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騙し合い

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影炎シャドウ・ファイア

 手を前に突き出すと魔法陣が出てきた。
 そこから黒い炎が飛び出したと思いきや、地面へ落ちた。

「不発か?」
「私はそんなミスしないわ」

 地面に落ちた炎はこちらへ向かって動き始めた。
 動き速く、気づいたら俺たちの下まで来ていた。

「あぶない!!」
「反応が早いわね」

 下にあった炎は俺たち目掛けて上にあがってきた。
 危険を察知し、俺はシロをかばいながら避けた。

「アメグラ様が言っていたのは本当だわ。冗談だと思っていたんだけど」
「情報が早いね」
「私たちはアメグラ様の近衛兵だからね」

 常に情報を共有しているってことか。
 でも今はアメグラはいない。
 倒すなら今のうちがいい。

幻影イリュージョンこれならどう?」
「増えた?」

 魔法を使うと左右に2人、また2人と増えた。
 合計5人、ここでもう数の差が生まれた。

「だが関係ない。シロ、大丈夫か?」
「全然大丈夫!たくさん覚えたから!」
「よし!じゃあいくぞ!」
「いい覚悟だわ」

 幻の分身の2体がこっちに向かって走ってきた。
 これはチャンスだ!

「シロは右!」
「わかった!」

 シロは爪をドラゴンの姿に。
 俺は魔法で反撃だ。

麻痺パラライシス!」
「そりゃあ!!」
「あらら」

 俺たちはこっちに来た2体を倒せた。
 よし!偽物ダミーはあと2体だ。

「そうそう焦らなくても」
「嘘だろ……。さらに増えるのかよ」
「う~ん?」
「どうかした?」
「んー、気のせいかな?」

 何かおかしいのか?
 あの魔法を連発するのはやばいとは思うけど。
 おかしいではないよな。

「それより残りの偽物を倒すぞ!」
「んー……わかった!」


◆――――――――――――――――――――


「ふふっ、こう見ると可愛い子供なのにね」
「よくやったな」
「アメグラ様、もう来ていらしたのですか」

 先ほど3人しかいなかった廊下にアメグラがやってきた。

「もう寝ているのか?」
「はい、今は私がつくった夢を見ています」
催眠ヒプノティズムか。お前は器用だよな」
「そこまで器用ではございません。催眠ヒプノティズムだけは昔から得意でしたので」
「それが器用だと言っているんだ」

 アララリンの使った魔法は幻影イリュージョンではない。
 幻影イリュージョンの効果はジルとシロに使った効果であっている。
 ただそれは夢の中。
 実際に使ったのは催眠ヒプノティズムだった。

「よくその魔法を何も言わずにできるな。仲間にしていてよかった」
「何を言っているんですか。この魔法があっても私は勝てません」
「……ふん」

「それでなぜこの子たちを生かすのですか?」
「俺たちがやることはさらうことだ。殺す数は少ない方がいい」
「ではなんでこんな大事なことをしてまで」
「大事にしないと俺たちが負ける」
「それほどの冒険者がいるのですか?」
「いや、大半はこの子供と同じ年だ。こいつら2人もその中に入る」
「この子たちが、ですか?」

 アララリンは不思議に思った。
 私でも簡単に魔法に引っかかったのに、なぜそこまで危険視するのか。
 なんならいますぐここで止めを刺せる。

「それに、特にこいつが成長した姿を見てみたい」
「たかだか人間、限度が知れています」
「ふっ、お前に言っても分からないか」

 アララリンはさらに不思議に思った。
 自分より強く、かっこよく尊敬するほどの者がこんな子供をほめている。
 私なんて眼中にないほどに。

「数はこいつらを含めあと2人を警戒しろ。1人はこいつらと同じぐらい、もう1人はもう少し小さい」
「こいつらより小さい子をですか!?」
「ああ、あとはここの校長だ。今は生徒たちを誘導している最中だろう」

 アメグラは何かを察知したのか、外が見える窓へと移動した。
 いまだに炎が燃え盛っている。

「俺が使った魔法を見ていろ」
「あの炎をですか?」
「ああ」

 二人は炎を見始めた。
 発動してから時間が経つものの、いまだに燃え盛っている。
 だが次の瞬間、その炎は消え去った。

「!? 何が起きたんですか!」
「消されたんだ。魔法陣ごとな」
「そんな馬鹿な!」

 魔法陣を消すなんてほぼ不可能に近い。
 防ぐとしたら大体上書きにして対処をする。
 それなのに消したとなると魔法陣を描いた者より上がいるということになる。

「ここにいないことを考えると魔法陣を消したのは子供2人か」
「ここにいる子供はおかしいです……」
「ああ、だが今は分かれている。2人動けない今がチャンスだ」

「ここへ来るまでも見つからなかった。あいつはどこにいるんだ?」
「今度は私が動きましょうか?」
「そうだな。お前のその姿なら紛れ込んで探せるだろう」
「かしこまりました。行ってまいります」

 アララリンは人間の姿に戻ると走って生徒たちがいるほうへ向かった。

「まさかここまで見つからないとはな。もしかして俺たちに気づいたのか?そんなわけないだろうが」
「何を話しているのー?」
「なっ――」
「だめだぞシロ、人が考えているときは声をかけると気が散っちゃうんだから」
「はーい!」

 アメグラが後ろを振り向くと先ほどまで寝ていたはずのジルとシロが起きていた。

「バカな!俺より下だが上位の悪魔の魔法だぞ!そんな易々と解けるはずがない!」
状態異常完全無効ノン・アブノーマルステイトって知っている?」
「日に一度しか使えない魔法、まさか!」
「そう、その魔法を使ったんだ」
「だがなぜ二人が起きている!」
「俺が起こしたんだ。なんか元々気づき始めていたけど。催眠だと分かれば起こすだけ、簡単でしょ?」

 簡単なわけがない。
 人が深い眠りにつくとなかなか起きないようにこの魔法で眠らされたらなかなか起きない。

「……化け物どもが」
「化け物に化け物とはねー。まあ話は聞いたからあとは倒すだけだ」
「俺を倒すだと?黙って聞いていれば!」
「あ、あれ?さっきと全然違くね?」

 先ほどは悪魔と言ってもほぼ人間の姿のままだった。
 だが今は全然違う様に変わってきている。

「変更だ、お前たちは今のうちに潰しておく」
「怒ると全然変わるとかずるいだろ!」

 そこには絶望を与えるほどの悪魔がいた。
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