服装。
 年は父親であるアドルフより年をとっている。

「おやおや、これは可愛いお嬢様ですね」
「む?お主は誰じゃ?」
「“じゃ”?」

 男はきょとんとする。
 何せ自分よりだいぶ若く、少女の見た目をしているから話し方に違和感があった。
 気になりつつも、男性は会話を続ける。

「私の名前はミスト・ルーツ。ダーヴィル学園の学園長をやっている者だよ」
「だ、ダーヴィル魔法学園!?」

 シルヴィはもちろん驚く。
 生まれ変わって10年は経っているが、過去の名前を忘れるわけがない。
 ましてや、その名前を使った学園の名前を聞いたらなおさら驚く。

「おや、知っているのかい?」
「い、いや。知っているような、知っていないような…」
「少し複雑みたいだね」

 頭を抱える少女を心配そうに見るミスト。
 心配だが、ミストは話を続けた。

「君はどうしてここにいるんだい?」
「息抜きをしているんじゃ」
「息抜きを?」
「うむ。今日もまた――っと、これは言ってもいいのかのう…?」

 疑問に思うシルヴィを見たミストは、すぐに何を言おうとしたのか理解した。
 ミストはさらに話し続ける。

「ところで君は、魔法は好きかい?」
「魔法、というと使う方?学ぶ方?それとも研究?」
「全部含めてどうかな?」
「うむ。もちろん好きだが、争いごとで使うなら嫌いじゃ」

 前の人生ではとにかく魔法が好きだった。
 だが、生まれ変わって今の魔法について知ると、ダーヴィル、いやシルヴィは魔法について考えを改めた。

 何から何かまで魔法は良いものではない。
 いいこともあれば、悪いこともある。
 それは争いを生むほどまでに。

「大丈夫だよ。私が聞いたのは、ちゃんとして使う魔法についてだから」
「なら大好きじゃ。あいにく今は持ち歩いておらんのじゃが、1日1冊は書物を読んでおる」
「随分と勉強熱心なようだね。うんうん、話に聞いていた通りだよ」
「話というと、わしのことか?」
「そうだね。君のお父さん、アドルフくんからだよ」

 アドルフの言葉を聞き、シルヴィはあることに気づいた。
 それは、ミストが客人であることに。

 今まで誰か分からずに話していた。
 普段の来客ならまだしも、今日は特別な来客と知らされている。
 今までの発言を思い出し、顔を逸らした。

「ん?どうしたんだい?」
「いやその…。たしか今日の来客は…」
「ああ、そういうことか。大丈夫だよ。私は気にしていないから」

 そう言ってシルヴィの頭をポンポンと優しくたたく。
 頭を触るのは両親ぐらいで、他の人から触られるのは恥ずかしいところ。
 ましてや初めてあった人にだ。

「お嬢様、それにミスト様も」
「お迎えが来ましたね。一緒に行きますか?」
「うむ、そうじゃな。わしもこの場所にずっといると怒られるからのう」
「ははっ。そうだね」

 シルヴィとミスト、それに探し歩き回ったメイドはアドルフとセレナのいる部屋へと向かう。
 部屋に着くとアドルフとセレナは怒るわけではなく、心配していた。

「先生、シルヴィが何かしませんでしたか?」
「いえいえ。少し話し方が独特な気がしますが、どういう子なのかは分かりました」
「えっ!もうですか?」
「私はたくさんの人達を見てきましたからね。あとは試験で実力を見るだけ。だけどねぇ…」

 部屋に入ったミストとシルヴィは席へ着き、メイド達は外で待機。
 席へ着いたミストは、すぐさま話し出す。

「話だと、学園に入るようにさせたいと聞いていたんだが。どうやらそのことについて知らないようだけど?」
「先生と一緒に話そうと考えていたのです。先生の話があったから、今の私があるほどなんですから」
「よしたまえ。私はあくまでも学園という場所を教えただけの身。ここまで成長できたのはアドルフくん自身の力だから」

 2人の会話の矛先は、シルヴィへと移る。

「先ほど、魔法は好きと言っていたね?」
「うむ。確かに言ったのう」
「それなら私が運営している学園へ入学させてみるのはどうか、という話があってね」
「わしが学園にのう…」

(学園は確か…わしが死んで戦争が終了した後にできたモノだったはずじゃな。して、なぜわしがそこへ行くことになっているのだろうか?)

 無論、魔法が好きなシルヴィにとってはうれしい話だ。
 しかし、独自で書物から調べたり、己で試したほうが研究はしやすい。
 学園へ通うのは、返って自由な時間が無くなる。
 それなら家で研究していたほうがマシだと考えていた。

「学園だとどういうことをするのじゃ?」
「学園では魔法を主に、一般的な学業やいろんな場所へ資材を集めたり研究、探検などをしたりする」
「ふむふむ。何年ぐらい学園にいないといけないんじゃ?」
「特に期限はないけど、平均的に5年かな」

 長いようで短い。
 あくまでも5年だけで、個人差はもちろんある。

「興味はあるのじゃが、勉学ならここでも十分な気がするんじゃ」
「もちろんそれだけじゃない。仲間たちとの出会いもあるんだよ」

 シルヴィはあることを思い出した。
 それはかつての仲間たちの顔だ。

 慕ってくれる者、共に食事をする者、時にケンカをする者。
 みんなの顔が思い浮かんだ。

「仲間、か…」
「もっと興味が出て来たかい?」
「もちろんじゃ。興味が湧いてきたわい」
「いい返事だ」

 家にいて退屈ではなかったが、こうして新しいことに出会うのは嬉しい。
 そう考えながら、シルヴィは未来の自分を想像していた。

「そうじゃった。なぜ学園の名前が“ダーヴィル”なんじゃ?」
「聞いた話なんだけど、昔に魔法をよく知っている賢者と言われていた人がいたんだ。その人がダーヴィルと言う人でね。誰もがダーヴィルのように、と思って付けたんだよ」
「そ、そうなのか…」

 少し照れているシルヴィ。
 前の人生だったとはいえ、こうして褒められるのはむずがゆい。
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